抱きしめたい
((※場地くん生存ifで東卍みんな同じ高校の捏造設定です))
「たく、今日はなんだよ、」
そんな文句を垂れながらも私の元へ駆け付けてくれるのは、東京卍會壱番隊隊長の場地圭介。総長マイキーの幼馴染で親友で、そして私の…おともだち。
放課後、手芸部を覗いても三ツ谷くんの姿はなく、三ツ谷くんを捜しながら校内を彷徨っていたら見てしまったソレにとてもじゃ無いけどいてもたってもいられず、こうして場地くんを呼び出した次第だ。
「場地くん、私に隠し事してるよね?」
「あ?何もねぇよ」
面倒くさそうに脚を広げて椅子にドカッと座る場地くんは、目にかかる黒髪を片手でふわりとかき上げた。
心底面倒そうな顔をしているのに、こうして私の所にちゃんと来てくれる場地くんの優しさに甘えている嫌な女である、私は。
先程見た光景が頭から離れなくてそう聞くも、場地くんは頭を振るだけで何も言わない。もしかしたら本当に知らないのかもしれない。
新学期が始まって早6日、この夏休み期間に彼氏彼女ができたって噂は沢山あった。それでもその中に三ツ谷くんが入っているなんて夢にも思っていなかった私は、その日三ツ谷くんと女子生徒が楽しそうに笑いあっている姿を見て、ただならぬ雰囲気を感じ、心がモヤモヤとしたままでいられず場地くんを呼び出した。
「さっき、三ツ谷くんと彼女が仲良く歩いてるの見ちゃって…」
そこまでしか言葉にできなくて。これ以上何かを口にしようもんなら、声が震えてしまうと思って言葉を止めた。自分で思う以上に私は三ツ谷くんの事を好きだったのだと思えてしまう。
そしてその気持ちを唯一知っているのがこの場地くんだった。携帯を弄っていた場地くんは、私の言葉に顔をあげるとほんのり顔を顰める。ブレザーの下、Yシャツの第3ボタンまで開いてる場地くんは私を真っ直ぐに見つめて小さく息を吐き出す。
「三ツ谷アイツ、女の趣味悪りぃかんな。名前がもっとブスだったら三ツ谷も惚れてんじゃねぇか!」
なんと言う慰め方なんだろー。だって三ツ谷くんと並んで歩いていた女子は吃驚するぐらい可愛かった。戦う前から分かる、勝てない事など。あんな子が傍にいたら三ツ谷くんは他に目なんて向けない。そんなの馬鹿な私でも分かる。そして場地くんはやっぱりあの子の事を知っていたんだと。私なんかの女々しい想いを知ってしまったが為に、場地くんには変に気を遣わせてしまったという事も同時に理解した。それでもそれをわざわざ私に言うような事はしないだろうけど。
夏休み中に聞こえていたセミの鳴き声はもうほとんどしない。代わりに夕方になると鈴虫のリーンリーンって鳴き声が聞こえて、窓の外にはトンボが飛んでいる。
人肌恋しい秋がもうそこまできていた。
「送ってやるよ、家まで」
そんな言葉と共に場地くんはポケットの中から取り出したバイクの鍵をチラつかせてニカッと笑う。トレードマークの八重歯を見せて。私は無言で立ち上がると場地くんの後ろを静かに着いて行った。
下駄箱に着くほんの手前で急に場地くんが私だけを空いてた教室に押し込む。いきなりなにっ!?そう思ったら、「場地!何してんの?」そんな声がして…ドア一枚隔てていても分かる、三ツ谷くんの声に私は見つからないようにしゃがみ込んだ。
「忘れもんだよ、忘れもん!三ツ谷は部活?」
「あぁ。アイツ送ってって、これから部活。じゃーな」
「おー」
アイツ送ってって…って三ツ谷くんの声に胸がギュッと痛い。三ツ谷くんみたいな素敵な人に彼女がいない訳ないって分かるけど、思いの外脳が着いていかなくて膝を抱えたそこに顔を埋めた。
カタンと音がしても顔を上げられない私に、場地くんが近づく気配がした。ポコンと頭に手が乗っかって、乱暴に撫で回す。やめてよ、髪の毛クシャクシャになっちゃうよ…そんな言葉すら言えなくて、場地くんは泣き出す私を見捨てることなくただ傍に居てくれた。ずっと背中を撫でてくれる大きくて温かい場地くんの手に、私の心は少し救われたんだ。
家まで送ってやる…そう言ってくれた場地くんは、私をバイクに乗せて、ただ色んな所を走ってくれた。そんなに時間がかかる距離なんかじゃないのに、1時間ぐらい色んな道を走ってくれて、何で私はこの人を好きにならなかったんだろう…なんて馬鹿な事を考えてみた。
ついさっきまで三ツ谷くんの事で頭がいっぱいだったはずなのに、今はこうして傍に居てくれる場地くんの事を考えている。泣いてスッキリしたから?
「なんか飲む?」
公園でバイクを停めた場地くんが私にそう聞いた。
ヘルメットをカチッと外してバイクのハンドルにかけると私の腰を掴んでふわりと抱き上げると、地面に優しく降ろしてくれる。
「場地くん、そーゆー事他の女の子にもしてるの?」
「は?」
目をキョトンとさせて私を見下ろす場地くんは、私の言葉が理解できていないって顔で眉間に皺を寄せた。首をコキッと鳴らして「そーゆー事?あ?」そう聞き返してきたから私は場地くんの腰を掴んで無理くり持ち上げようとした。
「名前なにすんだ、」
「だから、今みたいなの!私の事抱き降ろしてくれたでしょ?そーゆー事、他の女降ろす時もやるのか?って聞いたの」
物凄い変な顔で私を見た場地くんは低い声で続けた。
「女は乗せねぇよ。千冬ぐらいだな、後ろに乗りたがんのは」
大股開いて自販機の前まで歩く場地くんはポケットから100円玉を取り出すとそれを硬貨投入口に入れた。視線が飛んできて「好きなの押せよ」って言われる。
私はお決まりのミルクティーを押すとそれを拾ってプルタブを開けてくれる場地くんに、キュンと胸が高鳴った。
…ヤバい、これ。すごくヤバいかもしれない。
場地くんから目を逸らして「ありがとう」と受け取る時にほんのり触れた指が熱く感じるのもとてもヤバい気がする。
場地くんは自分の珈琲を押すとそれを取ってごくごくと飲み干した。
「あ、一口飲む?」
ミルクティーの缶を場地くんに差し出すとまじまじと視線を合わせられてドギマギする。完全に視線を泳がせている私の肩に不意に場地くんの手が触れた。
え、なに!?
「甘っ!!」
…何が起こったの?
真っ赤な顔で見つめる先、なんて事ないって顔の場地くんがニカッと笑う。唇に微かに残っている場地くんの舌の感触。今、私の唇舐めたよね!?
「名前さー、ちょっと俺の事気になっだだろ?」
「へっ!?えっ!?な、なんでっ!?」
「ばーか、顔に書いてあんだよ。名前の顔色なんてすぐに分かっちまうんだよ、…ずっと見てきたからな」
トクンと大きく胸を脈打つ心音。場地くんは真剣な顔で大きな手を私の頬に伸ばした。
「だって思っちゃったんだもん、どうして私は場地くんを好きにならなかったんだろうって。よく考えるとおかしいよね、場地くんこんなに優しいし、よく見るとイケメンだし、わっ、なに!」
ギュッと場地くんに抱き寄せられた。不意打ちで反応できなくてただ場地くんの胸元にゴツっと顔をくっつける私の後頭部を優しく撫でる大きな手にドクンと胸が高鳴った。
「いいから聞けよ。…三ツ谷の事、俺が忘れさしてやるからさ。その傷は全部俺に預けろよ。名前が笑顔でいれるように、傍に居てやる…俺が」
ず、ず、狡くない?なんか場地くんカッコよすぎる。そんな告白する人この世にいるの!?色々言葉にならなくて、私はただ一度コクリと頷いたんだ。
「よっしゃ、オレの粘り勝ち」
そんな浮かれた場地くんの声だけど、見上げた先、場地くんの耳はほんのり紅く染まっていた。
三ツ谷くんへの気持ちがあったからこそ、場地くんの優しさに気づけたんだって思っていいよね。
