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令和の彦星


「ねぇリヴァイさん」
「なんだ」
「どれが本物の神話なのかなぁ、七夕の織姫と彦星って」

ソファーの上、寝転がってスマホのGoogleで七夕の神話を検索していた名前がチラリと向かい側で新聞を読んでいた恋人のリヴァイに問いかけた。リヴァイはテーブルに置いてあった紅茶を一口づづっと啜ると新聞をテーブルに置いて立ち上がり、向かいのソファーで寝転がる名前の横に腰を下ろした。すかさずリヴァイの太腿に頭を乗せてスマホを彼の目の前に差し出す名前の髪をそっと撫でながら一緒に画面を覗く。
古代中国から伝わるものと、日本で古くから伝わるものと大きく分けて2つの神話が存在する七夕。もちろん他にも色々とある。語り継がれてゆく間にどんどん崩れていった結果なのかなんなのか、真実は分からない。
視線をスマホから名前に移したリヴァイは一つ小さく息を吐き出すとシレッと答えた。

「興味ねぇなぁ」

まぁそうであろう。そこそこのオッサンが七夕について熱く語っているのは、とてもじゃないが名前だって想像できない。

「でも、一年に一回しか会えないなんて、辛くない?」

リヴァイの太腿の上、顔をクイッとあげてリヴァイを見上げる名前に、リヴァイは視線を泳がせた。
せっかくの日曜日、恋人とのひと時を七夕の神話如きに邪魔されて腹ただしいと思いながらもリヴァイは一応考えてみる。もしも名前と一年に一回しか会えなくなってしまったら…と。

「お前はどうなんだ、俺と年一しか会えなかったら」
「死んじゃう。心が…。やだそんなの。リヴァイさんの顔毎日見ないと壊れちゃう」
「ほう。お前は俺の顔が好きなんだな」

なんだか悔しさを覚えたリヴァイは、名前の白い頬をムギュっと指で摘む。

「顔も好き。だってその顔完璧。でもぜーんぶ好き。どれもがリヴァイさんを作ってるもので、どれか一つが欠けていても嫌。今のリヴァイさんが好き」
「悪くない」

頬を摘んでいた指でリヴァイは名前の唇をなぞるとそれを口の中に入れ込む。すかさずそれを舌で絡めとる名前に、一気に二人の間に流れる空気が変わった。
指をしゃぶりながらリヴァイを見つめる名前に被さるように頭を下げると、指を引き抜いたと同時、リヴァイの舌が名前の口内に入り込んだ。でもすぐに舌を抜いたリヴァイは、「チッ。やりずれぇ」そう言うと名前の腰を持って自分の上に乗せるとソファーを背にそこに横たわる。リヴァイの上にラッコ座りしたままの名前の腰を掴んでそのまま顔を寄せる。されるがままリヴァイに顔を寄せる名前は普段見ることの無いリヴァイの上目遣いに心臓が爆音を立てるのが分かった。付き合ってもうだいぶ経つというのに、毎日リヴァイに心を奪われていく。どれだけ魅力的な人なんだろう…そう思わずにはいられない。
リヴァイの首の後ろで腕を交差してキスを深める名前は、そのままソファーでリヴァイの愛を一心にうけるんだった。

一頻り愛し合ってから漸く一息つく。

「オイ、身体痛くねぇか。無理をさせて悪かった」

起き上がる名前を抱き起こしてあげながらも名前を気遣うリヴァイに、ニッコリ微笑むと名前はリヴァイの着ていたグレーのシャツをふわりと頭から羽織った。

「うん、あんまり変わらない」
「あ?てめぇ今俺が小せぇって言ったか」
「言ってない」
「本当だな」
「ふふふ。言ったでしょ今のリヴァイさんが好きって」

そんな一言でこの男の機嫌が左右される。会社では強面の敏腕部長で通っているが、名前の前ではリヴァイもただのオトコである。

「あぁ名前、さっきの話だが、」
「え?」
「名前と年一しか会えないならってやつだ。俺はそれを変える。お前と毎日会えるように変えるだけだ。それぐらい余裕でやってみせる」

なんだろうか。リヴァイという人は本当にそれをやって退けるんだろうと思える何かがあった。確かに今は令和で、神話のような時代ではない。例え無理困難な事だったとしても、リヴァイの手に掛かればそれは絶対にノーとは言いきれない。それだけこの人は強く立派な人だった。そんなリヴァイに唯一無二愛されている名前は自分を誇っていいとすら思えた。




「え、出張!?」
「あぁ悪いな」
「悪いよリヴァイさん。七夕だよ、なんで明日からなの?」
「文句はハンジに言え」

週明け早々、7月6日から8日までの2泊3日の出張を言い渡されたリヴァイが、それを名前に伝えると思いっきり顔を顰めた。確かに週末七夕の話をした2人だけれど、名前がそんなに七夕に拘っていたなんて気づく訳もなくリヴァイはポンと名前の頭に手を乗せてそっと撫でる。

「ハンジさんに文句なんて言えない」
「なるべく早く帰る」

そうは言っても2泊3日で組まれたスケジュールの中日なのだから無理なことは名前だって理解できる。そして子供じゃないのだから仕事の都合でデートがキャンセルされる事等今までも何度もあった。その度に謝るリヴァイにいつだって「気にしていない」と笑顔を向けてきた名前だけれど、何故か七夕だけはどうしても会いたいと思っていた。だけれど我儘いって恋人を困らせる年齢でもないということも分かっている。

「うん。分かった。出張頑張って」

俯いて唇をギュッと噛み締める名前は、そのままくるりとリヴァイに背を向けて自分の部署へと戻って行った。
無心で仕事をする名前は、帰り際に笹の葉と短冊用の折り紙を買ってそれを自宅のベランダに飾り付ける。
折り紙なんていつぶりだろう?幼稚園か、小学生か、それくらいぶりに折る折り紙はいびつだけれど、それでも空の2人が会えるようにと願いを込める。

迎えた7月7日、七夕。
天気予報は曇のち雨であった。梅雨時期だから仕方がないけれど、もうここ何年も天の川なんて目にしていなかった。リヴァイは同じ空の下、別の地でこの空を見上げていているだろうか?それ所ではないか。夜遅く、ベランダから見上げる空は雲がかっていて天の川等到底見えなかった。名前は短冊に願いを込めてペンで文字に想いを馳せる。穴を開けた短冊に金具を通して笹の葉に括り付ける。どれを見ても全部がリヴァイとの未来を願う願い事にフッと笑えた。

「仕方ない、リヴァイさんにも送ってあげよう」

スマホの写真撮影画面でカシャとそれを撮っていたら、ちょうどタイミング良くリヴァイからの着信に通話ボタンを押した。

「はい」
【俺だ】
「うん、お疲れ様。仕事は順調?」
【あぁまぁな。それよりお前何してる】
「え?今ベランダで天の川見てた」
【…見えねぇだろ、天の川は】
「うん、そうなんだけど。リヴァイさんも空見えてる?」
【あぁ見てる】
「そっか。雲が切れて隙間から見えないかなぁ?って思ってるんだけど、無理そうだね」

見上げる空はどんより曇り空で雲が切れるなんて所は見上げる限り無さそうだった。それでも願う。一年に一回しか会えないなら尚更に。

【なぁ名前よ。俺は言ったよなお前に、】
「え?」
【俺が彦星なら、年一だけというのを変えてやると。悪いが俺は毎日名前を抱きしめねぇともうダメな男になっちまってる。…今から逢いに行ってもいいか】
「え?リヴァイさ、ん…、え、嘘でしょ、」

ベランダから見える景色の真ん中にこちらを見上げる小さなリヴァイの姿を目にした名前は立ち上がって柵に手をついて下を覗く。

【オイオイ危ねぇからジッとしてろ】

クッて笑いながらもリヴァイはスマホを仕舞うとマンションのエントランスに入って来る。だってこんな事ってない。出張は明日までだ。それでスケジュールも組んでるはずなのに。名前はそれでもジッとなんてしていられず玄関の鍵を開けてリヴァイを迎えようとドアを開けると目の前にリヴァイの姿が到着していて…

「リヴァイさんっ!!!」

その場でギュッと抱きつく。ふわりと片手で名前を抱き留めたリヴァイは、そのまま玄関の中に入って後ろ手で鍵をガチャリと閉めると迷う事なく名前の唇を堪能する。

「なんでいるの」
「言ったろうが。俺が彦星ならどんな手を使ってでも名前お前に逢いに行くと。それを実行しただけだ」

腕に名前を抱きしめて耳元で囁くリヴァイに名前は胸がいっぱいで、更に強く抱きつく。

「ナナバが無心で仕事するお前に気づいてぶっ倒れてるハンジの代わりにモブリットを寄越してくれた。まぁ俺一人でも十分終わる内容だったがどうせならと、モブリットに任せてきた」

軽々と言っているけれど、それを実行する為にリヴァイが駆けずり回ってくれていた事は容易に分かった。そしてここに来るまでも、どれだけ急いでくれたかも。いつも涼しい顔をしているリヴァイが背中まで汗びっしょりだから。

「リヴァイさん、好き。大好き。もうズルいよ、いつもカッコよすぎる。ナナバさんとモブリットさんにもお礼言わなきゃね」
「お前がみんなに愛されてる証拠だ。気にしなくていい。それより願い事、俺にも書かせろ」

ベランダに視線を移したリヴァイが名前からほんのり距離をとってそう言った。
2人でベランダまで行って、余っていた短冊を手にするとリヴァイはペンをとってスルスルと文字を描く。
そこにはなんともリヴァイらしい言葉が綴ってあって微笑む名前に振り向いたリヴァイが両手を広げる。
迷うことなくそこに飛び込む名前はリヴァイの鎖骨に顔をグリグリと埋める。

「七夕に干渉したい気分もあるが、先にシャワー浴びて名前を堪能させてくれ」
「うん」

ネクタイを緩めてスルスルと外すとリヴァイはジャケットを脱いでハンガーにかけるとそのまま着替えを持って洗面所へと歩く。

そこに一人残された名前は、記念にとそれも写メに収めてニンマリと微笑む。
後日それがナナバやハンジにバレて、リヴァイが馬鹿笑いされる事になるとも知らずに。


【本気で好きなら毎日逢いにいけるように運命を変えろ。令和の彦星は毎日織姫と共にいる】



「リヴァイが彦星ぃ!?ぶははははははっ、どこをどー見てもただのオッサンだろう!!」
「クソメガネ黙れ、殺すぞ」

令和の彦星は、今日も織姫の隣にいます。


-fin-