撃 退



「困ったなぁ」

生徒会室で小さく溜息を零す奈々。最もその声はあまりに小さすぎて誰の耳にも入っていない。助けを求めるその言葉だけれど、それで誰かに迷惑をかけるのが嫌だった。
だけれどーーガラリと開いた生徒会室のドア。日直の仕事で遅れていたゆきみが入ってくるなり奈々に視線を向ける。

「またアイツ来てたの?」

そんな言葉に視線が奈々に集中する。苦笑いでなんて事ないって首を横に振る奈々に杏寿郎が「どうかしたのか、行沢」口を閉ざす事をさせまいとそんな言葉が飛んだ。

「なんだあ!?揉め事か?」

隣の天元までもが奈々の方へ身体を寄せる。言おうかどうしようか迷っている奈々を見て、ゆきみは小さく息を吐き出すと、奈々の代わりにその口を開いた。

「8組の村上くん。しつこく奈々に付き合ってって付き纏ってるの。彼氏がいないなら自分を見て欲しいって。もう何度も断ってるんだけど引き下がらなくて…」

「8組の村上?あーあの八重歯の奴かあ」

1年の時から奈々は人気だったけれど、特定の相手がいる訳ではなかった。一見か弱そうに見える奈々だけれど、芯が強いのは昔からで、ピシャリと言い放ってはいるものの、村上だけはなかなか諦めてくれずにいた。視線の先の天元はニカーっと笑うと「今から撃退してやろーじゃねえか」そう言うと奈々の手を取って生徒会室から出ていく。

「ちょっと天元!いきなりなに?」

「いーから、黙ってついてこーい」

慌ててゆきみ達も2人の後ろを着いて行く。村上はすぐ近くにいて天元が奈々を連れたまま村上の前に顔を出した。勿論ながら急に長身の天元が現れて吃驚している村上は、それでも隣にいる奈々に気づいて天元を睨みつけた。

「お前かー俺の女にちょっかい掛けてんのは」

「俺の女って、宇髄の?付き合ってるの?」

出た言葉は天元にだろうけど、村上の視線は奈々を捕らえていて…聞いてないって顔の奈々は天元を見上げる。

「悪りぃが、奈々は俺の女なんだわ。付き合いたてだから知らねぇーだろうが。だからもう奈々の事は諦めろ」

「そりゃ聞いてねぇよ奈々。マジで付き合ってるの?」

信用してないって顔で村上が天元を軽く無視して奈々を見ている。そんな質問されても困るよ、そう思いながらも奈々は「うん、そうなの」無意識で答えていた。その瞬間、繋がれていた天元の手がキュッと強く握りしめられる。

「へぇ。それならキスぐらいして見せろよ、マジで付き合ってんならな、」

「はっ!?」
「仕方ねぇなぁ、傷付いても誰も慰めねぇぞ」

間髪入れずに天元の顔が奈々の顔に被さった。すぐにリップ音がして離れるけど、肝心の奈々は真っ赤に固まっていて…

「宇髄、やり過ぎでは…」

そんな言葉を発した杏寿郎の声は「ぶっははははははは」大声で笑う村上にかき消された。こいつ頭可笑しくなったのか?そこにいたみんながそう思いながらも村上を見ると「つーか胸糞悪い、宇髄一発殴らせろよ!」そう言うが村上の拳が天元の顔面目掛けて飛んできた。

パシンッ!!って音と村上の拳を片手で受け止めた天元。残念ながら身長も体格も何もかも違うけれど、これ程までに力の差があるとは思いもしない。

「二度目はねぇぞ村上。もう一度言うが、奈々は俺の女だ」

いつもと違う低い声でそう言い放つと、天元は奈々の手を引いてまた生徒会室へと戻って行った。
なんでか動けないゆきみを、実弥の腕が肩に触れるとビクッと視線を合わせる。

「行くぞォ」

「あ、うん」

そのまま肩を抱いてゆきみを連れて歩く実弥の後ろを杏寿郎と義勇が静かに歩いて行くのだった。