勝てない相手
「はあ!?アルミンと名前が!?おいアルミンお前何言ってんだ!?頭おかしくなったのか!?」
「リヴァイ答えなさいよ!あんたキス、」
「黙れ!!クソ豚野郎共!どいつもこいつも小便垂れ流してんじゃねぇぞ。」
ダンっとテーブルを叩いたリヴァイ室長はそう言うと立ち上がってくるりと踵を返すとこの場から去って行ってしまう。シーンと静まり返った飲み屋の一室。最初に声を出しのはハンジさんだった。
「アルミン。ありゃ本気かもしれないな、リヴァイの奴。あんたの好きな女、リヴァイに取られないように頑張れよ。まぁあたしができる事は何も無いが。」
慰めにもならない言葉と共に喝なのか、それともただ叩かれただけなのか、僕の背中にハンジさんの平手がパシンと入った。
…最悪だ。これじゃあ何も解決しない。
現時点で名前がリヴァイ室長を好きなのか?も分からず。いやでも好きだったら僕とあーいう事はしないと思うし。でもだからと言ってこの不確かな関係に終わりがいつ来るのかも僕には分かっていない。
ただ一つ言えるのは、僕が名前を本気で好きだということだけ。最も名前にそれが伝わってなんていないけど。弱虫な僕は自分の心の奥底にある本音を名前に出せやしないんだ。ただこのいつ終わってもいい未来のない関係だけを繋ぎ止めておきたくてもがくしかないのかもしれない。
「それで、その名前ちゃんとやらとアルミンは一体どういう関係なんだい?」
「…え?あの、」
「聞いてやるよあたしが、リヴァイの代わりに。」
まるで蛇に睨まれた蛙の如く、ハンジさんから逃げる術を探すものの何も出て来やしない。
ポリっと頬をかく僕をエレンは気まずそうに見つめている。
「どうって、勝手な僕の片想い…それだけです。」
「それだけで部屋に泊まるのかい?」
「あ、いや、それはなんていうか、」
借りてきた猫みたいに大人しくなる僕は自分でも分かるくらいに顔に身体中の血液が集中していて。きっと真っ赤になっているんだと思う。
そしてこんな事実を知らずにいたエレンは、この手の話は疎いけれどさすがに少し困った顔を見せている。僕のそんな話をエレンが聞きたいわけが無いし、ましてや知りたいなんてこともあるわけない。
できるのなら、ずっと僕と名前だけの秘密にしておきたい。こんな事実を他人に話したくはない。むしろ引き合いに出すなんて以ての外。
でも相手があのリヴァイ室長となればどんな手を使ってでも名前を渡したくないなんて。あの人が本気になったら僕がどんなに名前を縛り付けておいても、きっとすぐに離れてしまうんだろう…と。
「そ、それより、教えてください。僕がリヴァイ室長に勝てる方法を!僕はどうしても名前を誰にも渡したくないんです!」
よく言った!それでこそ男だ!!なんてハンジさんは言ってくれたものの、結局どれだけ時間が経ってもハンジさんの言葉に僕が勝てる方法は見つけられなかった。
お開きの後、すっかり酔いの醒めたエレンは、逆にいい感じに酔っている僕と二人、夜道を歩いていた。
そして二人きりな事をいい事に「アルミン、」小さく名前を呼ばれる。残念ながらエレンが僕に何を言おうとしているのか分かってしまう。その瞳を見れば。一つ息を吐き出した僕は「話すよ、全部。」あの日の名前との事をエレンに話し始めたんだ。
先輩たちに童貞だとからかわれて恥ずかしかったこと。それを名前が全部見ていて、酔い潰れた僕をラブホに連れて行った名前が優しく僕に言ってくれたこと。
「アルミン、童貞捨てたい?」
例えばお酒に酔い潰れていたとしても、僕は相手が名前じゃなかったらそんな誘いにはのっていない。そして名前の言葉は全部僕の為に言ってくれたんだと分かったから。
最初から好きだった、名前の事が、だから我慢ができなかった。抑えがきかなかった…
セックスに対する興味よりも僕は名前を僕だけのものにしたかったんだ。
「馬鹿だなアルミン。」
全部を聞き終えたエレンは少し切な気にそう言った。いつもミカサが傍にいるエレンにはこんな僕の気持ちは分からないかもしれないけれど。
救われたんだあの時僕は。身も心も名前に捧げた事で、こんなにも気持ちが大きくも楽になる事があるなんて。
でもそれは単なる始まりに過ぎなくて。
それ以降、僕は名前を繋ぎ止めておく事に必死だった。