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星だけが知っている


大学の遺跡発掘調査サークルとは名ばかりでその実態は飲みサークルであった。
勿論ながら年に一度積立で発掘調査には行くものの、それ以外は毎月集まっては飲みまくるというサークルだった。

「あれぇ、お酒もうないの?」

空になったビール瓶を手に、サークルの副部長であるハンジがそれを振ってそう言った。
地主の豪邸、ヒストリア邸の一角。ここが遺跡発掘調査サークルの溜まり場であった。

「あー俺買ってきますよハンジさん!おいエレン、てめぇも一緒に荷物持ちしろよ」

1年のジャンが軽快に立ち上がるも、足元にいるエレンはもう既にできあがっていてとてもじゃないけど歩けそうもない。だから見兼ねたミカサが首を横に振った。

「エレンは無理だろう。ジャン1人で行って」

「ならミカサ着いてこいよ」

「わたしはエレンが心配だから無理だ」

エレン大好きなミカサがジャンの買い出しに付き合うなんて誰も思ってはいない。だから同じ1年の名前がスッと立ち上がるとジャンの方に歩み寄った。

「ジャン、私が一緒に行くよ!」

「おー悪いな。んじゃちょっくら行ってきます!」

…仲良く出て行く2人を見て、4年のリヴァイは小さく溜息をついた。そしてそのリヴァイを囲むように座っていた4年全員がリヴァイを見て苦笑いを零す。

「そんなに気になるなら君が行けばよかったんじゃない?リヴァイ…」

ハンジが隣にストンと座るとほんのりソファーが揺れた。脚を組み直したリヴァイはチッて舌打ちをすると煙草を咥える。

「クソメガネ、黙れ。べつに気にしてねぇし」

そんなリヴァイの言葉にハンジも誰もが思うーー素直じゃないと。

酒好きが集まるこの遺跡発掘調査サークルには、毎年数名の新入生が入ってくる。
今年の新入生は例年より多く、わりとみんな仲が良かった。
その中でも郡を抜く可愛さなのが、ヒストリアと、名前だった。
男っぽいサバサバした性格のヒストリアと比べ、名前は甘えたなおっちょこちょいで、なんというか、男性陣は皆ほおっておけないタイプだった。
ただ名前自体は、色恋にはうとく、なんといってもナナバに憧れて、常にナナバの傍を陣取っている。故に、男云々ではなく、ナナバしか目に入っていないようだった。

ハプニングも多い名前だから、人に突っ込んだり、巻き込んで転んだりなんて日常茶飯事で、この強面のリヴァイですら、手を焼いていた。
美形なだけにリヴァイ目当てで入部する女子も多いけれど、そーいう輩には一切無反応であるリヴァイの態度に、諦めて辞めていく女の方が多かった。

そもそもリヴァイの心は名前にしか向いておらず、他の女が入る余地なんてさらさらない。
ただ、それをリヴァイはいつまで経っても名前に伝えられずにいた。
というか、名前にそれらしく言った所で、全く気づかれることも無く終わる。
だから月一のこの飲み会はリヴァイにとってはある意味チャンスの日で、今日こそ名前を物にしようと思ってはいるものの、俺様体質のリヴァイにとって、名前は中々手強く、今だにその手を掴めずにいたんだ。

ガチャンと音がしてドアが開くと、出て行ったはずの名前とジャンが戻ってきた。

「どうしたんだい?」

ハンジの声に名前はヘラっと笑うと「お財布忘れちゃってー。あーナナバさーん、一緒に行きませんか?」リヴァイの目の前で堂々とナナバを誘う名前に内心舌打ちするリヴァイだけれど、スッと立ち上がると小さくでもハッキリと言ったんだ。

「ジャンお前は待ってろ。俺と名前で行ってくる」

「え?リヴァイさんと私?」

「そーだ。文句あるか?」

「んーんん、ないです!」

名前も酒が入っている分素面しらふじゃない。それは勿論リヴァイも同じだけれど。これぐらいの量で酔うほど弱くはなかった。
財布とスマホをポケットに仕舞うと、名前の腕を掴んでそのまま外へと連れ出した。

「あれ俺、もしかして邪魔してました?」

家に残ったジャンに、先輩たちはみんな大きく頷いたなんて。






「わー見て見てリヴァイさーん。星めっちゃ綺麗!今年の七夕は晴れますかねぇ?」

見上げた空は珍しく雲がなく、漆黒の闇の中、青白い光を見せる星々が瞬いていて、そこに向かって手を伸ばす名前をどうにも愛おしく思うリヴァイはいつもより頬を緩めて見ていた。

「どうだろな」

「リヴァイさんは一年に一回しか恋人に逢えなかったらどーしますう?」

「は?」

「織姫と彦星みたいに」

空を見上げたまま、顔も空を見つめたままの名前の言葉にリヴァイは考え込む。一年に一回しか名前に逢えないなんて…

「俺には無理だ。お前はどうなんだ?名前」

「んー。私も無理かなぁ。だって好きな人には毎日逢いたいし、毎日好きって言いたいし、毎日抱きしめて欲しい…。一年に一回なんて、足りなすぎます」

「同感だ」

できればその相手に自分を選んで欲しいと願うリヴァイを名前は振り返って見つめた。
月が出ていないから街灯の明かりだけが夜の闇から照らしてくれている。

「なんだ?」

「いえ。リヴァイさんって、そーゆうの冷めてると思ってました。だからちょっと以外でした」

へへって舌を見せて笑う名前の腕を不意にリヴァイが掴む。それは名前がフラついたからだけれど、それでもスポンとリヴァイの胸に飛び込んできた名前をそのままそこに閉じ込めた。

「リヴァイさん?」

「お前は、ナナバが好きなのか?」

耳元を掠めるリヴァイの吐息が熱くてトクンと胸がうずく。大きく息を吐いて名前をギュッと抱きしめ直すリヴァイは、甘ったるい名前の髪から香るシャンプーの香りにすら目眩がしそうで。

「はい、好きです」

想像通りの言葉にリヴァイはガクンと鈍器で頭を殴られたようだった。分かりきっていた事なのに、無性に腹がたってしまう。

「だがナナバとは付き合えねぇぞ」

「うー。そうですけど。男とか女とかじゃなくて、ナナバさんが好きなんです。だから付き合いたいとかそーいうのじゃないんです」

「ほう。ならば、付き合いたい男はいるのか?」

急に無言になる名前。リヴァイはちょっと距離を作って名前を覗き込むと、その顔は真っ赤っかで。
初めての反応にリヴァイの心拍数まで上昇していく。
潤んだ瞳でリヴァイを見つめる名前に、このまま無理やり奪い去りたくなる気持ちを押さえてリヴァイは言葉を待った。

「そんなの、分からないんですか?」

ちょっと怒ったような名前の顔。時々リヴァイが見かけるその顔は、名前の本音であって…

「てっきりナナバしか見えてねぇのかと思ってたが、」

「ナナバさんは大好きです。でもそれはリヴァイさんと仲良さそうにしてたからでもあるんですよ」

「悪くない」

「もう、ずるいです!最初からリヴァイさんにしか恋はしてないのに」

トンと気づけば自販機の前、名前の顔の横にリヴァイの両手壁ドンが発動する。ふわりと名前の髪が揺れるとリヴァイの頬をやんわりと掠めた。
ゆっくりと近づくリヴァイは、ほんのり舌を出して名前の唇をツーっと謎る。
思わず目を見開いた名前に、クッて笑ったリヴァイがちゅうっと唇に吸い付いた。
そのまま自販機に押し当てた名前の手首を握って何度も口付ける。

「ハァッ、リヴァイさんッ…もっとして」

「足りねぇよ俺も」

舌を絡ませて名前の口内を舐めとるリヴァイの背景に、満天の星空が広まっていた。

星だけが2人の口付けを優しく見守っていた。



-fin-