ナイト=彼氏
「ねぇ待って今のって、天元と奈々、キスしたの!?」
生徒会室に入るなりゆきみが真っ赤な顔した奈々に向かって真っ赤な顔でそう言った。
「俺たちからは見えなかったが、」
杏寿郎が顎に手を当ててボソリと呟く。なんというか、納得できていないと言いそうな表情だ。
当の本人天元はケロッとしていて、なんなら奈々のサラサラの髪をやんわりと撫でている。
「してな、」
「言わねぇ!俺と奈々の秘密だ。それよりアレだ。アイツの手前って訳じゃねぇが、しばらくは俺の女で通す。奈々も好きな奴いねぇなら付き合えよ。いーぜマジで惚れても。今まで1週間一緒に居て俺に落ちなかった女はいねぇがな」
眉間に皺を寄せるゆきみに反して、奈々はどう答えればいいのか分からない…そんな顔だ。
「行沢はいいのか?それで」
普段あまり突っ込む事のない義勇ですら、奈々の真意を気にしている。
「わっかんない。なんか急すぎて分かんない。いいのか悪いのかも分かんない」
完全に弱気な奈々はゆきみに助けてを求めている。自分ならどうだろうか?と考えても答えなんて出てこない。
「実弥だったら助けてくれる?」
「あ?」
「もしわたしが奈々の立場だったら実弥も、助けてくれる?」
「お前なァ。俺は宇髄じゃねぇし、ゆきみは行沢でもねぇ。…まぁけど、ゆきみが嫌だって言うならなんか考える、それぐらいはしてやるぜェ」
クシャリとゆきみの髪を撫でる実弥は結局ゆきみに甘い。
「村上はしつこかったから、とりあえず1週間は天元の女で通そう奈々、ね!」
渋々ゆきみの言葉に頷いた奈々は、天元に軽く頭を下げて「宜しくお願いします」そう言った。
そしてその噂が広まるのはあっという間で、翌日にはもうあの行沢奈々に彼氏ができたと流れていて、そんな奈々の彼氏である天元は、他クラスの男共から興味範囲で見に来られるっていう自体が起きているにも関わらず、普段となんら変わらない生活を送るのであった。
「いいな奈々が、羨ましい…」
「ぶっ。羨ましい?てゆーかあたし達フリだし。ゆきみと不死川くんはフリじゃないでしょ?」
「でも実弥、好きとか絶対言わなさそうじゃない?わたしもキスされたーい」
クラスの違うゆきみと奈々は、お昼休みもこうして二人で生徒会室でお弁当を食べていた。体育祭の前に中間テストがあり、来週から試験ウィークの為、部活動や委員会も全てがなくなる。活動が許されないから当然ながら毎日顔を出しているこの生徒会室も使用ができない。
「してないし、あれ。
先日の村上事件のキスの事を言うゆきみに、奈々は苦笑いで答えた。さすがに気持ちがないのにキスはしてないとも思ったけれど、それでもやっぱりゆきみ達からはそれが見えなかったから何とも言えなかったけれど、こうしてあっさりとゆきみに真実を伝える奈々はやはり肝が据わっているように思える。
ポークビッツを箸でぶっ刺してパクリと口に含んだゆきみは、机に置いたスマホを見て小さく溜息をつく。
「テスト期間会えなくなるのにさ、何にも言ってこないよ実弥の奴」
「ゆきみから勉強教えてって言えばいーじゃん?」
「…恥ずい〜でも言ってみようかなぁ…実弥数学得意だったよね」
ロック画面でパスワードを入力してLINEを開くとちょうどタイミングよくポコンと実弥からメッセージが届く。
途端に奈々にその画面を見せた。
「え、すごーい!以心伝心!?なんだー不死川くんもその気なんじゃんね。よかったねゆきみ」
奈々の視界に入る実弥からのメッセージは、ゆきみをテスト勉強に誘うものだった。目の前で嬉しそうにしているゆきみを微笑ましく思う奈々は、少しづつ天元の隣に居ることに慣れてきていた。
「あたしも誘ってみようかな…」
小さく呟いた独り言は、ゆきみのとびきりの嬉し声にかき消されていく。