夏休みに入って数日後、三ツ谷くんから連絡が来た。
トーマンとメビウスがやり合う前にメビウスの総長直々にトーマンの所にやって来て総長のマイキーくんが、メビウスの総長をノシたから、今やメビウスはトーマンの傘下に入ったと。これでもう、メビウスの奴らにトーマンが狙われる事は一切なくなった。
…ーーでも。その抗争で、参番隊のぱーちん隊長がメビウスの総長を刺して捕まってしまって、そのせいでトーマン内がマイキー派とドラケン派の二つに別れていて、内部抗争すら起こりそうだ…と。内部事情をボソボソと私に話してくれる三ツ谷くんとこうして顔を合わせるのはあの日以来。
ーーそう、あの初キスの日以来。
あの日、三ツ谷くんの嫁になったら私はどうなるのか聞いた。その答えたは、ゲロ甘やかされていっぱいちゅーする…との答えで。きょ、今日もちゅー祭りなのかと、さっきからドキドキしている。
そしてピアスを開けた日以来の三ツ谷邸にもドキドキだった。
「はいコレ」
そう言って三ツ谷くんが私に差し出したのは、あの日見たプラチナのピアス。すっごく欲しかった奴で私は笑顔で受け取る。自分の掌に乗っているソレを惚れ惚れと見つめる。三ツ谷くんが付けても素敵だろうけど、自分の耳につくと思うと口端が自然と緩んでしまう。
「付けてもいい?」
「いーよー。あぁ俺が付けてやるよ」
三ツ谷くんは私の髪を耳の後にかけるように手で退かすと、ファーストピアスをそっと外した。
「夏だし膿まねーか心配だったけど、大丈夫そうだな」
「うん、毎日消毒頑張ってる」
「いい子だな」
クシャッと前髪を撫でる三ツ谷くんの顔が近付いてきて心拍数がぶち上がる。素早くピアスを付け替えてくれて三ツ谷くんは、鏡の前に私を誘導すると、肩に手を乗せたまま一緒に鏡を覗き込んだ。
「う、わ…綺麗…やっぱり凄く素敵。貰っちゃって本当にいいの?」
きっと値段だって安くはない。安モンだって三ツ谷くんは言ったけど、そんな事ないと思う。こんなに綺麗だし。
「いいんだよ。この部屋にあるもんは全部名前が使っても怒んねぇから」
「それって、嫁の特権?」
「まぁそう。そゆこと…つーかお前可愛いね、」
ちゅっと頬っぺたに小さくキスを落とす三ツ谷くん。突然されて照れる暇すらなかったけれど、鏡越しで三ツ谷くんと目が合うと「こっち向いて」そう言ってくるりと反転させられる。ポスッと頭に乗せた手で髪を撫でながら下ろして肩に置くと三ツ谷くんが耳朶に顔を寄せて口付けた。ゾクリと身体を捩らせるも、三ツ谷くんはちょっと楽しむように耳をペロリと舐めた。肩を竦める私を逃がさないとでも言うかの様、腰に腕をかけてグイッと引き寄せる。そのままバランスを崩してドスンと床に尻餅をつくと「大丈夫?」優しく聞かれた。
「平気」
そう答えるのが精一杯で、三ツ谷くんはなんてゆうか、スイッチオンしちゃったのか、膝を立てている私のそこに手を着くと、背中に腕を回して痛くないようにラグマットの上に押し倒した。トクントクンと鳴っていた心音が途端にトクトクトクトク…と、爆音を鳴らす。
マットの上で広まった私の髪の毛を整えてくれた三ツ谷くん。
「苗字名前が好きだ」
そう甘く低い声が私の耳に届いた。
心の準備なんて何もできていない。でも目の前の三ツ谷くんしか見えなくて、三ツ谷くんの温もりが落ちるとそれにギュッとしがみつく。
カチカチと時計の秒針が動く音と、服が擦れて出る音。
三ツ谷くんの舌が絡まる音と、熱い吐息の音に目眩がしそう。
「私も三ツ谷くんが好き。大好き」
ギュッと三ツ谷くんにしがみつくと、想像より分厚い胸板で抱きしめられた。
「この先どんな事があってもさ、俺が名前を守るから。だから俺を信じて一緒にいて欲しい…」
「うん信じる。三ツ谷くんの傍にいたい」
「可愛い奴、マジで」
ちゅって鼻の頭に小鳥キス。その後迷うことなく重なる唇に私はそっと目を閉じたーー。
嫁の特権、私だけの特権。心の準備はできてないなんて思ったけれど、三ツ谷くんが醸し出すエロスな空間はそれも奪ってしまう。
いざ、服の中に手を入れこもうとした時だった。
聞こえたバイブ音。三ツ谷くんの携帯がブーブーと振動しているのが分かる。
眉間に皺を寄せた三ツ谷くんが出ようかどうしようか迷っていて、「急用かもよ、電話」そう言うも、三ツ谷くんは「この時間より大事な用はねぇだろ」正直その言葉だけでめちゃくちゃ嬉しくって。私はズボンのお尻ポッケに入ったままの三ツ谷くんの携帯を取り出してあげた。画面を見た三ツ谷くんはがっくし項垂れていて。
「おいぺーやん!!くだらねぇ事言ったらぶん殴んぞ!!」
三ツ谷くんらしからぬ言葉に電話口の林田くんが不憫に思えたなんて。
だけれど、急に真剣な顔になった三ツ谷くんは小さく相槌を打っていたものの途中で否定するような言葉を口にしていて。
「よせぺーやん。そんな事してもぱーちんは戻って来やしねぇよ。ぺーやんが納得してねぇこと、ドラケンも分かってんだろ。お前、自分が何しよーとしてっか分かってんのか?ちょっと待て、一旦止まれ。すぐ行くからそれまで待ってろ。じゃーな」
トクンと胸を打つ鼓動が不穏な空気を纏っている。
「悪りぃ名前、野暮用だ。行かねぇとマズイ…」
浮かない顔でそう言う三ツ谷くんに、私はコクリと頷く。三ツ谷くんの低い声と表情からに、あまり良くない事が起こっているんだって思う。でも私は三ツ谷くんを信じると決めたから…
「うん、また来てもいい?」
「おう。続きは次会った時な」
そんな言葉すら嬉しいんだ。当たり前に次の約束ができる関係だっていうのが嬉しくて大きく頷くと三ツ谷くんが眉毛を下げて笑った。
インパルスに乗った三ツ谷くんのバイク音が遠ざかっていく。どうか無事でいてくれますようにと、強く願うしかなかった。