「あ…」
「よう」
「え、ヒーローってスーパーくるんですか?」
「馬鹿か、普通に買い物ぐれぇするわ。帰ったら冷蔵庫になんもなかったんだよ」
コスチュームをつけていないせいか、この人がヒーローだと気づく人も周りにはいなかった。それくらい気配も消せるんだと。ヒーローの時はあんなに派手なパフォーマンスで飛び回っているのに、意外と普通な事がちょっとだけ可笑しいなんて。ほんのり口端を緩めた私に「ンだよ、可笑しいかよ?」籠には缶ビールがしこたま入っていてそれを見てブッと声を出して笑ってしまう。苛ついた顔で「あ?」爆豪勝己が私を見下ろすから籠を指差すとクシャっと髪を搔き上げた。爆豪勝己はチッと舌打ちすると「ちょっと付き合えよ、名前」私を連れてスーパーを出た。
なんとなく、有無を言わせない爆豪勝己に私は黙って着いていくしかなくて…気づくと都内の高層マンションへと入っていった。表札にかかった爆豪の名に、ここが彼の住むマンションだということが分かった。
部屋にあがると、モノトーンで統一されていて、綺麗に片付けられていた。
「あの、なんでここに私を?」
「聞かせろ、てめぇの個性のこと。納得してねぇからな俺は」
それはこの前のヒーロー事務所に入らないか?というお誘いの事か…と、息を吐き出す。見つめる先の彼はその言葉の如く、納得してない、説明しろと、顔に書いてある様だった。
自分の個性の話をするのは得意じゃない。説明だってうまくできそうもない…でも、この個性を知られてしまったらきちんと説明をしなければならないのかもしれないと思えた。それぐらい目の前の爆豪勝己は真剣な顔で私を見つめている。
氷を入れたグラスに酒を注ぐとそれをスッと私の前に差し出す。今程スーパーで買った酒のつまみも一緒にテーブルに置くと、
「個性は抗体です。自分の体液が外敵からの侵入の際、すぐに抗体を作る。DNAを操作して身体の中で抗体を作るんです。ですので先日貴方の傷を治せたんです。生まれてから一度も怪我や病気をした事はありません」
そこまで言うと私は押黙る。もうこれ以上話すことはないと彼に教える為に。静かに聞いていた爆豪勝己はまた一口ウイスキーを飲むとナッツをパクリと口に入れた。後ろに寄りかかって大股開いた彼は「ンでなんだよ」続きを諭してくる。
「それだけです」
「なら俺の事務所に入れよ」
「は?」
「お前の力は使える。俺たちヒーローも訓練はしてても人間だ。怪我の一つや二つ付き物だ」
やっぱりそうくるかぁ。困った顔で私もウイスキーに口をつける。ゴクリと飲み干すと喉が焼けそうに熱くてすこぶる苦い。普段飲み慣れないアルコールを胎内に入れるも、それも抗体が作られて酔い潰れる事など一度もない。
「爆豪さん、私の抗体はね…ダメなんです」
「あ?」
「体液がって言ったでしょ?怪我が酷ければ酷い程体液が必要だし、アドレナリンが出ないと抗体操作ができないんです」
だからあの時、少しでも多く体液を彼に与えようと思い、アドレナリンを出す為に爆豪勝己にキスをした。そのせいで私の体液が彼の身体に入って、多少の怪我はDNAの操作が発動されたに違いない。それを思い出したんだろう爆豪勝己は自分の髪をわしゃわしゃと掻きむしった。
「そーゆーことか、クソっ」
どうやら理解してくれたらしい。
「わざわざ怪我治す為にあんな事したんか、お前」
「あの時は無我夢中で。ヒーローに遭遇するのも初めてでしたし、ヴィランが来たのも初めてで、つい…」
「なんか理由があんだと思ったからな。まぁでも悪くなかったぜ、名前のキス!」
「な!!!もう、忘れてください」
「ハッ!」
白い歯を見せて笑う彼に胸がトクンと音を立てたのは気のせいに違いない。
こんなに笑う人だったんだ、爆豪勝己って。
あの雄英体育祭でしか見た事なかったし、その時は彼も学生でまだ尖った所も多かったように思えるし、それがヒーローになって丸くなったって事?
「なんか、爆豪さんの印象って、実物のがいいですね」
「あ?どーでもいいわ、ンなこと」
「きっと爆豪さんだから私、あの時助けたんだと思います。こんな個性だから誰にも知られずにいたんです。でもせめて誰かの役にたちたいと思って、動物病院で働き始めたんです。まぁ受付ですけど…」
「十分だろ。そういやあの猫は元気か?」
「はい!すっかり元気になったんです。これから里親探しに出すつもりです」
子猫を覚えてくれていた事も嬉しかった。命を繋いでくれた事も。何より、私って人間の存在を認めてくれたようで、すごく嬉しかったんだ。別に誰かに認められたくて生きている訳でない。けれど、生きている事にもしも意味があるのならば、それが人の為ならば嬉しいと思うんだ。
ゴクリとウイスキーを飲み干した爆豪勝己は、ふぅ〜っと息を吐き出すと掠れた声で私に言った。
「苗字名前、俺の専属にならねぇか?」
へ?専属?どーいうこと?