夜が明けたら…
神野の事件が無事に解決して、かっちゃんは警察で取り調べを受けた後、夜遅く家に帰って来た。
時計の針はもうてっぺんを超えていたけれど、かっちゃん家までは徒歩でも行ける距離だったから夜中だけど、スマホにLINEが届いたから私は急いで爆豪邸へと走った。
「かっちゃん、」
家の前で待っててくれたかっちゃん。私が来るからってきっと危ないからって出て来てくれていたかっちゃんに飛びつくように抱きついた。
「無事でよかった、かっちゃ…」
背中に腕を回して私を抱きとめるかっちゃんからは、お風呂上がりなのか石鹸の香りがする。疲れてるし絶対眠たいだろうしで、こんな事している余裕もないと思うけど私はかっちゃんから離れられなくて。
「心配かけたな、悪ィ」
かっちゃんの温もりに包まれて私は涙を堪えることができなかった。
そんな私をかっちゃんはただ黙って抱きしめてくれて、なんだか申し訳なくなってきた。
「ごめんね、疲れてるのに」
「全くだァ」
「でも思ったより元気そうでよかった」
「いやメタくそ疲れとるわ」
コテっと私の肩に頭を擡げるかっちゃんをギュッと受け止める。
「とりあえず家入んべ。泊まってけや名前。ババアには起きたら言えばいい」
「いいの?一人でぐっすり寝たいんじゃないの?」
「…ヤる元気はねェが、抱き枕にしてやる」
「うんっ!」
かっちゃんと一緒に居られるのなら、抱き枕でも湯たんぽでも何だっていい。私を離してポケットに手を突っ込んで歩くかっちゃんは、夜中だけれど全然忍び足でもなんでもなくて、かっちゃんママやパパが目を覚ましたらどうしよう?なんて私の方がソワソワしてしまう。そんな心配を他所に、かっちゃんと私は気づかれることなくかっちゃんの部屋へと辿り着く。もう寝る準備をしていたんだろうかっちゃんは、そのまま迷うことなくベッドに寝転がった。私の手を引いて奥に私を入れると後ろから抱きつかれた。
「わーほんとに抱き枕だね」
「ったりめェだろ」
「ふふ。それでも嬉しい。…もうかっちゃんに逢えなくなったらどうしよう?って本気で思っちゃったよ」
「ンなやわじゃねェがな」
そうだけど。ヴィラン連合に連れ去られたなんて聞いた日には生きた心地もなかったのが本音だ。いくら雄英のヒーロー科で習っているとはいえ、まだ所詮はヒーローの卵であって、ましてや敵のアジトへ連れ去られたら生きて帰れるわけが無い…なんて脳裏を過ぎった事は言わずにおこう。かっちゃんの事だから怒るだろうし。こうして無事に帰ってきてくれたって事実だけで私は心底嬉しかったんだ。
「…俺が弱ェから連れてかれたのかと思うとやり切れねェんだ」
え?かっちゃん?
後ろから聞こえた少し掠れたかっちゃんの声は、落ち着いてはいるものの、少し悩んでいるような迷いのある声色で。
「もっと強くなりてェ。馬鹿みてェに、強く、強く」
「私はどんなかっちゃんにも着いていくよ」
「物好きだなァてめェも」
フッて息を漏らすかっちゃんにくるりと反転して向かい合う。瞑っていた目を開けたかっちゃんだけど、もう睡魔がそこまできていてトロンとこちらを見入る。
「かっちゃんは強くてカッコイイよ、私にとっては。ね、キスしていい?」
「愚問だバーカ」
ほんのり口端を緩めたかっちゃんは、まるで私にしろと言っているかのように、目を閉じた。だからいつもとは逆、かっちゃんの頬に手を添えて薄い唇を指でなぞった後、そこに自分のを重ねた。
生温いかっちゃんの唇の感触に涙が溢れてしまう。
「もっとしろ、」
そう言ったかっちゃんは、ほんのり唇を開けて待っていて、だから私は舌をちゅるりと口内に入れ込むと、器用に横向いたまま唇を動かして中で舌を絡めた。
「もっとだ」
ギュッと私を掻き抱くかっちゃんは、疲れていているだろうにキスを止めない。それでもかなり体力も奪われていたんだろう、目は閉じたままで。私はかっちゃんの気の済むまでずーっとキスしてあげるよって、尚もキスを続けた。
いつも自信に満ちたかっちゃんですら、こんなにも弱気になってしまってヴィランが許せない。とはいえ現実問題、ヒーロー気質な個性を持っている訳でもない私に、ヴィラン一人も倒せるなんて事はない。それでもやっぱりいつもと違うかっちゃんの姿に怒りは自然と高まってしまうのであろう。
スースー寝息を立てて寝てしまったかっちゃんを今度は私が抱き寄せて腕を回す。
どんなに疲れていてもこうして私に逢ってくれたかっちゃんの心を想うなら、こんな私でもかっちゃんが生きる存在価値があるのかなと思うと、嬉しいしかなかった。
眠れぬ夜を超えて、この日は漸く二人とも深い眠りにつく事ができた。
翌朝かっちゃんの朝勃ちによって目覚めると、「昨日できんかったからな」なんて理由をつけて朝からペロリと食べられるはめになるとは知らずに、幸せな夢の中へと落ちてゆく。
