危険なキス
ギュッと抱きしめられてこれ程までに安心できる人がいただろうか?
「しつちょ、」
「もう大丈夫だ、安心しろ」
怖くて震える私の身体を温めるように私に触れるリヴァイ室長の胸に顔を埋めると、雨でいつもの紅茶の香りすらなくなっていた。
「名前、このままじゃ風邪を引く。…俺の家に来い、後は俺が引き受けるから。だが一つやる事がある。お前は俺の後ろに隠れていろ、いいな」
その後はあまりよく覚えていない。
だって、リヴァイ室長が言う言葉に首を縦か横にフルだけだった。一度だけ…私を追いかけた男がどいつか聞かれて答えたけど、それ以外はずっとリヴァイ室長の温もりに包まれていたから。
鉄道警察に着き出そうとしたけど、慌てて逃げて行くソイツを警察は追いかけたけれど、その騒動に紛れてリヴァイ室長は私をこの場所から連れ出してくれた。
タクシーで移動する時もずっと私の手を握ってくれているリヴァイ室長。
こんなにも、安心できる温もりがあるなんて、
ーー知りたくなかったかも。
「先にシャワー浴びてこい。」
自分の方がよっぽどびしょ濡れだった癖に、そんなリヴァイ室長に抱きしめられていた私もだいぶびしょ濡れだった。
タクシー会社にはいい迷惑な客だよね、これじゃあ。
「室長は?」
「後でいい」
「でも、」
「ガキが、人の心配してんじゃねぇ。俺は構わねぇからさっさと入ってこい」
「…はい」
クシャって髪を撫でるリヴァイ室長に甘えて私は吃驚するくらい間取りの広いお風呂場に押し込まれた。
湯船にお湯を溜めてゆっくり温まってから出るとリヴァイ室長が紅茶を私に差し出した。
「飲め。うめぇから」
「はい」
「俺も入ってくるから適当に寛いどけ」
「はい」
大股で歩いて行くリヴァイ室長の後ろ姿に私は「待って、」気づくとそう声をかけていて。足を止めたリヴァイ室長がゆっくりとこちらを振り返る。
「名前?」
「…なんでも、ないです」
言えない、一人にしないでなんて。まだ怖いよ、なんて。じっと私を食い入るように見ているリヴァイ室長は、ゆっくりと戻ってきてポンと一つ頭を撫でた。
「怖いのか?」
どうして分かるんだろうか?何も言ってないのに。
顔に、出てるの?
コクリと頷くと「素直だな。」ほんのり口端を緩めるとそのまま私を抱き寄せた。
背中にあった手が私の頬を掠めるのと同時、リヴァイ室長の甘ったるい紅茶味のキスがふわりと落ちた。
「ンッ、」
壁にトンと背中をついて私の開いた口に舌を入れ込んだリヴァイ室長は、ゆっくりと味わうように口内を舌で舐めとる。歯列をなぞるそれも零れる唾液もまるで媚薬のように身体を熱くする。危険だと分かっているけど、リヴァイ室長のキスは止められない。唇が覚えている、この心地良さを。
そして、唇が求めている、もっと濃厚なキスをーー
言えないけど、そんなこと。
「やっぱ好きだろ、俺にキスされんの」
クッと喉を鳴らして笑ったリヴァイ室長は、名残惜しく舌を抜くと、私の頬を指でなぞってお風呂場へと移動した。
心臓が笑えるくらいドキドキしていて、ほんの数分前まであった恐怖はもう、消えていたなんて。