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熱帯夜の幻


((雄英爆豪との恋))


「お茶子ちゃんとデクって付き合ってるの?」

合宿で海の見える民宿に来ていた。夏恒例らしく雄英生徒達も毎年ここに泊まりに来るのが定番になっていた。ただ如何せん古い民宿で、諸々先輩たちから引き継がれている噂があったんだ。
204号室は出るって…。今現在はその噂が先行されて広まったせいか、その部屋に泊まる人もいなく、使われてはいなかった。けれど一応人が入れるように綺麗に掃除はされていて、なんなら普通に布団も揃っている。故に今夜、その部屋にみんなで集まって一泊しようなんて馬鹿な話になっていた。誰かが百物語をやろうなんて言うもんだからみんな盛り上がっていて、私たち女子も、怖いんだけどちょっと楽しそうだなぁって参加することにした。

「な、なに急に!そんなわけないやろ。あたしはデクくんとは別にそんなんじゃないよ」

そうは言っても否定しているお茶子ちゃんの顔は真っ赤で、その顔には「好きです!」って書いてあるように見える。隣の梅雨ちゃんも私と同じ考えなのであろう、意味深に頷いている。

「私もそうじゃないかと思ってたんだけど、お茶子ちゃんは自覚がないのかしらね?」

梅雨ちゃんの言葉にお茶子ちゃんは更に真っ赤になって首をぶんぶん横に振る。体育座りをして膝を抱えるお茶子ちゃんはそこに顔を埋めて「違うんやからほんと」戸惑った声でそう言った。梅雨ちゃんと二人顔を見合わせて苦笑い。

「ごめん、ごめん。でも二人仲がいいからそうなのかなぁ〜?って思っただけ。ね、梅雨ちゃん?」
「ええそうね。そういう名前ちゃんは爆豪ちゃんと付き合ってるのかしら?」

話題をお茶子ちゃんから私に変えた事で顔をあげたお茶子ちゃんと目が合う。興味津々って顔で私を見つめる二人にコクッと頷いた。

「うん。あーダメだよぉかっちゃんの事好きになったら!二人とライバルになりたくないから私!」

半分冗談で、半分本気でそう言った私に、お茶子ちゃんも梅雨ちゃんも声を揃えて言うんだ。

「「絶対ないから安心して!!」」

な、なによぉ〜。

「そんな全力で否定しないでよ〜。かっちゃんあー見えてめちゃくちゃカッコイイんだよ。結構優しいし」
「名前ちゃんにはそう見えてるんやねぇ爆豪くん…」

完全に不思議そうな顔でペットボトルのお茶を飲むお茶子ちゃんにまた苦笑い。まぁ確かにあの爆豪勝己の性格を思えばそんな反応になるのかも、しれないけどさぁ。
なんかちょっと悔しいよね、うん。




「かっちゃん204号室来るよね?」

夕食後、食べ終わって去っていこうとするかっちゃんを追いかけて腕を掴む。脚を止めてゆっくりと振り返ったかっちゃんは明らかに面倒くさそうな顔を見せていて…

「あぁ?行くわけねぇだろ、んなこと。てめぇは行くんか?」
「面白そうだし行こうかなって思ってて。かっちゃんも来てよ、怖いから」
「嫌だね。怖ええなら最初から行くんじゃねぇよ」

顎を掴まれて頬を指でムニュっとされる。やだ今めっちゃブスにされてる!離して欲しいのにビクともしないかっちゃんの腕をバシバシ横からぶっ叩く。

「やら、はなちて、」

ブッて小さく吹き出すとかっちゃんは漸く手を離した。

「もう変なことしないでよぉかっちゃん。それより、一緒に行こう。かっちゃんが隣に居てくれたら怖くないと思うの。ね、お願い?」
「断る。行きたきゃ一人で行けよ」
「じゃあデク誘うからいいよ!デクの隣で怖くなったらデクに抱きついとくから、もういいっ!!」

フンッとかっちゃんに背を向けて私は女子部屋へと戻って行った。勿論、デクを誘おうとも隣に座って抱きつこうとも思っていないけれど。結局のところ、私もかっちゃんも素直じゃないのは似た者同士なのかもしれない。



「やっぱりかっちゃんに頼み込めばよかったぁ…」

既に始まっている204号室での百物語。とてもじゃないけど怖くて全部を聞いてられない。肝心な所を手で耳を塞いで聞かないようにしていた。聞いちゃったらトイレ行けないし、お風呂も絶対入れない!
隣のお茶子ちゃんはも一つ隣の梅雨ちゃんと手を握りあって聞いていて、私はと言えば「名前ちゃん大丈夫?僕かっちゃん呼んでこようか?」…本当にデクが隣に来てしまっていた。元々幼馴染の私たちは昔から知っている手前、他の人よりかは仲がいいものの、お茶子ちゃんがこっちに来ればよかったのに…って思ってしまう。デクはめちゃくちゃ優しいから私が怖がりだって知っててわざわざ隣に来てくれたのかもしれない。

「かっちゃん誘ったけど、行かねぇ!の一点張りだった。デクが呼んで来ると思う?」

コソコソとデクに耳打ちすると、苦笑いで「名前ちゃんがダメなら僕が言っても無駄か〜」って。ここにかっちゃんが居てくれたらどんなに心強いかって思う。てゆーか可愛い彼女が頼んでるのにきいてくれてもよくない?なんか腹たってきた。

「デク、怖いから手繋いで」
「へっ!?」

思いっきりしゃっくり並に声を荒らげるデクに、怪談話をしていた瀬呂くんが止まってこっちを見る。

「緑谷、どうした?」
「ご、ごめん!なんでもないよ、続けて!」

わたわたと両手を顔の前で交差させるデクは暗闇だから見えやしないけれどたぶん真っ赤な顔をしている。どうしよう?って困った顔をしているからデクの考えてる事など容易に想像できる。

「名前ちゃん、そんな事したら僕がかっちゃんに怒られちゃうよ、だからその、」
「怒る筋合いないよ、かっちゃんは知ってて来ないんだもん!」
「でも、名前ちゃん達が喧嘩するような事じゃ」
「デク!嫌なの?私と手繋ぐの。…お茶子ちゃんに悪いから?」
「!!!!なんでその、麗日さんはそんなんじゃないよ名前ちゃん…」

デクの慌てっぷりでまたデクの気持ちが容易に分かってしまう。二人とも気になってる同士素直になればいいのに…なんて思った私はそこでハッとした。だって私も同じ。素直になれないのは私も同じだ。かっちゃんじゃなきゃ嫌なのに…ーー馬鹿みたい。

「爆豪おせーよ!」
「おいクソデク、そこ退けや」

切島くんの声の後、かっちゃんがデクの首根っこを掴んで後ろに引っ張り出した。転がるデクの足元、超不機嫌丸出しのかっちゃんが仁王立ちで見下ろしている。

「名前、デクになんかされてねぇか?」
「かっちゃん…うん何も」
「ならいい」

ドスッとデクの座っていた場所に座り込んだかっちゃんは、胡座をかいて瀬呂くんに「続けろ」そう言う。デクは仕方なく私の反対側に座り込んだ。梅雨ちゃんとお茶子ちゃんが少し後ろに下がって場所をあけてくれていて「蛙水さん、麗日さん、ありがとう」照れくさそうにそう言って座った。

「おい、腕に掴まっとけ、怖ええんだろ」

かっちゃんが少し私に寄って耳元で小さく言う。瀬呂くんの怪談は盛り上がり絶頂でジワジワと怖さが押し寄せてくるはずなのに、隣にかっちゃんが来たというだけで私の心は安泰だと思えてしまう。

「うん。かっちゃん…」
「んだよ」
「ありがとう」
「クソデクがお前に惚れたら面倒だからな」

ふふふふふ。素直じゃないなぁかっちゃんも。でもこうして来てくれたのが何よりで、私はかっちゃんの無防備な手をキュッと握る。腕に掴まれって言ったかっちゃんは、それでも手を離すことはなく、私が指を絡めても離さないでいてくれたんだ。

結局、百物語も最後まではできなかった。気づいたらみんな眠気に勝てず、雑魚寝状態で転がって寝ている。いつも真面目な八百百やおももちゃんや、轟くん、飯田くんまでもが眉毛を下げて転がって眠っている姿はかなりのレアで。私はみんなが寝ているのをいい事にかっちゃんにギュッと抱きついた。トクン、トクン、と一定の速度で音を立てているかっちゃんの心音を聞いているだけで安心できる。沢山聞いた怪談話もかっちゃんの前では何の意味もないんだって思う。

「かっちゃん…ありがとう。大好き」

小さくそう言うと、かっちゃんの心音が早くなった気がして…もしかして、起きてる?顔をあげると暗闇の中かっちゃんと目が合う。やっぱり起きてた。

「部屋戻るか?クソ身体痛くなりそーだぞここだと」
「うーうん。部屋に戻ったらかっちゃんと一緒に居られないからここにいる」
「そうかよ」
「うん。かっちゃん熱いね」
「あ?んだよ、嫌なら離れろ」
「嫌じゃないよ。かっちゃんの温もり好き。かっちゃんの体温安心できる」
「てめぇわざとか?」
「へ?」
「煽ってんじゃねぇぞ」

そう言うと、かっちゃんは私の身体を撫でるようにして顎をクイっと指であげると、迷うことなく顔を寄せた。
え?そう思った時にはもうかっちゃんの生温い唇がふわりと重なっていて…ーー音を立てないようにハムっと下唇を舐めるかっちゃんがこんな時なのにめちゃくちゃ妖艶に見えてしまう。
こんな所誰かに見られたらどーすんの?そう思うのにかっちゃんはそれを楽しむようにまた今度は上唇をハムッと舐める。

「声出すなよ」

小さく呟くとかっちゃんがニュルりと舌を入れ込んでくる。スローで舌を絡ませるかっちゃんに胸の奥がキュンキュンと甘音をたてる。ダメだと言いたいのにかっちゃんのキスが心地好くて否定できない。止めなきゃって思うのにかっちゃんの吐息が頬を掠めて身体がゆうことをきかない。次第に深くなっていくかっちゃんの甘ったるいキスに、私はどうにかなりそうだった。だけど不意にかっちゃんが舌を抜いて小さく舌打ちすると、くるりと私に背を向ける。じっと耐える様に固まっているかっちゃんの腰に手を乗せると「やめろ」って一言。
こんなとこ、切島くんにでも見られたらきっと笑い物にされちゃうんだろうなぁなんて。
数分してから漸くかっちゃんがこちらを振り返ると、スッと私の首の下に腕を通した。

「寝んぞ」
「ん」

チュッておデコにキスをくれたかっちゃんの腕の中でそっと目を閉じると、一気に夢の中へと入り込んでいった。

そして翌朝目が覚めると、私たちの部屋の番号は204号室ではなく203号室で。
数年前から204号室は噂の部屋と化していたから物置部屋に変わったという話を民宿の従業員から聞いた。

「え、私たちどの部屋で怪談話してたの?え!?」
「マジかよ!俺ら危うく連れていかれるとこだったのかよ!?」

なんて声が飛び交っていた。


-fin-