運命のカード


「なんだァこれ…」

放課後、生徒会室の机の上に広げた紙を数枚取ってそんな言葉を吐いた実弥。無造作に伸びた銀髪の下、子供の頃の怪我なのか、顔についた傷は今も残っている。そのせいもあるし、元々目つきの悪いこの不死川実弥は、ほとんどの人に怖がられていた。

「何って、林檎と苺とバナナ」

「全部食いもんかよ」

フッて目を細めて笑う実弥にゆきみはポカンと口を開いた。ドカッと肩に掛けていたリュックを窓際の机に置くと、椅子を引いてゆきみの隣に座る。伸ばした手が机の上に転がっているマーカーを握り散らばっている紙を引き寄せて、そこに絵を描き出した。

「え、なにそれ?」

「てめぇこれはおはぎだ!」

ドヤ顔でそう言う実弥だけれど、紙に描かれたのは黒く塗りつぶした丸いもの。とてもじゃないけど分からない、おはぎだと。おはぎと言われたところで分からない、正直なところ。それでも実弥は綺麗に塗りたくって満足気に頷いている。
そんな実弥の横でブブブブブッと、堪えきれず笑いを零すゆきみ。だからすぐに実弥の視線が飛んできてゆきみを睨みつける。

「あァ文句あんのかァ」

「ぶぶっ、いやなんかもう、文句というかなんというか…好きなの?おはぎ」

「…悪りぃかよォ」

「へぇ、甘党なんだ不死川くん」

「お袋がよく作ってくれたんだ」

そう言えば、実弥の家は共働きで、長男だっていう彼には幼い弟と妹が沢山いると聞いたことがある。その顔で母との思い出を語る実弥にゆきみは微笑ましくも胸が熱くなるのを感じていた。

「そっか。じゃあこれも使おう!せっかくのおはぎだもん!きっと、運命のカードになるよ、これ!ね!」

イシシシシ〜と歯を見せて笑うゆきみに、実弥もまたトクンと胸を弾ませたであろう。

「…手伝う」

そう言った実弥は、またマーカーで紙に絵を描き出した。
その日以降、生徒会室に他の役員が来る前にこうしてゆきみと実弥は早めに来てそれぞれの話をするようになったんだ。


「いやぁあ悪りぃ、悪りぃ、まーた呼び出されちまって」

頭に手を当てて満面の笑みで生徒会室のドアを開けた天元。ここんとこわりとよく呼び出されたと言って遅れてくる天元に杏寿郎は小さく溜息を着く。

「宇髄、風紀を乱すではない。生徒会役員たるもの時間は厳守して欲しいものだ」

「わーってる、わーってるよお!けどよぉ、女に告られちまうんだから仕方なくねぇかあ」

「宇髄くんそれ自慢?」

奈々が苦笑いで隣に座った天元を見ると、物凄い顔をしかめて首を横に振った。そしてガバリと小柄で華奢な奈々の肩に腕を回すとニカッと白い歯を見せて言った。

「天元でいいよ、奈々。女に宇髄って呼ばれっと痒くなんだー俺。ゆきみも、そうしてくれ」

「分かったから、腕離してー重たい」

首がもげそうになっている奈々を天元から剥がした義勇は「酒でも飲んでるのか、宇髄」なんてご冗談を。
口数少ない冨岡義勇は黙っていれば美顔の為目の保養にと彼を見る人はとても多い。ーーだからといって女子から圧倒的に人気があるというわけでもなかった。
的外れな言葉だったり行動だったりが、彼を残念なキャラに仕立てあげていて…なんとも勿体ない。それでもこの難関を超えて生徒会役員に選ばれたのは、単にそれだけ顔がいいからだと言われている。

「行沢、大丈夫か」

「うん、ありがとう冨岡くん」

「いや」

これで天元のようにチャラかったらそれはそれでまた残念になってしまうのかもしれないが。