10年後の今

「え、取り壊し?」

「そう。てゆうか奈々、杏寿郎のFacebook見てないの?」

「あーFacebookね、うん、見てないかな」

頬杖をついて笑う彼女、行沢奈々。そんな奈々の向かい側でパスタを頬張る新城ゆきみ。二人は唯一無二の親友で、高校の時の同級生だ。思い出したようにスマホを手に取れば、今更って感じにFacebookのアイコンを奈々がポチッと押した。途端に眉間に皺を寄せた奈々は、苦笑いで続ける。

しばらくログインしてなかったから、パスワード入力って出ちゃった。…なんだったっけなぁ〜」

外見こそめちゃくちゃお洒落な奈々は、パティシエとして地元のケーキ屋で毎日ケーキを作っている。とは言え、美容師への夢を諦めた後に、思いついたように専門学校に行き資格をとっての今なので、絶賛修行中だった。それでも地元のケーキ屋にいるという事もあり、月に2回はこうしてゆきみの最寄り駅前にあるイタリアンレストランで定例会なるガールズトークを繰り広げていた。高校を卒業してからしばらく経つけれど、二人の時間は今も変わらず続いている。今風に見える奈々だけれど、その中身はなんというか、機械にうとく、わりと男っぽいサバサバした性格である。三人兄弟の真ん中で兄と弟に挟まれた奈々は、断固として自分の意見をハッキリという性格である。関西人でもないのに家電を買う時は絶対に値引き交渉をするという外見からは想像もつかない美女なのである。

「これ、ここ」

仕方ないなぁ〜とゆきみは自分のスマホでFacebookを開くと、煉獄杏寿郎という名前を押して画面を奈々に見せた。二人で覗き込むその画面には同級生の煉獄杏寿郎が写っていて…

「杏寿郎、全然変わってない!あのまんまじゃん!」

彼の文章よりも先にそこに目がいくのも仕方がない。この界隈の地主である煉獄家に産まれてくる子は代々金色の髪で、同級生の彼もその一人だった。大きなギョリロリとした目と由緒正しい立ち振る舞い。煉獄家の跡取りとして今彼はキメツ学園の歴史教師をしている。忘れもしない二人が青春を謳歌したキメツ学園で。

「ある意味すごいよね。わたし達もう27なのに。10年も経ってるのにねぇ」

時が経つのは早い。高校を卒業してから仲の良かった同級生と会う事も段々と少なくなり、気づけばゆきみは奈々と会う以外、他の人との連絡を一切取っていなかった。とはいえ、こうして今はSNSというツールがあり、キメツ学園の教師である杏寿郎はよくこのFacebookを更新していた。だからゆきみもそれをよく覗いていたら、自分達の過ごした生徒会室のある旧校舎がこの夏、取り壊されるという事が書かれていて…それを先程奈々に伝えた所であった。

「うん。みんな元気かな…」

お決まりのピーチティーの入ったコップをストローでかき混ぜた奈々はほんのり口元に浮かべた笑みを零す。その瞳の先に誰を思い浮かべているのかなんて言葉にしなくとも分かる。

「天元とは会ってないの?」

小さくそう聞くと奈々は首を横に振る。それから大きな瞳をゆきみに向けてニッコリと微笑んで続けた。

「ゆきみは?実弥と会ってないの?」

聞きなれたその名前。何度そう呼んだだろうか。
けれど、その答えは3秒前の奈々と同じだ。同じ様に首を横に振るゆきみを見て奈々のその愛らしい唇がまた小さく開いた。

「あんなにラブラブだったのにねぇ、ゆきみ達」

「奈々達だって!」

「…戻りたいなぁあの頃に」

決して戻る事などできない青春の輝いた日々。
目の前で物思いにふける奈々も、10年前よりずっと大人の顔付きで、今の奈々の人生を歩いている。ゆきみも同じだ。あの頃感じていた物を忘れたわけでない。けれどもあの頃と同じ様には生きていない。
見るもの全てが色付いていたあの頃。毎日が楽しかった。毎日が愛おしかった。どれだけ願っても戻れないその日は、二人にとってかけがえのない青春の一ページの始まりだったであろう…。