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星空の下


「轟くんって彼女いる?」
「ーーは?え?なに?」
「だからね、轟くんは、彼女いる?」

キョトンとした顔で意味がわからないという様に小首を傾げてもう一度「え?」ちょっと間延びした声を漏らした。
雄英高校ヒーロー科1年A組。
今日はみんなでショッピングモールに買い物に来ていた。来週からの林間学校で必要な物の買い出しに。あまりこーゆー事に参加しないのかな?と勝手に思っていた轟くんが参加していたから私はつい嬉しくて質問攻めにしてしまった。隣を歩きながらも私は轟くんの私服姿にドギマギしている。

「苗字が言ってる彼女って、好きな人とかそーゆう事か?」
「うんまぁそう!そんな感じ」
「…好きな人ならいる」
「だよねぇ」
「なんだよ、分かってたのか?」
「一応確認しようと思ったの。じゃあさ…轟くん私と付き合ってくれない?」

ニッと笑って手を差し伸べる私を、表情をあまり変えることなく見下ろした。


そんな事があった日から一週間後の林間学校。
昼間は驚く程鍛えられてみんなぐったりしていた。そんな中、私の呼び出しに顔を出した轟くんも、見るからにお疲れ顔だ。明日の為に今日は早く寝た方がいいと思ったものの、せっかくの林間学校、轟くんと二人で星見るぐらい許されるんじゃないかって。


「苗字、待たせた」

丘の上にいた私の横に座る轟くんは、お風呂上がりなのか髪が濡れていて、頬もほんのり赤くてちょっと色っぽい。わー貴重こんな轟くん!写メ撮りたい…
だから私はすぐ様携帯カメラをinにして「写真撮ろ」そう言って轟くんの方にちょこっと寄った。

「いいけど」

そう言いながらもカメラ目線の轟くんが可愛い。
真顔だったけどね。

「どうしたんだよ、こんな時間に呼び出して」

横目で私を見た轟くんは眠いのかふわぁ〜と口元に手を当てて欠伸をしている。だから轟くんの肩にコテっと頭を擡げると「苗字?」間近で名前を呼ばれた。そのまま轟くんの太腿に乗っている手を取ってそこに指を絡める。

「せっかく夜に逢えるんだもん。二人で星見たいと思ったの。迷惑だった?」
「いや、全然。そーゆう事ならよかった。急に呼ばれたから別れようとか言われるのかと思って緊張しちまったよ」

ニコッと安心したように笑う轟くんに胸がトクンと音を立てる。

「まさか!私から別れ話する事は地球がひっくり返ってもないよ」
「ほんとか?嬉しいな…」

嬉しそうに笑う轟くんの笑顔に私もつられて笑う。
告白するずっと前から轟くんが私の事を好きだってクラスメートに言われていた。最初はそんなはずないって思ったけれど、日に日に轟くんと目が合う数が増えていって、気づくと私まで一日中轟くんの事を考えるようになっていた。勿論授業や実技の時はそれ一点だけれど、そーゆーしがらみから逸れると、心はいつでも轟くんを追っていた。

「ねぇ轟くん。夏休み中、どっか行きたいね」
「あぁ。デートだろ?色々考えてたんだが、苗字が行きたい所に連れてってやりたい」
「わ、ほんと?」
「あぁ。どこかあるか?」
「うん。海行きたい!プールでもいい。轟くんと二人で」
「分かった。ならこの林間が終わったら二人で行こう」
「やったー!!嬉しい!!」
「よし、じゃあ戻るか」

スッと立ち上がる轟くんに目が点になった。
いやいやまだ数分しか経ってないし、何よりーー

「ま、まだ一緒に居たい!もうちょっと星とか見てたい」
「そうか?ならもう少し一緒にいよう」

天然なのか、疎いのか、轟くんには今どき高校男児の欲がないのかな…。峰田や上鳴はあり過ぎだろーけど、もうちょっとイチャイチャして欲しいと思うのは私だけ?
ちょっとムッとして俯くと、「苗字?なんか怒ってるのか?」聞こえた声にコクンと頷く。

「え、どうして?俺、なんかしたか?」
「違うよ轟くん。何もしてくれてないだけ。ギュッてしたり、色々やることあるでしょ?」

キョトンとした轟くんだけど、次の瞬間暗くても分かるぐらい顔が真っ赤になる。明らかに視線を泳がせていて動揺しているのが分かる。だけれど、握られている手にキュキュッと力が込められて。

「苗字…こっち向いて」

ちょっとだけ掠れた轟くんの声。いつもより少し低い声にドキンと胸が脈打つ。ゆっくりと視線を轟くんの方に向けると真剣な顔がそこにあって、ちょっとだけ強引に引き寄せられた。ぎゅうっと抱きしめられてドクンと激しく胸が脈打つ。

「あ、ちょっと待って。こっちのがいいか」

クルリと私を反転させた轟くんは、後ろから私をギュッと抱きしめた。

「星…綺麗だな」

耳の後ろから聞こえてくる声に星空が見たいと思っていたのに全然頭に入ってこない。

「轟くんの事、もっと知りたい」
「俺も、苗字の事もっと知りたいよ」

すごくすごくドキドキした。大好きな轟くんのバックハグ。みんなに自慢したいけれど、二人だけの内緒にしておきたい気もする。そのまま暫く星を眺めていた私達は好きな食べ物や、好きな季節、その他諸々好きな物を教えあったりして過ごした。

「待って轟くん!!何か一つ忘れてない?」
「え?忘れてるか?」

好きな人の好きな物を知りたいという気持ちは分かるし、それは沢山知れてよかったけれど、大事な触れ合いがまだ行われていない。
こんなに綺麗な星空の下で、好きな人と二人きりでいて何もせずに帰ろうとしてない!?
凝視する私を見つめる轟くんは本気で忘れ物が何かを考えている。これは、無理かもしれない、はっきり言わなきゃ…。とは思うものの自分から言えそうもなく、

「やっぱいい、なんでもない」

そう言って一人宿に戻ろうとする私の手首を掴んだ轟くんは、「これかな、」そんな囁きの後、振り返った私の唇をそっと塞いだ。
目を閉じる寸前、轟くんの後ろに広がる星空が泣きそうなぐらい綺麗で、そこには確かな幸せが見えた。


-fin-