実弥先生
「ゆきみ」
ホームルーム終了の鐘が鳴って数分後、実弥がゆきみのクラスにカラカラと上履きを鳴らして入って来た。まだ教室内に残っていた数名の生徒たちが強面の実弥を見てギョッと固まる。そんな彼女達の前を通ってゆきみは実弥の所に駆け寄ると「行くかァ」そう言って歩き出す。
「ゆきみちゃんバイバイ」
それでも彼女達の声掛けにゆきみは笑顔で手を振ると実弥の隣に並んだ。そのまま実弥の腕を掴んで歩くゆきみに、何も言わずに下駄箱まで行くとちょうど義勇がローファーをポコンと落とした所に出食わせた。途端に実弥の顔が険悪になるけど、あえて義勇に気付かぬ振りをしている。
「新城と不死川。2人一緒に帰るのか?」
視線を向ける義勇にチッと舌打ちをすると「冨岡には関係ねェ」ピシャリと言う。けれど義勇の視線は実弥ではなくゆきみを捉えていて…
「あ、えーっと、うん。実弥に数学教えて貰おうと思って」
「いいから行くぞォ」
義勇にも笑顔を振りまくゆきみの腕を掴むと、少し強引に歩き出す実弥。ゆきみは振り返って「冨岡くんまたね」手を振ると、実弥に続いて外階段を降りる。
「なんでそんなに嫌いなの?冨岡くんのこと」
「考えたことねぇよ。考え方も何もかもが合わねぇんだろ」
「そうなのかぁ。でもせっかく同じ生徒会なんだからもうちょっと仲良くしたらいいのに」
ゆきみの言葉に無言で籠の中にあった座布団を後部座席に引くと、ポンと一つそこに手を乗せる。何も言わずに後ろに乗せてくれる実弥に胸がキュンと音を立てた。
「一つ言っておくが、うちは下に弟も妹もいるから奴らが帰ってきたら邪魔しに来るかもしれねぇ。今は保育園だからいねぇが…」
「賑やかそう。うちはお姉ちゃんだけだから弟や妹がいるのって羨ましいなぁ」
「騒がしいだけだァ。しっかり捕まれよ」
「うん」
安全運転で不死川家までの道のりを自転車で漕いでくれる実弥の背中にキュッと抱きつくゆきみは、ある程度の覚悟を決めて、実弥の家へと
「お邪魔します」
「なんか飲み物持ってく。2階の突き当たりだ、適当に
「うん」
トコトコと階段をあがって2階の突き当たり、実弥の部屋のドアを開けると、シンプルな白い壁に黒いベッド。勉強机はなく、丸いテーブルが部屋の真ん中に置かれていて、クッションが2つ用意されていた。窓際には「あ、この子…」実弥のLINEのアイコンになっているカブト虫が虫かごの中に入っている。
「本当にペットなんだね」
クスリと笑ってゆきみはクッションの上に腰を下ろした。すぐにドカドカと聞こえる足音に視線を向けるとアップルジュースの入ったコップを持って入って来た。
「いつも飲んでるからこれでいいな」
学校の自販機でよく見るそれにゆきみはコクリと頷くと
「実弥先生、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるゆきみに、実弥はネクタイを片手でスルスルと外すとドスッとゆきみの隣に腰を下ろす。至近距離で目が合ってドキっとするも、視線をノートに移した実弥は「これ解いてみろ」トンと問題を指差すとアップルジュースを一口ゴクリと飲み込んだ。