溜息のわけ

「はぁーッ…」

ダメだ。溜め息が止まらない。どうしたっていうんだ僕は。こんな事、初めっから分かっていたというのに。
最初からあの子と僕じゃ住む世界がちが、「よおアルミン!飲んでるか?」肩に回された腕とアルコール臭の強い息が鼻を掠めて僕は視線を向けた。
僕の幼馴染でもあるエレン・イェーガーが真っ赤な顔で酔っ払って絡んできた。いつもは嬉しいエレンとの交流も今に限ってはちょっとだけうっとおしく思えてしまうなんて。
頬杖をついてアルコール度数の弱いカクテルを飲んでいた僕の隣に胡座をかいて座ると、手にしていたジョッキビールをゴクゴクと飲み干した。
エレンは酒に飲まれるタイプだなぁなんて勝手に分析する。

「飲んでるよエレン。なんかいい事でもあった?」

心無しか機嫌よさげなエレンを見ると、大きな瞳を細くして笑う。そしてその視線の先は…「リヴァイ室長!こちらです!!!俺の親友のアルミンです!ほらアルミン、あのリヴァイ室長も今日は来てるんだ、挨拶しとけ!」…正直今一番会いたくない人が僕らの前に腰を下ろしてしまった。
僕を見るその瞳は何を考えているのかさっぱり読めないぐらいで、この前の出来事を脳内に思い浮かべてしまったなんて。

「おい、アルミン?」
「あ、うん。アルミン・アルレルトです。はじ、め、まし、て。」

僕をジロッと見た後、「初めましての顔じゃなさげだな。リヴァイだ。よろしく。」それでもこの人は大人で新社の僕にもまともに挨拶をしてくれた。

その後はひたすらエレンとリヴァイ室長が仕事の話をしていて、僕はそれを聞いてるフリして聞いてなかった。だけどその時は訪れたんだ、僕らの上司であるハンジさんがこの席に到着したことで。

「あれ!?なんでリヴァイがいんのさ?」

エレンの真ん前、リヴァイ室長の姿を見つけたハンジさんが室長の隣にストンと座るとチッと舌打ちがして「うるせえクソメガネが来ちまったじゃねぇか、」なんて言う。でもハンジさんはそんなことは気にしていないというか、どーでもよかったのか、とりあえずその辺にあった誰のものかも分からないジョッキビールをぐびぐびと飲み干したんだ。それを見たリヴァイ室長はあからさまに顔を顰めた。そういや噂によるとこの人は相当の潔癖症だって。ビールの回し飲みなんて以ての外、家にも誰も入った事がないって、

ーーえ、おかしくない?
じゃあなんであの日、名前はこの人の車に乗れたの?

トクンと胸が大きく脈打つのが分かった。
黙っていれば傷つかないかもしれない。でも男として、黙っているなんてできそうもなく…

「あの、リヴァイ室長!!」

気づいたら僕は身体を前のめりにしてそう声をかけていたんだ。

「あ?なんだ。」

真っ直ぐに射抜くような視線を飛ばされて怯みそうになる自分を振るい立たせた僕は、負けずと強い視線をリヴァイ室長に飛ばす。
勿論ながら隣にいるエレンもキョトンとしている。今までずっと黙っていた僕が急に話しかけているのだから。

「アルミン?どうした?」
「リヴァイ室長は、何故名前を車に乗せたんですか?」

まるでエレンの声を遮るようにそう口にすると、斜め前のリヴァイ室長の目付きがほんの一瞬変わった気がした。
だけど、僕の質問に答えたのはリヴァイ室長ではなくハンジさんで。
目を大きく見開いてニタァと笑うと「なになに、なにその素敵な話!!リヴァイが女を車に乗せた!?アルミンそれが本当ならそりゃ大変だ!」…めちゃくちゃ面白いもん見つけた!って顔でハンジさんがリヴァイ室長に詰め寄った。
チッと舌打ちの後、リヴァイ室長は熱燗をグビッと飲み干した。

「オイ、ガキ。何が言いてぇんだ?」

ジロリと本気で睨みつけられて内心震えそう。でもここで引けない。だって僕は、

「降りる時、キスなんてしてないですよね?」

僕にはそう見えてしまったから。名前の家の前で待っていた僕は車が止まったのが見えて、運転席の人が誰かは見えなかったけど、それでも降りる寸前…二人の影が重なったのは確かに見た。目がいい僕には2階からでも十分に見えたんだよ。

「リヴァイあんた!!!キスなんてしたのっ!?」
「するわけねぇだろ!てめぇあん時アイツの側にいたのか?」
「いましたよ僕は。名前の家の前に。そのまま名前の部屋に泊まりましたから!!!」

つい、売り言葉に買い言葉で、部署が違うとはいえ、目上の人に向かってそんな喧嘩売るような言葉を言い放ってしまった。