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覚悟の先は癖になる


「ねぇデク〜!」

ガチャリと寮のデクの部屋を開けてそう声をかけるものの、机に向かってブツブツと独り言を言っているデク。
またヒーローノートに色々書き足しているんだろうと想像はついた。こんな時は何を言っても無駄な事は分かっている。ならデクのそれが終わるまで待ってようとベッドの上に寝っ転がった私は、いつの間にか眠ってしまった様で、パチっと目を開けるとデクが私を覗き込んでいる姿が目に入った。

「名前ちゃんごめん僕気づかなくて…。なんか用事あった?」

大きな目で私を見下ろすデクにほんのり微笑むとデクの手を取った。

「逢いに来ただけ。デクって実技授業の後、いつも全然構ってくれないんだもん。だから逢いに来たの!」

付き合って欲しいとかそんな言葉は貰ってないけれど、デクが私を好きな事は一目瞭然で、否定もしていない。だからって訳じゃなくて、私は優しいデクが好き。ただ一つ、みんなに優しいデクもデクらしくて好きだけど、たまには私にだけ優しくして欲しいなんて思っている。
ベッドに寝転がったままデクの手を掴むだけでデクは途端に顔を真っ赤にしてあたふたしている。

「わ、わ、それは僕すごく嬉しいけど、その、なんてゆうか、ここは寮だし部屋だし、なんてゆーか、マズイというか、その、あの、」

だんだん涙目になってくるデクは正直可愛くて、意地悪している訳じゃないんだけど、こうやって私の事で悩んでいるデクを見るのは好きだった。
というか、デクだって年頃の高校男児なんだから、もうちょっと私って存在を意識してくれてもいいと思うの。相手がデクじゃなくて爆豪くんとかだったなら私なんてとっくに喰われているんだろうなんて思うと笑えないけど。
慌てるデクの腕を引っ張ってベッドの上に乗せると「うわあ!!!」と、それでも私を避けるように転がる。横向きで向かい合っている私たち。真っ赤な顔のデクは視線を合わせようとしないで、目を泳がせている。

「名前ちゃんその、近い…」

挙句、口に出した言葉はそんな言葉だったから、私はわざとデクの腕を引き寄せてその中に身体を入れる。空中で固まっているデクの腕を私の背中に持ってくるように動かしてからデクの胸にギュッと抱きついた。

「あのあの、マズイよ名前ちゃん、こんな格好は。僕だって一応オトコなんだから!」

あ、今の言葉はキュンとした。

「なにがマズイの?」
「え?なにってそんなのっ、」

顔を上げるとデクの息がかかる距離で、絶対にこちらを向こうとしないデクの頬に手を添えて視線を絡ませた。
最早泣きそうな顔で「名前ちゃん、待って」そう言う。私はデクを見つめたまま「待たない」そう言うと、デクが困ったように眉毛を下げた。でもそんな顔されてもダメ。デクみたいな奥手はこうでもしないと手なんて出してこない。Tシャツに短パン姿のデクはお風呂上がりでほんのり熱を持っていていい香りがする。私もお風呂後だからきっとデクだってそう思ってるよね?ちょっとぐらい欲情してくれてもいいのに…

「そんなに怯えた顔されると傷つく…」
「わっごめん!!そうだよね僕…あの、うん、名前ちゃん僕、覚悟決めるよ」

急にそんな言葉と共にふわりとデクが私の上に乗っかった。あれ?見えるのは私を見下ろすデクと天井の木目。目を大きく見開いて私に近づくデクの腕はそれでもプルプルと震えている。そんなデクがやっぱりどうにも可愛くて、私はそっと目を閉じてデクを待った。
ふわりとデクの香りがしたすぐ後、私のおデコにデクの唇が触れた。ほんの一瞬だけ。

「…え、終わり?」

おデコを押さえてデクを見るとまだ真っ赤な顔でコクリと頷いている。

「僕にはこれが精一杯だ、うわっ!!」

くるりと反転してデクの上に乗っかった。何が起こったのか?と焦るデクの顔の横に手をついて、上から見下ろす。

「名前ちゃんまずいって本当に。僕、どうにかなっちゃいそうだから、ね、ね?」
「知らない。デクは私の事好き?」
「…好きだよ」
「じゃあこーゆうの、したくないの?」
「…そりゃ、したいよ、僕も」
「じゃあしよ、ね?」
「…うん」

こんなのみんなにバレたらどんだけだ?って思われるかもしれない。でも見たいんだもん、私にドキドキしているデクが。そんなデクを独り占めしたいんだもん。
ギュッと目を瞑るデクの頬に指を触れさせると、薄らと目を開けるけど、構うことなく私はデクの身体に体重を乗せた。

「ンッ、」

声を漏らすデクにギュッと抱きつくと、くるりと反転した。さっきまでと違うデクの揺れる瞳に私は胸がキュンと音を立てる。

「名前ちゃん好きだよ」
「ん。私も」
「キス、するね」
「ん、」

遠慮がちにゆっくりと触れたデクの唇は柔らかい。
一度触れた唇は少しの後離れてまた触れる。ゆっくりと確実に。

「甘い…名前ちゃんの唇…」
「んう」

ギュッとデクの腕に掴まる私に、ほんのちょっとスイッチオンしたデクが唇をペロリと舐めた。

「やっぱ甘い。なんかつけてる?」
「ん。ミルク味のリップ」
「え?そんなのあるの?」
「ん。美味しい?」
「うん。なんか、癖になりそう…だよ」
「いいよ、もっと味わっても」
「う、うん…へへ、名前ちゃん可愛い」

デクも可愛いよって言葉は飲み込んだ。やっぱり可愛いよりカッコイイって言われたいだろーし。それに、ゆっくりと近づくデクは、唇を見つめて目を伏せて…その顔が堪らなくカッコイイ…。

みんなに優しいデクも、その高揚した顔は私だけのものだって思うと胸がキュンと高鳴った。


-fin-