貝殻に込めたI love you

東京卍會肆番隊副隊長、河田ソウヤ。
目黒のツインデビルの片割れ、双子の弟であるソウヤくん、通称アングリーと付き合うことになって初めてのデートだった。
その名の通り、見た目は常に怒り顔だけれど、その中身はとても心優しい人、それがソウヤくんだ。
先日ひょんなことからソウヤくんと付き合うことになった私は、初デートに浮かれていた。
「スカートは禁止」ってLINEに、デートだからスカートで行こうと思っていたのに…なんて思ったけれど、ソウヤくんと二人で出掛けられるならどんな所でも、どんなデートでもきっと嬉しいんだとも思えた。新しいピンク色のリップを塗ってちょっとだけ気合いを入れてメイクをした。長い髪は朝からコテを使って丁寧に巻いてからお気に入りのシュシュを使って一本で束ねた。パステルミントのUネック、パフ袖なニットに白のデニム生地のホットパンツを合わせたお気に入りの勝負服を纏い玄関のドアを開けると、バイクに跨ったソウヤくんが怒り顔で「おはよ」と言った。駆け寄って行って「ソウヤくんおはよ!」ニッコリ笑うと目を逸らされるも、伸びてきた腕がふわりと私の髪を一無でした。今日の為に用意してくれたのか、ピンク色のヘルメットを私に被せてくれたソウヤくん。バイクの後部座席に座った私の腕を自分のウエストに引き寄せると「離れないでね」そう言われてコクリと頷くとバイクのエンジンをかけて走り出した。ここから一体何処に行くんだろ。
小一時間程バイクを走らせて辿り着いたのは…

「わ、八景島シーパラダイス!わーすごーい!え、水族館?」
「うん。名前ちゃん好きかなって思ってここにした」
「好き!ずっと来てみたかったの!嬉しいソウヤくん…ありがとう」
「名前ちゃんの喜ぶ顔が見れれば俺はそれが嬉しいから。…手、繋がせて」

いつもの怒り顔がほんの少し和らいでいるソウヤくんは、照れたようにちょっと強引に私の手を掴んだ。すぐ様間に指を絡められて「俺から離れないでね」ボソッと言うと私を引いて歩き始めた。
薄暗い水族館の中には、700種類、12万匹の生き物が存在していて、興奮気味の私はソウヤくんの腕を引っ張る勢いで奥へ奥へと進んでいく。

「これ、やる?」
「え?」
「アクセサリー作らない?一緒に」

海の宝石シェリウムで、ひたすらウミウシや貝の仲間をガン見していた私に、ソウヤくんが【真珠取り出し体験】の看板を指さしてそう言った。そこには、アコヤガイから本物の真珠を取り出し加工する事でオリジナルアクセサリーが作れる…と書いてあって、私は大きく首を縦に振った。

「作りたい!」
「うん」

ほんの一瞬口端をあげたソウヤくんは、私の手を引いて体験プログラムの受付をしに行った。
テーブルの前で待っているとスタッフのお姉さんが籠に入った沢山のアコヤガイを持ってきた。それを前にテンションが上がったのは言うまでもなかった。大好きなDisney映画にあるリトル・マーメイドに出てくる様なアコヤガイを籠の中から選んで、貝を開けると、真ん丸の白い真珠が顔を出した。

「うわぁ…綺麗…」

キラキラと輝くそれはとても神秘的で、海の中にこれが沢山落ちてると思うと、なんだかとてもワクワクしてきた。初めてこの真珠を見つけた人はきっと物凄く感動したんだろうなぁなんて思えて…この体験を一緒に楽しんでくれているのがソウヤくんでよかったと思わずにはいられない。ソウヤくんの顔はスマイリーなナホヤくんと違って笑ってはいないけれど、それでも分かる、今この瞬間ソウヤくんも楽しんでくれているのが。だって醸し出す空気がとても優しい。ソウヤくんを纏う空気はいつだって私に優しくて心地がいいんだ。真珠を取り出したアコヤガイも持って帰れるみたいで、そこにソウヤくんはペンでメッセージを描いていて、覗き込もうとすると「見ちゃダメ」ポイッと押されて見せてくれなかった。でもそれ程気にする事なく私は目の前の真珠に見とれていたんだ。

「真珠のアクセサリーなんて、大人の女だよねぇ」

私の小さな呟きにソウヤくんは顔ごとこちらに向いていて。私の肩に顎を乗せると耳元でソウヤくんが私の呟きに答えるように言った。

「俺が名前ちゃんを大人の女にしてあげるよ」

頬を掠める唇に身体がカァッと熱くなる。ソウヤくん達トーマンは、ギャラリーをあまり気にしない人が多く、こんな風に密着されて私は終始ドキドキが止まらずにいる。

「もうソウヤくん、ここ水族館だよ」
「だから?」
「だからって、人がいっぱい見てるから、くっついたらダメ」
「なんで?無理なんだけど」

首元をくんくんと匂いを嗅ぐソウヤくんにキュンとしつつもくねっと腰を捩らせた。ダメだと言われると余計に意地悪したくなったりするものなのか、ソウヤくんは隙あらば私の頬に小さなキスを落としてくる。真剣な顔で無言で私を射止めるソウヤくんの熱い視線に何度となくここが水族館の中だと自分の脳内に叩き込むしか無かった。
それから真珠を加工してオリジナルのネックレスを作った。ソウヤくんとお揃いというだけで嬉しくて自然と笑みが零れる。私が作ったやつをソウヤくんがつけて、ソウヤくんが作ったのを私につけてくれた。たったそれだけで緩んだ頬が戻らないくらいに顔がニヤついてしまう。そんな私を見ていただろうソウヤくんが、不意にカシャンとスマホで写真を撮った。

「え?今撮った?」
「うん。可愛いかったから」
「もー恥ずかしいよー。撮るなら一緒に撮ろう!」

ソウヤくんのスマホを奪うとインカメにしてまたソウヤくんに返す。スマホを見たソウヤくんは、私の肩に手を回してグッと引き寄せると、画面に向かってピースする私をしっかり写すようにカシャンとボタンを押した。それをそのまますぐ様待ち受け画面に設定しちゃうソウヤくんにまたキュンとした。

そろそろお腹が空いてきたって事で、中にあるハワイアンカフェに入った。パンケーキのあるお店で、それもソウヤくんが下調べしてくれたのかと思うと嬉しくて、友達や家族と色んなパンケーキを食べてきたけれど、今まで食べた中で一番美味しかった。それをソウヤくんに伝えると「俺も。名前ちゃんと一緒だと食うもん美味いし、見る景色も綺麗だ。こんな優しい気持ちは初めてだよ」…そう言うけどソウヤくんはいつだって優しいのに。でもソウヤくんがそんな風に言ってくれるから、私はどんどん欲張りになってしまいそうで…

「ソウヤくん」
「なに?」
「大好き」
「名前ちゃん?」
「だってソウヤくんかっこいいんだもん。水族館だってアクセサリーだってパンケーキだって、全部私が喜ぶ事で…今すごく楽しくて、このまま時間が止まればいいのにって思う」

ギュッと繋がっている手に力を込める。好きって気持ちが触れてる場所からソウヤくんに伝わればいいって思う。まだまだ半分子供で大人になりきれていない私たちだけれど、今ここにあるソウヤくんへの気持ちはきっと一生変わらないだろうって思えた。
ソウヤくんは、ナホヤくんみたいに笑うと「ばーか」って言うと私を連れて水族館を出て行く。

「どこ行くの?」
「海!」
「海?」
「そ。二人きりになれる場所!」

それは私も同じで。今日は朝からすごくすごく楽しくて初デートでこんなに素敵な思い出が沢山できると思っていなかったからすごく満たされている。ーーそう思ったけど、まだ一つ足りなくて。ソウヤくんを好きだと思えば思うほど、ソウヤくんにギュッてして貰いたくてうずうずしていたんだ。海岸に下りた私たちは手を繋いで波打ち際を歩く。まだ周りに人はそれなりにいる。でもソウヤくんは大きな岩場を見つけて「あっち行く?」そう聞かれて小さく頷くとまた私の手を引いてそこへと急ぐ。
岩場につくと、人の入れそうな凹みがあったからそこによじ登ったソウヤくんが私の手を引いて上に上げてくれた。

「見て名前ちゃん、もうすぐ太陽が沈みそう…」
「うん。…綺麗…」

後ろから私を抱きしめているソウヤくんの熱い吐息が耳と首筋を掠めて擽ったい。でもずっとこうして触れて欲しかったし、ここは近くまで人が来ない限りは誰にも見られない死角になっていた。
ゆっくりと太陽が海の水面に近づこうとしていた。空はピンク色に染まって海風が髪を揺らす。潮の香りが鼻を掠める。ベタついた空気なんて気にならない。

「太陽と海も好きあってんのかな」
「え?」
「だってさ、アイツらもキスしてる、」

ソウヤくんの言葉に海に寄り添うように沈んでいく太陽が目に入った。

「俺らと同じ」

また優しく微笑んだソウヤくんは、ハグしていた腕を外すと私の身体を自分の方に向けて乾いた唇をそっと寄せた。唇をこじ開けて侵入してきたソウヤくんの舌が口内をゆっくりと舐め、舌をちゅるりと吸い上げられて身体がカァッと熱くなっていく。離れたくなくてソウヤくんの腕をキュッと握るとゆっくりと唇が離れてゆく。
ソウヤくんのふわふわの水色ヘアーが風で揺れていて私を見下ろす瞳の奥は揺れている。

「名前ちゃん…」
「ん?」
「可愛い。大好き。もっとしてもいい?」

聞くだけ野暮なソウヤくんの質問に私は頷いてソウヤくんの腕をギュッと引き寄せた。そのまま迷うことなく重なる唇に酔いしれていたら、いつの間にか太陽と海のキスは終わっていて、空には星が瞬き始めていた。





帰り際、家まで送って貰った私に「はいこれ」差し出されたのはあの時のアコヤガイ。裏っ返すとそこにはソウヤくんからのメッセージで、たった一言「I love you」と書いてある…

「もう、大好きっ!!」

抱きつく私をいつもの怒り顔ではなく、照れた顔で抱き留めたソウヤくんの頬に甘いキスを返した。


-fin-



SPECIAL THANKS LOVE 愛來♡