ずっと好きだった
ずっとずっと好きだった。でも言えなくて。
あの頃の私は自分に自信もなくて好きな人に好きって気持ちを伝える事もできずにいた。
雄英高校普通科卒業、苗字名前。
プロヒーロー列怒頼雄斗の事が今も変わらず大好きです。
「切島くん…?」
偶然だった。同僚と飲みに来ていてちょうど帰り際、今しがた店に入って来たのは切島くんで、思わず声をかけてしまった。中三の時同じクラスになっただけの目立たなかった私を彼が覚えている訳なんてないのに、ずっと逢いたいと思っていたから、つい口から出てしまった言葉に切島くんは一瞬きょとんとしたものの、パッと目を見開いて「苗字!?うわー懐かしいな!元気だったか!」ポカンと背中を叩いた。
うそぉ、覚えていてくれたなんて。
「すっげー美人に話しかけられから一瞬ビビっちまったじゃねぇかあ!マジ久しぶりだな苗字〜、つーか一緒に飲まねぇ?」
「え、でも、」
「やーさー爆豪に断られちまって、今日はみんな都合が悪ぃみてぇで、一人なんだ」
相変わらずの屈託のない太陽みたいな笑顔に私の心はいとも簡単に一瞬で奪われた。元々奪われていたんだけれど。
「うんっ!」
そう言うとニカッと笑って私の背中に腕を回す。そんな風に女性を誘導なんてしちゃうんだぁなんて思ったら嬉しいのか悲しいのかちょっと複雑だなんて。
それでも昔話に花を咲かせたその日、ただでさえアルコールを摂取していた私は、いつもなら絶対に有り得ないであろう理性のタグが緩んでいたんだろうと。
◆
パチッと目が覚めるとズゴンと頭が痛かった。見た事ない天井の木目と、知らない部屋…ドクンと心臓が脈打つと同時、「う〜ん、もーちょい寝ようぜぇ名前…」聞こえた声にビクンと肩を震わせた。この声、忘れもしない切島くん。伸びてきた腕に後ろから抱き寄せられる。え、私名前って呼ばれてたっけ?てゆーか、なんで切島くんと一緒に寝てるの?
最大の謎は、どうしよう、私たち…服着てない。
うそうそうそうそ!!覚えてない…でも覚えてないとか言えない。というか、これってあれ?大人の遊び?身体だけの関係?私、なんか言っちゃったかな?告白しちゃったりしたのかな?
「き、切島くん…」
「ん〜?」
「あの私記憶が、」
「もしかしてねぇの?俺たちの熱〜い夜を忘れちまった?」
「えっ!?」
くるりと布団の中で反転して切島くんの方を向く。ド至近距離で目が合ってドキンと心臓が爆音を鳴らす。切島くんは私の髪をなでなでしていて…その目はとても優しくて…
「覚えてねぇなら、思い出させてやろーか?」
頬を撫でて視線を絡ませた切島くんは、楽しそうに笑っていて。クイッと私の顎に指を宛てて顔を自分の方に向ける。
「わ、大丈夫!!うん、全部覚えてる!!えっと、ごめん、か、帰りますっ!!!」
散らばった服を手にしてとりあえず着た。メイクもボロボロ、髪もボサボサ、ベッドに肘をつけて半起きの切島くんを背に「お邪魔しましたっ!!」そう言って私は切島邸を飛び出した。
「落ち着け私、落ち着け、落ち着け…」
ふーふー呼吸を整えると、ピンポイントで思い出す昨日の切島くん。激しい頭痛のする頭をフル回転させながら私は一つ一つ順を追って記憶を辿っていった。
二人で飲み始めた所はちゃんと覚えている。ラストオーダーがきたから、「俺ん家で飲み直す?」なんて言われて浮かれて着いて行ったんだっけ。オトコ、オトコしている部屋を見て、切島くんっぽいな〜なんてクスッとして、ワインをあけて飲み始めてからの記憶がほとんどない。
「名前っ!」
げ!!!
走って追いかけてきた切島くんに私は動くことすらできなくて。朝の眩い光の中、こちらに向かって走ってくる切島くんにドキドキが止まらない。そしてやっぱり私を名前と呼ぶから、きっときっと致してしまったんだろう。
「待てよ、名前!」
逃げたくても脚が動かなくて止まっていた私の腕を掴む切島くん。
あの頃より大人になっている切島くん。背も伸びて、ガタイも大きくなっていて…凄くかっこいい。
赤い髪がトレードマークのプロヒーロー列怒頼雄斗。逢いたいと思う反面、もう手の届かない所にいるって思っていた。
「逃げんな、もう。俺も、逃げねぇから」
真っ直ぐ私を見下ろす切島くんに顔が歪む。視界がボヤけるのは涙が溜まっているからだって。瞬きすると頬を伝う涙を切島くんの硬い指がスッと拭った。
「昨日俺に言ってくれたことは、嘘じゃねぇよな?中学ん時からずっと好きだったって。それ聞いて俺死ぬほど嬉しかった。ーー俺も、苗字の事が好きだったから。けど漢としても、人間としても未熟だったからもっとちゃんと胸張って好きだって言えるまで自分を磨こうって思ってきた。だから昨日偶然逢えた時はもう、チャンスとしか思えなくて…。だからちゃんと向き合ってくれよ俺と。あの時言えなかった気持ち、全部俺にくれよな」
思い出した。そうだ私、酒の力借りて告白したんだ。
ずった好きだった事。自分に自信がなくて好きって言えなかった事。いつか次に逢えたら、胸張って好きって言いたかった!って。
「うん、嘘じゃない。…ずっと切島くんの事が好きだった。今もこれからも!ずっと好きだよっ!」
持っていた荷物を手放して身一つで切島くんの胸に飛び込んだ。そんな私を強く強く抱きしめてくれる切島くん。ドクドクって心音がめちゃめちゃ爆音を鳴らしていて、ほんのり上を向くとニコッと微笑んで顔を寄せる。
「俺も、好きだよ」
優しいその声に擽ったいぐらい切島くんの愛が詰まっていて、「目ェ閉じろって、ちゅーすんだから」「ん」頬を指で擦った切島くんの想像より柔らかい唇が小さく触れた。
「…今日休みだろ、もう一泊しとけよ。離れたくねぇんだよ」
「…うん、でも私メイク落としとか何も持ってなくて、コンビニで買ってもいい?」
「勿論!んじゃ行こうぜ、俺も買うもんあるし」
ニッて笑った切島くんは、コンビニに入ると迷うことなくシルバーボックスを手にしてそれを3箱私の後ろから籠に入れる。
「俺払うから」
さすがにシルバーボックスを買える度胸のない私は苦笑いで籠を切島くんに預けた。
朝焼けの道を、二人仲良く手を繋いで切島邸へと戻った私たちは、早速シルバーボックスを開けてベッドへと舞い戻ったのだった。
