運命の相手

一つ大きく息を吐き出すと、爆豪勝己はその赤い瞳をまた真っ直ぐと私に向けた。喉が乾いてゴクリと生唾を飲み込む。

「専属ってどーいう意味?」
「まんまだよ。俺がヒーロー活動する前日、俺とそーいう事してくれねぇかって言ってる」

瞬き一つすること無く至って真剣な表情のまま静かな声で問いかける爆豪勝己がまさかの冗談を言っているようにはとうてい見えない。そもそも彼は冗談が通じるタイプでは無さそうだし、という事は…ーー

「な!!無理ですっ!!何言ってんですかっ!?無理に決まってるじゃないですかっ!!」

危うく、そーゆう事を想像しそうになって頭を左右に大きく振った。そもそも、ヒーロー活動する前日って、この人毎日ヒーロー活動してんだから、毎日そーゆう事をしろって言ってるの?有り得ない!!なんだと思ってるのよ、人の気持ち…。確かにこの世界にはヒーローは大事で必要不可欠だけれど、だからってそんなのあんまりだ。

「俺はナンバーワンになりてぇ。無敵の身体を手に入れられればそれも叶う。お前の力、俺に貸してくれねぇか?…ただでとは言わねぇよ。俺にその力を貸してくれんなら…ーーお前の望みは全部叶えてやる。どんな事も…」

そんな事言われても…ーー
困った顔で爆豪勝己から目を逸らす。

「でも…無敵ってわけでは。他の人よりかは頑丈になるとは思いますが…。それに…」

好きでもない女とそーゆう事できちゃうの?この人は。
黙って私の言葉を聞いていた彼は、「それに、なんだよ?」と、続きを聞きたがっていて。首を竦めた私は仕方なく視線を逸らして小さく続けた。

「爆豪さんは好きでもない私を抱けるんですか?」
「…ーーてめぇはどうなんだ?俺と、できねぇっての?」

ん?ちょっとズレてない?

「私が質問したんですよ」
「俺はできんぞ。それが自分の力になるんならなんだってな」

自信に満ちた顔だった。でもそれを聞いて尚更この人に抱かれるのは嫌だと思えてしまう。そんな自分の事しか考えてないような人、お断り。
私の力で怪我が減ってより一層ヒーローとして活躍ができるのかもしれない。それに加担している私はヒーロー活動に参加できていて、人の役に立ててしまうかもしれないけれど…ギュッと太腿の上に置いた手を握る。

「私にはできません。好きでもない人と、そーゆう事は」

それが当然の答えだった。
女として生まれたなら、やっぱり愛し愛される関係でいたいし、運命の相手だと思える人とそうなりたい。
子供じみた事だと思うなら笑い飛ばされても構わない。夢の価値基準なんて、人それぞれ違うのだから。
そもそも、最初から私と爆豪勝己では住む世界が違いすぎる。

「なら好きになれよ、俺を。…俺の恋人にしてやる、それなら問題ねェだろ?」

これで話は終わった、なんて思っていた私に、まさかの爆豪勝己の衝撃発言に目ん玉飛び出そうになった。
とてもじゃないけど冗談には聞こえなくて…

「今日からここに一緒に住め。ンで一緒に生活してく中で少しづつ俺を好きになればいい。好きになったら言ってくれ。したらお前を抱く。それまでは絶対ェ手出さねぇと約束する」

なん、で、そこまでするのだろうか、この人は。
言ってること無茶苦茶だし有り得ないし横暴すぎる。

「貴方は、好きな人がいたりしないんですか?」
「は?いるわけねぇだろ、ンな面倒くせぇもん。そもそもいたらお前にこんな話してねぇわ」
「そうですけど…。もしも私が貴方を好きになったとしても、貴方が私を好きになってくれない事にはなんの意味もないと思います。こんな私を好きになれるんですか?」

爆豪勝己は真顔からほんのり笑みを作ると、その後優しく微笑んだんだ。ドキンと私の胸が高鳴った。この人、こんな優しい顔ができるんだ…なんて少し見惚れてしまう。

「俺はわりと最初から名前の事、気に入ってんぞ」

…はいっ?
何言ってんの?爆豪勝己は笑ったまま続ける。

「初対面の女にいきなりキスされたこっちの事もちったー考えろ、ばーか」

ペシンと痛くないデコピンが飛んでくる。そしてあの時を思い出して全身の血液が顔に集中してくるのが分かった。慌てて顔を手で隠して俯く。

「も〜あれは本当に忘れてください」
「なら、そうなるのが俺らの運命だったって思うことにしねぇか?なぁ」
「え?」
「俺とお前は出逢うべくして出逢った運命だと。そーゆー話には正直一ミリも興味はねぇ。けどあの日から俺はお前の事が多少なりとも気にかかってやがった。だから何度もこうして巡り会えてんじゃねぇかって。…なれよ、俺の女に。お前の望み、願望…全部この俺が叶えてやるから」

真っ直ぐに差し出された爆豪勝己の大きな手。傷だらけのその手は、確かに危険を顧みず人々を助けているヒーローそのものだと思えた。
もう、イエス以外の返答なんて用意されていないと思ったんだ。

「…分かりました。今日からお世話になります」
「おう」

こうして、この日から私とヒーロー爆豪勝己との奇妙な同棲生活が幕を開けた。