アップルジュース


「休憩するかァ」

勉強を初めてから約1時間が過ぎた頃、足を崩した実弥がそう言った。そう言えば帰り際に買ってきたマックが既に冷めてしまっているだろうけどそれを袋から出してテーブルに並べる。
ここに来た時はまだゆきみは緊張のせいかお腹が空いていなかったからと食べずにいたけれど、人間の集中力なんてそうは持たない。
期間限定のチーズてりたまバーガーを手にしたゆきみは、めちゃくちゃ食べずらいそれに別のを買えばよかったと軽く後悔したなんて。そんな事気にもせず普通のてりたまバーガーと、ビックマックの2つをペロリと食べきる実弥は、サイドメニューのポテトもパクパクと胃に流し込んでいく。先端にケチャップをつけたポテトを実弥の口元に持っていくと、それもパクリと口に含んだ。
だからまたケチャップ付きのポテトを実弥の口に持っていく。するとまた食べて…もう一度ゆきみがポテトにケチャップを付けた時、実弥の手がゆきみの手に重なる。

「食わねぇのか?」

「食べるよ」

フッて鼻で笑った実弥はゆきみの指からポテトを奪い取ると今度は実弥がゆきみの口元にポテトを差し出す。アーンと実弥の口が言うもんだから余計に恥ずかしくなって首を振ると何を思ったのか実弥はそのポテトを口に加えてあろう事か、ゆきみの前に顔を寄せる。

「実弥、ちょっと」

クイッて人差し指でゆきみの顎に触れて視線を絡ませる実弥の表情は楽しそうで…丸テーブルの上、ゆきみの手をキュッと握りしめる実弥にゆきみはゴクリと唾を飲み込んで実弥とは反対側、ポテトの先端を口に含んだ。ド至近距離で実弥と目が合って心拍数が最高潮上がっていく。一口ゆきみがかじるともう実弥の唇がくっついてしまいそうで、羞恥心に耐えきれずそのまま実弥から顔を離す。
どうしようもなく胸が痛くて…「好き」でも「付き合おう」でもないこんな馬鹿げたキスに、それでも心は浮かれそうでそんな自分が嫌で俯いた。

「ゆきみ」

「…うん」

「悪かった、やり過ぎた、すまねェ」

頭を下げる実弥にコクっと頷く。

「実弥は、誰でもこーゆー事するの?」

「は?しねェよ」

「じゃあなに?ゆきみは特別?」

「…あァそうだ」

「特別の意味は?」

「まぁそりゃそーか。順番もなにもあったもんじゃねぇなァ、悪い。ーーゆきみが好きだ。俺の女になれよ?」

ーー俺の女、その響きがしこたまカッコよくて、大好きな実弥にそれを言われたゆきみの返事なんて最初から決まっている。

「わたしも好き。実弥が好き。実弥の女になるっ」

クッと喉の奥を鳴らして笑う実弥の腕がゆきみの肩に回されて、気づくと実弥がもうそこにいて、そっと目を閉じるゆきみに、実弥の温もりがゆっくりと落ちた。

「芋の味じゃねぇかァ」

「アップルジュースに変える?」

コトッとテーブルのコップを取ってそれを一口飲むゆきみに、またすぐに唇を重ねた。そのままベッドの下、ラグマットの上に実弥がゆきみを押し倒す。
顔の横に腕を着いて見下ろす実弥が小さく言う。

「…なんか、止まんねェ」

頬を紅く染めた実弥がゆきみの唇をペロリと舐めると、ゾクッと身体を震わせる。

「…怖えェ?」

「怖くない」

「上等だァ」

喉を鳴らして笑った実弥は、ゆきみの上に体重を乗せると、アップルジュース味の舌をニュルりと入れ込んで唇を重ねる。服が擦れる音と時計の秒針が時を刻む音に紛れて、2人の甘い吐息も緩りと溶けていく…