恋愛下手なモテ男
黒い四駆のベンツ。
社員駐車場に似つかわしく無い高級車の鍵をピッと開けると早々に運転席に入り込むリヴァイ室長。
「すごー。ベンツ乗るの初めてです私!」
「オイ、小便垂れんなよ。」
「…室長って、下品ですよね。」
「は?てめぇ、」
「安心してください、小便垂れませんので!」
ニコッと笑うとリヴァイ室長が呆気に取られたような顔で表情を歪めた。お決まりの舌打ちもされたけどそれ程気にならない。口が悪くともリヴァイ室長が私の仕事をちゃんと見てくれたのは事実であって、もしかしたらこの人は物凄く不器用な人なんじゃないかって思えたなんて。
「室長、すごい失礼なこと聞いてもいいですか?」
「さっきから既に十分失礼なこと言ってんだろが。なんだよ今更、」
もちろん前を向いていて視線なんて飛んではこない。そして煙草を吸いたそうにハンドルの上で指をトントンとしているのがほんの少し可愛く思える。
「じゃあ失礼ながら。リヴァイ室長ってすごいモテるけど、女と続かない!!当たり?」
…ほんの一瞬リヴァイ室長の目が大きく見開いた。でも次の瞬間、超絶据わった目で大きな舌打ちがくだる。
「てめぇ、ぶっ殺されてぇようだな。」
「嫌ですよ。まだ死にたくないです。怒ってるってことは図星ですか?」
ちょっと半笑いでリヴァイ室長を見ると、綺麗な横顔が完全に怒っている。ちょうど赤信号になってブレーキをかけた室長が盛大な溜め息をつくと、漸く視線をこちらに向けてくれた。その目は完全にイラついているのが分かる。
「好きだのなんだの言ってくるから付き合うが結局みんな離れていく。ただそれだけの事だ。」
思ったより素直に自分のことを話すリヴァイ室長に内心爆笑だけれど、実際そんな事したら今ここで降りろ!なんて言われそうで止めた。
ハンドルに身体をもたれてこちらを向く室長が子供みたいに可愛くて、つい私は手を伸ばしてリヴァイ室長の真っ黒でサラサラな髪をスッと一撫でしてしまう。
三白眼を大きく見開いたリヴァイ室長は私を真っ直ぐに見つめたまま固まっていて、不意に後ろからプップーと鳴らされてハッと前を向くと信号は青に変わっていた。
「すみません、あまりに室長が素直で可愛かったので、つい。」
私の言葉に無言で顔ごと逸らされる。
「リヴァイ室長って、もっとクールだと思ってましたけど、いがいと普通なんですね!みんなの前でもそーすればいいのに。」
「オイ、調子にのってんじゃねぇ。」
「女と続かないのは、室長が放っておくからですよね?仕事と私とどっちが大事なの?とかよく言われませんでした?」
「…お前、ガキのくせになんで分かんだ?」
さも馬鹿にしたように言うけど、私ガキじゃないし。そりゃリヴァイ室長から見たらガキも同然かもしれないけど…
「セックスすればいいだけだと思ったら女は逃げていきますよ。愛を感じられないと、女は色々不安になるんです。リヴァイ室長みたいにモテる男は特に。きっと最初はみんな優越感のが大きくて一緒にいるんだと思います。でも実際付き合うと、忙しくて会う暇ないし、連絡もろくに寄越さない!そうやっているうちに、女なんて近くにいる優しい男を選ぶ生き物です。」
「ほう。なるほど。」
「あは、納得!きっとね、リヴァイ室長は本気で女を好きになった事がないんでしょう?何が何でも手に入れたい女ができたら、私協力しますので、いつでも言ってくださいね!」
さすがに怒る?こんな年下の新社の女に言われ放題で黙ってる男ではない?内心ドキドキしながらリヴァイ室長を見ると、まだ私を見ていて。
その目は何を考えているのかさっぱり読めない。
「別に今は女なんていらねぇよ。お前もくだらねぇ恋愛より仕事をやれ。悪いがリヴァイ班にいる限り、恋愛してる暇はねぇぞ。」
「…でもリヴァイ室長、恋愛は時に物凄いパワーになりますよ?」
「…知らねぇよ。クソガキ、ほらお前ん家までもう少しだ。」
そう言うとリヴァイ室長は何故か車の運転ペースを落とした。角を曲がって数百メートル行った先のT持路を右に曲がれば私の住むコーポが見える。
ゆっくりと進むベンツが音もさせずに止まった。
「ありがとうございました、送って下さって。」
「構わねぇ気にすんな。どの道通り道だ。」
「じゃあまた終電なくなったらお願いします!」
「ふざけんなよ、クソガキ。調子にのんな。」
「ふふ、冗談です。あれ、待ってこれ取れません室長、」
シートベルトが固くてカチャカチャやっているけど取れなくて。そもそもこれを嵌める時もめちゃくちゃ固かった訳で。
リヴァイ室長がチッと舌打ちをすると「助手席に人乗せんの初めてだったからな、悪りィ、動くな外してやる。」ふわりと黒髪が頬を掠めたのはリヴァイ室長が覆い被さるようにして私の反対側のリードを引っ張ったからで。すぐにカチャンとベルトが外れた。
トクンとほんの一瞬胸が鳴ったのはきっとリヴァイ室長がいい匂いだったからだ。
「おやすみなさい。」
「あぁ、ゆっくり休め。」
ドアを開けて車から降りると、リヴァイ室長のベンツがまた音もなく動き出した。