東京卍會

叶えたい夢


幼馴染の場地圭介の後ろにいつの間にかくっ付いて来ていたのが松野千冬だった。
場地くんをめちゃくちゃ慕っている千冬くんは、いつもどんな時も場地くんの行く場所へと着いて行き、まるでその生き様を刻みつけているかのように、場地くんを崇拝していた。
そして、彼の幼馴染である私とも自然と千冬くんは話すようになって、そうなるとなんというか、千冬くんの醸し出す可愛いのに落ち着いている所とか、想像以上に男らしい所とかが見えてしまって…

「いい加減告ればいーだろ、名前。千冬なら喜んでOKするから」

…他人事だと思ってマジムカつく。
ムスッとした顔で場地くんを睨みつけて溜息を零す私は、今夜行われる花火大会のチラシを前に立ち止まっていたんだ。それに気づいた場地くんが私の頭をコツっと小突いてそんな風に声をかけてきた。
場地くんが言うのならそうなのかも…なんて思いたくなるのは二人がめちゃくちゃ仲が良いからだけれど、現実はそううまくはいかない。
そして、私には自分から千冬くんに想いを伝える勇気が今だまったく出やしない。
そもそも千冬くんに恋している女は私一人ではない事も分かっている。トーマンはこういっちゃなんだけどイケメンが多く、そこに憧れている女子たちも私の周りにも沢山いる。私だってできるのなら千冬くんと二人で行きたい。たかが街の花火大会に千冬くんと二人で行く事は私にとって、叶えたい夢でもあった。

「千冬くんって、人気あるんだよね。私なんかが千冬くんの彼女になれる訳ないし、」
「馬鹿かてめぇ!俺は好きじゃねぇんだわ、そのワタシナンカって言葉。つーかお前ぶつかってもいねぇのに勝手に答え決めてんじゃねぇか。人生一度きりだぞ、後悔すんじゃねぇよ、やり切ってダメだったら…仕方ねぇ…慰めてやる、特別にな!」

ペシンと背中を叩かれる。軽く叩いたんだろうけどめっちゃ痛くて前につんのめった私を何処から現れたのか、千冬くんの腕がスッと支えた。

「大丈夫?」
「わわ、ごめん。千冬くんあのいつから居た?」

まさか、今の話聞かれてないよね?チラリと見るも当の千冬くんは「今来たとこだけど」って屈託なく笑った。手には場地くんの好きなペヤングを持っていてそれを楽しそうにカラカラ振っている。

「おー千冬!俺ちょっとマイキーに呼ばれてんだわ。名前の事頼むな!そーいや名前、確か花火大会行きてぇって言ってたよな。悪りぃな千冬、連れてってやれ」

ニカッと笑う場地くんの八重歯がキラリとひかる。超絶お節介だ!そう思うけれど、私一人の勇気ではとてもじゃないけど誘えなかった。

「な!場地さん、あのっ」

真っ赤な顔した千冬くんと目が合う。いつも私と千冬くんの間には場地くんがいて、二人きりで話す事なんて今までなかったから死にそうなくらい緊張する。
颯爽とバイクに乗って消え去る場地くんは、しっかりとペヤングだけは千冬くんから奪っていったんだった。

「千冬くん、無理して行かなくても、」
「行くよ。場地さんの頼みは何がなんでもきく」

場地くんが言ってなかったら、やっぱり私なんかと行く訳ない…そんな事言われてないけど、千冬くんの言い方はそう取れなくもない。場地くんに慰めて貰うのも時間の問題かなぁなんて思えたんだ。





浴衣が着たいからって一旦家に帰って浴衣に着替えて待ち合わせ場所へと行く。カラカラと下駄を鳴らして歩いていると、歩道橋の途中に見知った顔があって立ち止まる。

「え、千冬くんも浴衣?」
「…花火大会つったら浴衣だろ。…後、逸れねぇように」

ふわりと見た目より大きな千冬くんの手が私の手に重なった。真横にいる千冬くんは、グレーの浴衣がよく似合っていて…私の淡い水色の浴衣をチラリと見ると、顔を逸らしてでも小さく言ったんだ。

「浴衣、可愛い。すげー似合ってる」

キュッと心無しか握った手に力が込められた様な気分だった。そしてさっき場地くんに入れられた喝。それに背中を押されるかの様私は千冬くんに繋がれた手に自分の指を絡めた。周りは私たちと同じ様に手を繋いで楽しげに話しているカップルも多く、屋台で賑わっている。私と千冬くんだけがこの場に固まった様に動けなくて…

「あ〜もう無理っ!!」

不意に千冬くんが項垂れるようなそんな声をあげた。視線の先の彼は可愛らしい顔をほんのり膨らませている。それがめちゃくちゃ可愛くてできるなら今すぐカメラに収めたいなんて思ってしまう邪な私。でも千冬くんは繋がった手をほんのり強めに引き寄せてあろう事か私の肩に千冬くんの顎がふわりと乗っかる。

「千冬くん、どうしたの?」
「名前は、場地さんの大事な幼馴染だから、あの人が大事にしてるもんは俺も守るし、傷つくような事は絶対ぇしねぇ。そう半分は思ってる。けど、浴衣とかすげー綺麗だし、恋人繋ぎなんてされたら…めちゃくちゃにしたくなんじゃん…」

語尾にいくに連れて声が小さくなるけれど、如何せん耳元で話しているから、一語一句聞き逃すことなく鼓膜に届く。千冬くんの言う、めちゃくちゃがどんな事なのか分からないけど…

「千冬くんになら、めちゃくちゃでもなんでもいい…」
「だから〜んな事簡単に言うなよ…マジで理性がぶっ壊れるから」

ガシガシって頭を掻きむしった千冬くんは、人混みから抜けて神社の林を突っ切ってマンションの下にある小さな公園に私を連れて来た。

「千冬くん?」

手を繋いだままの私たち。半歩前を歩く千冬くんの手に力を込める。振り返った千冬くんは手を離して私を正面から抱きしめた。

「ずっと好きだった。」

低い千冬くんの声が私の身体全部に届いた。
トクンと胸を脈打つ鼓動に千冬くんが今どんな顔をしているのか確かめたくて、そっと胸を押して距離を作るとジッと千冬くんを見つめる。想像通り照れた顔。でも真っ直ぐとこちらを見つめ返すその瞳は、とうに私の心を射抜いて離さない。

「もう一回言って欲しい」
「え、」
「今のもう一回聞きたい」

なんて事言うんだ!?って顔で大きく目を見開いたものの、ゴホンと一つ咳払いをすると、私の頬にそっと手を添えて今度こそ視線を合わせたまま呟いたんだ。

「名前が好きだ。俺の女になって欲しい」

キュン所じゃない胸の音が激しく音をたてる。

「私も、千冬くんが好き。ずっと着いてく」

またふわりと千冬くんに抱きしめられる。細く見えても筋肉の着いた腕は逞しくて、この人になら未来を預けられるなんて単純に思えてしまう。

「名前」

名前を呼ばれて顔を上げると、私でも分かる、キスの合図。緊張して恥ずかしくて心臓吐きそうだけど、ずっと夢見ていたーー千冬くんとのキス。ゆっくりと近づく千冬くんの真剣な瞳に吸い込まれそうで、目を閉じると柔らかい温もりが唇に触れた。
ーー数秒重なって離れた唇。俯いている千冬くんが小さく告げた。

「悪りぃ、全然足りねぇ」

そんな言葉と共に再び重なった唇に、私たちは花火大会を忘れて初めてのキスに酔いしれた。


後日、場地くんに千冬くんとの事を報告したらいつもの笑顔で「千冬を頼んだぞ名前!」そう言われた。
場地くんが繋げてくれたこの恋、私は大事にするからね。


-fin-