「え!?プロヒーローと付き合ってる!?」
「…うん…」
苦笑いで目を逸らす。目の前には親友親友の驚き顔。金曜日の夜、引越しの準備でヘトヘトになった私は、もう無理だと親友の家に避難した。
今日からお世話になります、なんて言ったものの自分の荷物一つない事に気づき、週末引っ越す事で一旦彼の家から戻ってきた。急いで引越しの準備をするべく荷物を纏めたり住所変更の手続きだったりと、やる事があまりに多く、こうして親友の所にご飯を食べさせて欲しいと頼んでやって来たんだった。
高校の時の同級生と同棲中の彼女、親友は唯一無二の私の大親友で、私の過去を全て知る女だ。
そんな親友にここ数日の彼との出来事を話したら思いっきり顔を顰めてそう言ったんだ。
「え、誰?え、もしかしてホークス!?え、え?」
首を横に振る私に、「えーじゃあ誰?ショート?」それも違うと首を横に振る。それから数人親友は名前をあげたものの、そこに爆豪勝己の名前は出てこない。
ソファーに背中を持たれて「えーもういなくなぁい?誰?」ジィっと私を見つめる親友に苦笑いで答えた。
「大爆殺神ダイナマイトさん」
テレビのコント並にソファーからズリ落ちる親友に苦笑いでエヘっと首を傾げた。
「まさか、爆豪!?」
ええ、そのまさか、だよ。
あの手のタイプが苦手というか嫌いというか、よろしく思っていないであろう親友。とはいえ、実際彼と接した事など当たり前になく、それは単なる第一印象的な物だと。
真面目街道爆走してきた私たちにとって、爆豪勝己の生き方は果てしなく遠かった。
「うんその、まさか!」
「なんでぇっ!?」
「なんでだろー。私にもよく分からない…ーーでも、彼のこと、知りたいと思ったんだ。話すと意外と真面目で本気でナンバーワンになりたがってる事だけは分かる」
自分で言ってて何となく恥ずかしくて、ソファーに置いてあるfrancfrancでオソロで買った丸くてふわふわのクッションに顔を埋める私に親友の優しい声が届く。
「そっか、うん、それなら仕方ないね」
私の本音を親友は決して馬鹿にしたりしない人。いつもいつでも、私の気持ちを優先してくれるのが、目の前にいる親友だった。だから私も心の奥底のモヤモヤだったり、もどかしい気持ちだったりを素直に打ち明けられる。
私の見たもの、感じたもの、信じたものを、親友はそのまま同じように信じてくれる人だった。
正直私自身もまだ爆豪勝己がどんな人なのかは分かっていない。でもーー
「無我夢中だったとはいえさぁ、キスした事に変わりはないし、名前は嫌じゃなかったんならこれからの二人次第だねぇ。いいなぁ〜同棲!初々しい名前が羨ましい」
「いやいや、親友さんずーっと同棲してんじゃん」
「だからだよぉ。別にマンネリ化してるわけじゃないんだけどね、緊張間とかドキドキとか最近感じてないんだよねぇ。運命の相手じゃないのかなぁ…」
やめてーそんなこと言うの。言っとくけど、高校の時必死で二人をくっ付けたの私だからね!なんて思うけれど、どこに運命が転がっているかなんて誰にも分からない。そして私は、彼の…爆豪勝己の言った「運命」が本物なのかをこれから確かめるべく、翌土曜日、爆豪邸へと自分の荷物を運ぶのだった。
「へ?え、買い換えるんですか?」
「一人だったからセミダブルで充分だったけど、一緒に寝るならもっとでけぇ方がいいだろ」
マンションを引き払って爆豪邸に荷物を運び終えると、彼は「買い物行くぞ」と、車を出してくれた。何を買うのかと聞けば、家具売り場へ連れて行かれ、大きなキングサイズのベッドで寝心地を確かめているではないか。
え、そもそも一緒に寝る気?固まる私を他所に急に腕を引っ張られてベッドに座らされる。
「お前も寝心地確かめろ。嫌なら変える」
寝転がったまま視線を絡ませる爆豪勝己に、不覚にもドキっとときめいてしまう。困ったな、この人距離がおかしい。だって私の手はずっと爆豪勝己と繋がれたままだ。恋人ごっこのつもりだろうか?そんな事するわけないと分かっていても頭がついていかない。
「爆豪さんあの、」
「おいおいおい、その呼び方やめろ。勝己でいい」
う、呼びずらい…そう思うも彼はまるでわたしが名前で呼ぶのを待っているような顔すらしている。気づかれないように小さく深呼吸をすると、「…勝己」繋がれてる指をキュッと握った。
「ンだよ」
「一緒に寝るつもりですか?」
「あ?当たりめぇだろ。今更何言ってんだてめぇ!」
「ならダブルでいいです。キングは大きすぎます」
向かい側にある少し小さめのを指さしてそう言うと勝己は無言で寝心地も確かめる事なく店員を呼びつけてそれを注文した。
「寝心地、確かめなくてよかったんですか?」
「名前が選んだならなんでもいい」
歯の浮くようなそんな台詞、似合わないと思うのに、親友みたいに私って人間をはなっから信じてくれているみたいでとても嬉しかった。だから繋がれた手にほんの少し力を込めると照れ臭そうに視線を逸らす勝己にまたトクンと胸が脈打ったんだ。