毎日こまめに消毒をしているせいか、膿んだりしておらず今のところ順調だと思う。三ツ谷くんのあのピアスをつけられる日がくるのが待ち遠しい。
LINEに三ツ谷くんの名前が登録されたからといって、彼と連絡を取り合う事はなかった。学校に行けば三ツ谷くんは大体ちゃんと出席しているし、そもそも同じクラスだし。それ以外で特に用事なんてなく、クラスで喋った所でわざわざLINEをする事もなく、一週間が過ぎた今日、初めて三ツ谷くんからLINEが届いたんだ。
【この前追われた愛美愛主の奴らやり返したから、もし苗字の所に変な奴らが来たらすぐ俺に連絡してな】
え、私の所に変な奴ら、来ます?
ヘルメット被ってたし顔なんて見られてないと思うけど、三ツ谷くんにそう言われるとちょっと怖い。
「名前〜!悪いんだけど牛乳足りなくなっちゃって買ってきてくれない?」
着替えてからYouTubeでも見ようと思っていた所に、母が部屋に入ってきてお使いを頼まれたので仕方なく私は財布とスマホを制服のポケットに入れて家を出た。
だいぶ日が伸びてきたとはいえ、夕方の6時を過ぎるともう辺りは暗くなっていた。近くのコンビニで買うよりも、公園をぬけた先にある商店街の中にある大型スーパーで買った方が安いと思い、通り慣れた公園に脚を踏み入れた時、しくじったと思ったんだ。
高校生らしき男子が制服のまま煙草を吸っていて、私を見た途端、何故か近づいてきた。ドクドクと心拍数があがって速歩で公園内を突っ切ろうとするも、腕を掴まれて脚が止まる。
「苗字名前さん、ちょっと顔貸せよ」
手首をギリギリと掴まれてフルネームで呼ばれた。もちろん自分はこんな奴らは知らないし顔も見た事なんてない。けれど私の名前を知っているという事は…
「
フーって煙草の煙を顔にかけられて横に背けた。もしかして、三ツ谷くんの言ってた変な奴らがコイツらなんじゃないかって。
「三ツ谷くんになんの用ですか?」
「おーい、口答えすんなよ。てめぇには関係ねぇが、三ツ谷呼び出す口実はお前が最適だって調べはついてる」
汚い顔を近づけて煙草臭漂わせて言われるけど、全然意味不明。どうすればいいのか分からないけど、このまま捕まったままじゃ拉致があかない。
「仰る意味が分かりません」
「黙って呼べばいんだよ、つかスマホ貸せや」
男に押さえ付けられて手中で握りしめていたスマホを強引に取られる。私の指紋で画面ロックを解除すると男たちはLINEを開いて三ツ谷くんとのトーク部屋でテレビ通話のボタンを押した。
【苗字どうした?あぁ誰だテメーら。苗字に何してやがる】
すぐに三ツ谷くんの声が聞こえてこちらの状況を把握した様だった。聞いたことのない三ツ谷くんのド低い声がスマホ越しに聞こえた。
「よう三ツ谷。昨日はうちの奴らが世話になったな。たまたま公園で苗字名前ちゃんと遭遇してよぉ、」
【ふざけんな、苗字に気安く触んじゃねぇ。少しでも手ぇ出してみろ。マジで殺すぞ】
「5分で来いや三ツ谷〜。一秒でも過ぎたらこの女は俺らで回す」
チッて三ツ谷くんの舌打ちと、電話の切れる音。ここが何処だかなんて伝えていないけれど、三ツ谷くんに伝わったのだろうか?え、間に合わなかった私、コイツらに回されんの?てゆーか、処女ですけど!キスもした事ないし、オトコと付き合った事もないんだけど!
急に不安に襲われて目頭が熱くなった。辺りを見回してもここは正直人通りも少なく、だだっ広い公園からじゃ音も民家には届かない。だから遅くなった時は絶対に通るんじゃないって言われていたんだ。今更ここを通った事を後悔しても遅いというのに。
「…どうして私の名前知ってるんですか?」
苦し紛れに小さくそう聞くと、男は厭らしい笑みを口端に浮かべて言ったんだ。
「どうしてって、三ツ谷の弱点だよ苗字名前、三ツ谷の嫁だろ?」
…ーーは?
思わず眉間に皺がよる。三ツ谷くんの弱点?三ツ谷くんの嫁?よ、ヨメ?
「あー違った?けど三ツ谷の弱点はどいつに聞いても苗字名前だって言うぜ!」
「そんなの、何かの間違いです」
三ツ谷くんとは3年になって初めて同じクラスになったばかりだし。確かに三ツ谷くんの事は有名だから知ってはいたけど、彼が私を知っていたとは到底思えない。それにピアスの時に初めてちゃんと喋ったぐらいで、そんな素振り見せもしない…ーー
ババババババ…遠くから聞こえてくるバイク音。それが三ツ谷くんの音だと分かったのは、先日後ろに乗せてもらった時と同じ音だったから。時間にして5分と過ぎていない、三ツ谷くんが来てくれた。公園の中までバイクで入って来た三ツ谷くんは、男に押さえ付けられている私を見て「クソ野郎ッ!」思いっきり睨みをきかせる。
バイクを降りた三ツ谷くんが目の前に来るとホッとしたのか安心したのか、ホロりと涙が零れた。それを見た三ツ谷くんは顔を歪ませて「汚ぇ手で苗字に触るなと言ったはずだ、二度も言わせるんじゃねぇぞ、このクソ野郎共がァァァ!!!」三ツ谷くんはその場にいた3人を瞬殺で殴り飛ばすと、私の腕を掴んで後ろに引き寄せた。
「すまねぇ苗字。俺のせいでこんな事になって」
「三ツ谷くん、」
「悪いがバイクの前で待っててくれ。カス共をぶん殴ってくっから」
うんとも、すんとも言えない私を一度振り返ると、優しく微笑んでポンと頭を撫でた。いつもの三ツ谷くんの笑顔にコクリと頷くと三ツ谷くんは私に背を向けてコキッと首を左右に大きく振ると「生きて帰れっと思うなよ、カス共」凄んだ三ツ谷くんの声に私は目を細めて初めて男同士の喧嘩を目の前で見たんだった。