A O T

奪われたハート


この界隈を縄張りとしているそれ、自由の翼のマークを象徴したFREEDOM WINGS。通称FWフォワード
今どき時代錯誤な暴走族の走り屋の彼らは毎夜爆音を鳴らして街道を走り抜けていた。
その中でも一際目立つその人、暴走の最前線で信号を吹っ飛ばして交差点で立ち往生してメンバーを導く特攻隊長に座しているリヴァイ・アッカーマンは、喧嘩じゃ負け無しで、どんなに大柄な相手であろうと彼の素早さについていける人等おらず、高速回転して相手を打ちのめす事ができる、最強の男と呼ばれている。

学生であるならば、その名を知らぬ人はいないと言っても過言ではないであろうリヴァイは、冷血な潔癖症で、他人を信用しない俺様だと噂されていた。勿論ながらその実態を知るものはFWの幹部にしかいなく、彼がどんな人なのかも知らぬまま怖いという噂だけが先行していた。

そして、一、女学生の名前がそんなリヴァイと顔見知りになろうとは誰も思ってもいなかった。


「遅くなっちゃった、早く帰らなきゃ!」

塾の帰り道、テストが近かったせいで分からない問題を先生にいつもより詳しく聞いていた名前は、時計の針がもう22時を回っている事に気づいて慌てて飛び出してきた。
真っ暗な公園を抜けるのが近道だけれど、ここら辺はあまり治安もよくなかったので、いつもは避けて遠回りしてたけれど、もうここを抜けるしかない!そう思って鞄をギュッと胸に抱えると恐る恐る名前は公園の入口に入り込んだ。

昼間ならば難無く通れる道なのに、夜だと言うだけで薄気味悪く、なるべく横を見ないようにと通り抜けようとしていた。
トコトコと自分の歩く足音だけが響く中、その音は鮮明に耳に入ってきたんだ。

「うっ、」

ドサッて音と、人の呻き声。ヒイッと鞄を抱きしめた名前は、一目散に公園を走り抜ける。
怖い、怖い、怖い、怖い!!!そう思いながらもダッシュで公園を出ると、街灯の下、自分から伸びた影にすらビクッと肩を震わせた。
さっきの声は一体何だったのだろうか?まさかお化け!?そんな事が何度となく頭に過ぎる。
けれど聞こえたそれはなんだろうか、人が地面に倒れたような音で。まさか殺人事件!?第一発見者になった妄想までもが頭の中を目まぐるしく回ったものの、足を止めた名前は恐る恐る振り返った。

そこには人影も何も無い。けれどハッキリと聞こえたあの声が耳から離れなく、せっかく公園を通り抜けられたというのに、何故か足は元来た道を戻っていた。
何も無ければそれでいい。けれどもし、人が苦しんでいたら?それはほおってはおけない…

トコトコ戻ると、ベンチの裏、草木の影に隠れて見えずらいけれど確かにそこに誰かが倒れていた。

「あ、あの、大丈夫ですか?」

膝をついてその人の身体を軽く揺すると、薄目でこっちを見る。金色の髪と整った顔立ち、纏っているのはS学の制服で…リヴァイ達の通う大荒れなS学の生徒だという事だけは理解した。

その人は目だけをこちらに向けて自分のブレザーのポケットに視線を移す。名前は恐る恐るポケットに手を入れると彼のスマホが出てきた。
自分が使っている機種とは全く違うそれ。彼の指に画面を翳すとロックが解除されて自由の翼の待受画面に辿り着く。
もう嫌な予感しかなかった。走り屋達の暴走を目の当たりにした事は何度もある。けれど一人一人の顔を見た事などなく、だから違うって思いたい。

ちょうどなのかなんなのか、タイミングを見計らったかのよう、着信を知らせるバイブ音が鳴る。だから、出ますか?そう聞くと小さく首を一振りしたから仕方なく名前は通話ボタンを押した。ついでにスピーカーにして。

【ナナバ、あなた大丈夫なの!?今どこにいるんだい!?】

「あの、スマホの持ち主さんはここで倒れて話すことも動くこともできません。私は通りがかった者です。今すぐ迎えに来てくださいませんか!?」

【…きみ、誰だい?ナナバは無事なのか?】

「息はしてますけど、重症だと思います。ここはN駅の東側にある公園です。いらっしゃるまで着いてますのですぐに来てください!」

【うーん。信憑性がかけるけど、】
【ハンジ!とにかくすぐに行け!】
【全く人使いが荒いんだから、リヴァイは。そう言うならリヴァイが行ってきなよ、ね?】
【チッ、おい女、3分で行くからそいつを頼んだぞ】

「…はい、」

顔面蒼白とはまさにこの事だろうか。
名前の耳には確かに聞こえたんだ、リヴァイと。

「リヴァイって、あのリヴァイなの?」

名前の小さな呟きに、倒れているナナバと呼ばれた男は小さく頬を緩めたんだ。



物凄く長いようで、物凄く短いんであろう3分だった。
公園の入口を照らす車と人影に、分かっていながら恐怖すら浮かんだ。
スタスタとこちらに向かって歩いてくるその姿に鞄で身体を隠したいくらいだった。

「おいナナバ、こんな所でなにくたばってやがる、情けねぇ。クソぶっかけられたくなければ自力で立ちやがれ」

「リヴァイそれはさすがに可哀想だろう。大丈夫?ナナバ。とりあえず捕まって、」

そんなやり取りの後、圧力半端ないこの小柄な男がリヴァイだというのもすぐに分かったものの、名前は恐怖しかなくて。
だけどリヴァイはその場で膝を着いて名前と同じ目線で顔を真正面から見つめた。

「お前がいなかったらアイツはどうにかなっていたと思う。礼を言う、ありがとう。それから、こんな時間だ、家まで送ってやる。着いてこい」

イエスもノーも何も言えなかった。
だから立ち上がれない名前を見てリヴァイはスッと上から手を差し出す。震える手でそれに捕まると、すぐ様引き上げられた。頬にかかる吐息にドキドキしている暇もないくらい、間近で目が合って倒れそうになるのを必死で堪えた。眼圧が半端なくてとてもじゃないけど、見つめあってはいられない。
ゆっくりと音もたてずリヴァイの前でクルマが止まった。

「その制服、K学か?」

「はい」

「了解だ。改めて礼に行くから待っていろ」

結構です、も言えず、名前は何故かメルセデスの後部座席であるリヴァイの隣に乗せらせて家までの道案内をさせられたのだった。

無口だと思っていた本物リヴァイは、名前が思う以上に喋りかけてきた。
こんな遅くまで何をしていたのか?とか。塾は毎日通っているのか?とか。部活はやっているのか?とか。毎日何時に帰るのか?とか。

「あの、今日はたまたま遅くなってしまったんです、来週から期末テストなので。…そちらの学校もテストありますよね?」

「ねぇよ、んなもん。うちの高校にそんなもんあったら誰も卒業できてねぇなぁ」

期末テストねぇのかよ、S学!!なんて脳内で叫びながらもリヴァイを見つめるも、すぐに視線を逸らした。

「あぁそうだ、お前名前は?」

「名前です。」

「名前か、了解だ名前。この借りは必ず返す。まずはお前の高校生活全部俺が守ってやる」

ありがとうでもなく、結構ですでもなく、やっぱり何も言えなくて。
リヴァイの言葉はたぶんだけど決定事項であって、有無を言わすものではないんだと。
だけど所詮ここでお別れ。制服で高校はバレてしまったけれど、それ以上の事はないんだと、名前は安心していたんだ。






期末テストの最終日。
3限目の数学のテストが終わるとみんながホッと肩を撫で下ろした。授業終了のチャイムもなり、ホームルームも終わりを告げたその時だった。
急に校内がザワつき出して。

「うそ、FWだ!!!!ねぇ誰かを待ってるのっ!?」

正門の前、たった一台銀のバイクが止まって革ジャンを着たリヴァイがこちらを見上げている。なんで?何してんの!?超迷惑!!そう思う反面、名前の心臓はドクンドクンと爆音を鳴らしている。
まさにその瞳に吸い込まれるかのよう、その強い瞳に引き付けられるかのよう、気づくと足が動いていた。

FREEDOM WINGSのリヴァイがこの高校の正門前にバイクを止めているだけで絵になる。
廊下を出て下駄箱まで走る。上履きからローファーに履き替えて踵をコンコンと詰めることもせずにそのまま走り出しす。
後ろで他の生徒たちから歓声のような悲鳴のような声があがっているけど、気にならなかった。
こんなに全力疾走してリヴァイの前に姿を見せて、待っている相手は名前ではなかったらどうするつもりなのだろうか。
だけど名前には自信があった。
少なからず、噂のリヴァイと本物リヴァイは全然違うという事を知っているのは、この高校で名前だけだろうと。
絡まりそうな足を必死で動かして、バイクに跨ったままのリヴァイの前に漸く辿り着いた。

「早えぇじゃねぇか、名前」

しっかりと名前を覚えてくれる人には到底見えないのに。

「どうして?」

「言ったろ、お前を守ると。名前よ、迷う事はねぇ、自力で後ろに乗ってこい。」

このバイクに乗ったらリヴァイから離れられないかもしれない。あのFREEDOM WINGSのいる世界に身を置くのかもしれない。
それでも思うんだーーーー

ーーーーリヴァイ・アッカーマンって男を知りたいと。

名前はリヴァイの肩に手をかけて、バイクの後部座席に飛び乗った。

「上等だ、名前!お前の高校生活、貰ってやる」

その日、名前の心はリヴァイに奪われたんだ。
新たな日々が始まる予感がしたーー。



-fin-