一歩前に

「ねーなんかあった?ねぇねぇ」
「………」

何度目かの溜息の後、親友が私を見てニーッコリ笑っている。
金曜日でもない平日のアフターに呼び出した私に、嫌な顔一つする事なくこうしてディナーに付き合ってくれている。いつものイタリアンレストランで、いつもの場所で食べるパスタは絶品なはずなのに、私の舌はおかしくなってしまったのか、味がよく分からない。

「爆豪と進展したんでしょ?どーせ!それで戸惑ってるんでしょ?」

まさかのご名答に私はガックリと項垂れる。テーブルにダランと身体を倒して腰をくねらせる私を、頬杖をついた親友の瞳が優しく見下ろしている。

「勝己が欲しいもんねぇのか?って聞くから…愛が欲しいって言ったら…ーー愛をくれた。うーなんかもうまともに顔が見れないよぉ親友〜」
「カツキね、カツキ。てか愛くれたんだ、カツキ!」

どうやら勝己呼びが気に入ったらしく、親友も彼をカツキと呼び始める。
思い出すだけで身体がカァッと熱くなるようなそんな時間ひとときだった。

「どーしよう親友、私…好きになっちゃいそうでさ、いいのかな…」
「いんじゃない!」
「即答…」

眉毛を下げて笑う私に親友もまだニコニコとしている。いつものピーチティーをストローで口にするとそれを緩く掻き混ぜながら視線をこちらに移した。白いノースリーブシャツから出ている腕は細く、せめて親友の様に美人だったらこの状況をもっと受け止められるのだろうか?

「人を好きになるのに、時間は関係ないと思うし、正直あたしは前回の時点で名前は多少なりともカツキに惹かれてるんだろうと思ってたけどね」

そして、親友がそう言うのなら、それでいいんだとすら思えた。
確かにまだ勝己と出会ってそんなに時間は経っていない。お互い恋愛しているという感覚は正直ない。強いてゆうのなら、契約している?とか、そんな感じ。
私の個性を存分に彼に注ぎ込む事で、私はその見返りで彼に愛を貰う。そんな契約事を交わしたような関係なのかもしれない。
このまま前に進んでいいのか迷っていた私の背中を押して貰う為に、今夜親友と会っているんじゃないかと思えた。

「うん。そうだよね。勝己と一緒にいるとなんか色々ネジが緩んじゃって。もっと知りたいとか思うし、もっと一緒に居たいとか、思っちゃう。ねぇ待って、急に恥ずかしくなってきた!!」

ボンっと顔に熱が集中する。自分の顔がどんどん赤くなっていくのが分かる。両手で顔を覆う私と親友の笑い声が重なる。ザワついた店内でいつものパスタの味が漸く分かるようになってきた。

「じゃあ名前の気持ちがちゃんと固まったらカツキに伝えなよ?ね?」

小首を傾げて笑う親友に、その大好きな笑顔に私はコクリと頷いたんだ。





「ただいま〜」

玄関ドアの表札には爆豪と苗字と連なっていて、それを見るだけでトクンと胸が脈打つ。ソファーで飲んでいたのか、勝己が無防備な格好でウトウトとしていて、私が帰ってきた事に気づいていない。
黒タンクと黒パンツ姿の無防備なプロヒーローの寝顔をソファーの下に座って凝視する。
寝顔はほんと天使だよなぁ〜眉毛下がってて可愛い。
伸ばした手でクリーム色のふわふわの髪の毛を一撫ですると、「あ?帰ったのか」容易に目を覚ました。

「うん、ただいま勝己」
「おう」
「風呂沸いてる。飯は?」
「うん、食べてきた。シャワー浴びてくるね」
「あぁ」

そう言った勝己は、腕を伸ばして私を掴むとそのままグイッと引き寄せて抱きしめた。ポンポンと背中を優しく撫でると私を離して視線を絡ませる。頬に手を添えてそのままソファーに肘を着くと頬の手を後頭部に回して力任せに勝己の胸にストンと身体を持っていかれる。同時に重なる唇に、勝己の温い舌が遠慮なく口内に入り込んだ。逃げ惑う私の舌を追いかけるように口内の壁を舌で舐め取られてゾクリとする。それを分かっているのか勝己はキスを辞める気配もなく、どんどん深くなる口付けに私の呼吸はおおいに乱れてゆく。

「勝己…」
「ンだよ」
「お風呂、」
「あ?一緒に入るか」
「な!!!!入らないよ」
「そうかよ」

まさかのお誘いを遠慮なく断ると、プイッと背中を向けてソファーに寝転んだ。え、いじけてんの?ブッと吹き出す私に、勝己の身体がこちらを向いて「笑ってんな」そう言う勝己の口端も緩い。
どうしよう…かっこいい…このまま抱かれてしまいたいと思いながらも、諸々準備をしてからにしようと気合いを入れて立ち上がる。起き上がった勝己はワインをグラスについでそれをごくごく飲んでいる。一緒に飲みたい気持ちを抑えて私はお風呂で全身綺麗にと、急ぐのであった。