「欲しいもんあんなら全部買っとけよ。俺が居なきゃ運ぶの面倒なもんもあんだろ」
…そう言われても。
「でも、そんな」
「あー気にすんな。そのうち嫌でも返して貰うから、…身体でな」
耳元でそう言う勝己にドクンと心臓が脈打つ。この人、こんなおちゃめな事する様な人なの?
そもそも、爆豪勝己という人間をほとんど知らない私は、イメージと違う事ばかりでわりとお腹いっぱいなんだけど。
「勝己って、ヤンチャだったでしょ」
「あ?普通だろ。…ンだよ、嫌なのかよ」
ムスッと機嫌悪そうに眉間に皺を寄せる勝己に首を振る。
「そーゆう台詞も、なんかイメージわかなくて」
私の言葉の意味を考えるように視線を泳がせた。
「誰にどう思われようがどーでもいいが、名前の前では分かんねぇけど、ポンポン言葉も出てくるし、普段は言えねぇような言葉も言えちまう…。それも名前の個性のせいか?」
「まさか!そんな個性じゃないです」
「なら、てめぇのせいだな」
八重歯を見せてそうやって知らない顔で笑うと、勝己はまた家具を物色し始めた。勿論ながら私の手を強く握ったままに。
そうやって私たちは、土曜の休日を一日買い物をして過ごした。ほとんどの物が揃った。仲良く二つ並んだ食器を見て正直テンションが上がる。生まれてこの方異性と一緒に住んだことは無い。今まで恋人がいなかった訳ではないけれど、同棲を求めた人はいなかった。だからこれは私にとっても初めてのこと。緊張とか不安とかもあるけれど、心の中は思いの外ウキウキしていた。
「お酒飲みます?」
「あぁ。てめぇも飲めよ」
「じゃあ、いただきます」
買い物の帰りに寄ったスーパーで惣菜を買って、酒のツマミと一緒に今日はたらふく食べようと意気込む。
料理はできる時でいいとか、洗濯は休みの日に纏めてやりゃいいとか、色々と考慮してくれている。そもそもが一人暮らしだった彼は、家事全般ができる様だった。几帳面な性格からか、部屋も散らかっていないし、綺麗に片付けられている。そんなに物も多くないし、男の部屋って感じが妙に漂っている。
ダイニングテーブルで向かい合ってシャンパングラスにコポコポとスパークリングワインをついでくれる勝己は、私を真っ直ぐに見つめて言った。
「名前、お前は俺に何を求めてんだ?」
「へ?」
「言ったじゃねぇか、お前の望みは全部叶えてやるって、何かあんならさっさと言えや」
ローストビーフをパクつく私をあまりに真っ直ぐ見るから恥ずかしくて。ゴキュっと飲み込んだ。赤い瞳は一体何を考えているのか分からないけれど、そこには全然怖さも嫌悪感もない。まだ知り合ってからほんの少しだけしか一緒の時間を過ごしたわけではないというのに、どうして私は目の前のこの人の言葉をすんなりと受け入れてしまえるんだろうか。
生きてきた場所も育った環境も何もかも違う人なのに。普通に生きていたら巡り会わない人だと思うのに。
勝己に求めているのもの、私が勝己に望んでいることって、なんだろう?
考えたところでそんなもの、分からない。
「勝己は、ないの?」
「あ?俺?」
「うん」
「俺は名前が欲しい。そんだけだ。他に欲しいもんなんかねェよ」
サラりと言ってのける勝己にドクンと胸が脈打つ。イメージ外のその言葉は私だけのものかもしれないなんて思うと、よりいっそう胸が爆音を鳴らす。プロヒーローに求めているもの、というよりかは、爆豪勝己二求めているもの…ーー
「あ、ある!一つあった!」
「おー、なんだ?」
「愛!」
「は?」
「私、愛が欲しいです。これでもかってぐらい、愛されたい…ーー」
キョトンとした顔は一瞬で、思いっきり眉間に皺を寄せる勝己。なんとも言えぬ複雑な表情で頭を抱えた。そうかと思えばぐしゃぐしゃとクリーム色の髪を掻きむしる。
唐突に浮かんだそれを思わず口にすると勝己はごくごくとグラスの中のスパークリングワインを一気に飲み干した。
「てめぇ覚悟できてんだろな、」
「へ?」
「俺にめちゃくちゃ愛される覚悟だよ」
「あーと、たぶん」
「たぶんじゃやめろ、」
「ええ?」
ダンっとテーブルの上、勝己の手が音を立てる。そのまま私の手を握るとそれを握りしめるようにギュッと掴んだ。急に距離が近づいて途端にまた心臓が爆音を立てる。瞬きを繰り返す私と、決して視線を逸らさない勝己。
「あの、ダメだよね、やっぱり、そんな不純なこと」
「なんも分かってねぇな、てめぇは」
自分でも馬鹿だなって思う。でも一つだけ求めるのなら、私はきっと愛が欲しいんだと思う。
「目閉じろよ」
気づくと勝己の顔がすぐ傍にあって、温かい手が頬を包むように触れている。トクンと胸をトキメかせながら、目を閉じた。何が起きるのか分かっている。そんなに子供じゃないーー
この人は、私の欲しいものを全部くれる人だ。