恋バナ
胸きゅんが恋に変わるのに時間は必要なかった。
「ねぇ奈々、不死川くんってさ、彼女いるのかなぁ」
授業が終わると体育祭までは毎日生徒会室に行ってみんなで喋ったり色々作ったりしていた。ゆきみの心に芽生えた実弥への恋心。それを奈々にだけは話そうと思いきってそう言うと、嬉しそうに奈々が笑った。
「ゆきみ〜!実はそうじゃないのかなぁ〜って思ってたんだ!でもそーゆうの聞かれるの好きじゃないかもって思って、ゆきみが言ってくれるの待ってたよー。もうもう、やっと言ったな!」
嬉しそうな奈々の笑顔にゆきみはホッと胸を撫で下ろしつつ笑顔を見せた。
そして恋とは、誰かに話すことで大きくなるものである。
「奈々〜ありがとぉ!なんかめっちゃ気になってて、もうどーしようって」
「うーん。聞いた事ないけどねぇ」
「興味無いだけじゃなくて?」
「あ、そうかも!!でもそれとなーく聞いてみたら?」
奈々が嬉しそうに微笑んでそう言うけど、聞けるのだろうか。ゆきみがほんのり眉毛を下げた所でガラッと生徒会室のドアが開き、いつものみんなが揃って入って来た。途端にドクンとゆきみの心臓が脈打ったのはそこに実弥の姿を見たからだ。
「なァ煉獄、これだとボンボン作るテープ足りなくねぇかァ」
「ああそうだ、先程悲鳴嶼先生に許可を貰ってきてな。下のカインズまで買出しに行く事になった。誰か買ってきてくれぬか」
応援合戦に使うテープで作るボンボンが圧倒的に少なく、急遽買出しに行く事になった生徒会。杏寿郎は予めその許可を顧問の悲鳴嶼先生に貰い、お金の入った封筒を実弥が不意に取った。
「俺が行く、」
それから視線をゆきみに向けると「新城も一緒に来い」ボソリと呟いた。途端にゆきみは笑顔で「うん!一緒に行く!」そう言って立ち上がる。
「なら俺も」
「冨岡くんは、こっち手伝って!買出しはゆきみと不死川君2人でお願い!」
着いていこうとした義勇の腕を掴んで引き寄せる奈々に、ゆきみは心の中でありがとうを伝える。何より、実弥自身がゆきみを指名してくれた事がこんなにも嬉しいなんて。そしてそれを自分の事のように喜んでくれる奈々に、ゆきみはとても熱いものを感じていた。
スマホと財布を持ったゆきみと実弥が出て行くとつい頬が緩む奈々は、鼻歌を歌いながらもボンボンのテープを裂いていく。そんな奈々の隣に座った天元は「なに?ゆきみって不死川のこと好きなの?」…まさかの言葉に奈々は苦笑い。勿論ながらここには杏寿郎も義勇もいて、その視線が一気に奈々を捉える。
これはヤバイと視線を逸らすも、みんなジーッと奈々の次の言葉を待っている。
「そうなのか?新城は不死川を好きなのか?」
信じられないという表情で、普段冷静な義勇すら驚いている。
「…不死川はああ見えて女子に優しい所もあるからな。俺たちがここに来る前にあの2人は早く来て作業をする事も多かったし、そんな恋も芽生えたのだろうか」
杏寿郎が天元とは反対側に座り奈々を囲むように義勇も正面に座った。逃げられないと思うも、ゆきみの気持ちを勝手に他人に伝えるなんて
「あーと、あたし飲み物買ってくる!みんな何飲む?」
エコバックを手に立ち上がると先程のゆきみ達と同様、財布とスマホを手に生徒会室のドアへと歩く。
「俺も行くよ、お前らコーラでいいな」
無理くり天元に押し出されるようにして生徒会室を出ると小さく息を吐き出した。
「もう天元、余計なこと言わないでよ〜」
「はは、悪りぃ悪りぃ。けどあのゆきみが不死川をねぇ…。俺たち2人でくっつけてやろーぜアイツら。まぁ言っても不死川がゆきみを誘った時点で付き合うのも時間の問題かも知れねぇけど」
奈々の背中を軽く押すように自販機まで誘導する天元からは、香水なのかなんなのかとてもいい匂いがする。男のくせに女子力高いなぁ〜なんて思いながらも奈々はその天元の手の温もりがあまりに自然でそれを突っ込む事もなく2人で廊下を歩いてゆく。すれ違う女子がそんな2人を羨ましそうに見ているとも知らずに。