上書きされていく時

カツンとパンプスのヒールを鳴らしてコーポの外階段を上がると玄関の前、「アルミン!?」こっちを見てちょっと動揺した表情のアルミンがいて。

「え、どうして?あ、LINE、見てなかった、ごめんね。」

リヴァイ室長に無理くり連れて行かれてそのままアルミンからきたLINEも見ずに仕事をしていたんだった。鍵を開けようとした私にギュッと抱きつくアルミン。

「どしたの?アルミン?」
「さっきの、誰?」

くぐもった声でそう聞かれた。もしかして、見てた?
私の背中に腕を回して隙間なんてないってくらいアルミンに抱きしめられて胸の奥がキュンとする。やっぱり私はモテ男リヴァイ室長よりも、可愛らしいアルミンの方が好きだ。それは儚くも恋ではないけれど。

「リヴァイ室長。私の企画書見てくれてて。終電なくなっちゃったからって送ってくれただけだよ。」
「…そう。」

なんとなく、アルミンがまだ何か言いたげで。だってほら私を離さない。顎を隠すぐらいの金髪を軽く撫でると「…キス、していい?」耳元を掠めるアルミンの声にキョトンとしながらもコクリと頷くとちょっと噛み付くみたいなアルミンのキスが落ちた。
普段許可なんて取らないのにどうしたんだろう?なんて思っていたのはほんの一瞬で、アルミンがリップ音を鳴らして唇を舌で割って中に入り込んで、そんな気持ちは頭の中からすっかり消えた。
歯列をなぞるアルミンの舌使いに存分に舌を絡ませるとドアに背をつけてアルミンを受け止める私は、家の前だというのにそのまましばらくキスを止められなかった。






「やあやあ、名前ちゃんってのはどの子かい?」

数日後、企画課に入ってきた広報の確かハンジさん。リヴァイ室長と同期とかいってたかな。よくリヴァイ室長と一緒にいる所を見かけるけれど、部署が違うからこうして面と向かうのは初めてだった。
パソコンに向かって文字を打ち込んでいた私は名前を呼ばれて振り返る。
ハンジさんに呼ばれるような事しちゃった?…内心ドキドキしながら恐る恐る手を挙げようとすると、いつからいたんだろうか?リヴァイ室長が私の手をさり気なく下げた。それから耳元で小さく「無視しろ。」そう言われ…小さく頷くと「クソメガネ、何の用だ!」仁王立ちでズカズカと入ってくるハンジさんを止めた。
ハンジさんはリヴァイ室長をチラ見しただけでキョロキョロと辺りを見回している。

「オイ、クソメガネ、シカトすんじゃねぇ。てめぇがうちに何の用だと聞いてる。」

まるで私を隠すように前に立ちはだかるリヴァイ室長は、何故私を隠すのかも分からずそれでもハンジさんをこちらち来させないようにしているみたいだ。

「リヴァイ。あんたに用はないんだ。あたしは名前ちゃんに、」

そこまで言うと、小柄なリヴァイ室長の影から顔を見せたハンジさんと目が合った。途端に笑顔になってリヴァイ室長を腕で退かして私の前に姿を見せた。
パシッと手を掴まれて膝まづくハンジさんに苦笑い。

「きみが名前ちゃん、正解だな!?」
「…あの、えーっと、はい。」

さすがに誤魔化しはきかないと素直に返事をするとリヴァイ室長の舌打ちが届いた。
ニタァって顔を歪ませて私を上から下まで凝視するハンジさんはアルミンの直の上司だったはず。だからちょっと変わった人だって事は聞いて知ってはいる。うん…アルミンの言う通りかも。

「あの、私になにか?」
「あのリヴァイの助手席に乗った子の顔を見に来ただけだよ。ふふ、リヴァイ、あんた顔で選んでるんじゃあるまいな?」
「黙れクソメガネ。余計なこと言ってんじゃねぇぞ。」

何がどうなってんのよく分からないけれど、リヴァイ室長の助手席に乗るのがそれほど珍しい事なのかと思うけれど私の中であの日は、アルミンとの思い出に既に変わっている。

思い出なんてものは色濃い物で上書きされてゆくものであろうと。
けれど、続くハンジさんの言葉に時が止まったように思えた。

「あのリヴァイを本気で惚れさせるなんて、どんな手を使ったんだい?」



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