幸せタイム*中編

(※ドラケン視点です)

「ドラケーン、ちょっと顔貸して!」

昼休み。
いつものタンクの上でマイキーにどら焼き食わせ終えて自分のパンを齧っていたら、下からそんな声がした。視線を送ると名前の仲間たちが俺を見て手招きしている。つか名前いねぇし、なんだ!?
ストンと降りると俺を囲むように女子3人が俺を見上げた。

「んだよ」
「んだよ、じゃねぇ!名前とちゃんと話してんの?」

三ツ谷の嫁が腕を組んで睨みつけている。場地と千冬の嫁は、そんな三ツ谷の嫁の言葉にうんうん頷いているだけだ。

「あ?なにが、だよ」
「ちゃんとキスとかしてるの?名前と!」
「…は?」
「聞かれたわよさっき。みんなは会う度にキスしてるか?って。それ名前の本音だと思う。あの子、心の奥底の気持ち言えないのよ。こんな事言って嫌われたらどーしよう?って気持ちが大きくて。本当は名前だってワガママ言いたいのにそれ我慢してドラケンに合わせてんじゃないの?マイキーが大事なのは分かるけど、名前の事、もっとちゃんと見てあげて。じゃなきゃあの子、いつか爆発しちゃうよ…」

最初はすげぇ剣幕だったものの、話していくうちにシュンとしている三ツ谷の嫁は、名前がいつも憧れている一人だった。ゆき乃みたいに気持ちをハッキリと言える人間になりたいと。いつだったか、そんな事を名前が言っていたのを思い出した。
正直、余計なお世話だって思う。男女の事に友達が加担するだけで、違う方向へと向かう事もある。
俺には俺のやり方で名前を大事にしてるつもりだったけど…名前に伝わってなきゃなんの意味もねぇ、か。

「あいつ、他になんか言ってた?」

3人の顔を1人づつ見回す俺に、名前がどんな状態だったのかを、教えてくれた。それを一語一句逃すことなく聞き入れた俺は、昼休み終了の予鈴が鳴ると、眠たそうなマイキーを連れて屋上から戻る。

「マイキーちょっとここで待っとけ」

そう言って、今にも寝そうなマイキーを廊下に置いて俺は名前のクラスにズカズカと入って行った。
英語の教科書を開いてページをペラペラと捲っているものの、名前の視線は教科書から外されている。

「名前おめぇ、俺になんか言いてぇことあんのか」

そう声をかけると、吃驚した顔で俺を見上げた。その瞳は何か言いたげで、でも中々言葉にしよーとしねぇ。
言いてぇ事があんなら言えばいい。ちゃんと受け止めるぐれぇの心は持ってるつもりだ。息を飲んで俺を見つめる名前を待つ俺は、後ろでカタンとマイキーが動いたのを確認する。

「おいマイキーここで寝んな。お前のクラスはここじゃねぇだろが、たく。名前悪りぃ、後で連絡して、話聞くから!」

仕方なくそう言うしかなくて、マイキーを抱えて名前の教室を出る俺を、名前の瞳が追っている事に気づいていたけど、俺はどうしてもこのマイキーをほおっておく事はできねぇんだ。
自分でも馬鹿だなって思う。みんなが俺をマイキーの保護者扱いしている事も気づいている。けど俺たちは決して一人じゃ生きていけない。だから俺がマイキーを支えるっていつの日かに誓ったんだ。それを俺は今も守っているだけで、それが名前の負担になってるっつーなら、どーすりゃいいんだろうな…。

三ツ谷も、場地も、千冬も、どーしてんだよ、自分らの嫁の扱いをさ。

結局俺は、マイキーの面倒を見ているものの、名前の事が頭から離れずにいる。
話したいと思ってるし、名前の気持ちが分かればどうしたらいいのかだって考える。
そういや俺、名前に好きだとか言ってやってねぇかも。そーゆーの口に出すのは苦手だ。甘ったるい雰囲気も。柄じゃねぇし、野郎だけで馬鹿やってる方が正直楽でいい。

「名前と話した?」

マイキーを机に寝かせ終えた俺に声を掛けてきたゆき乃。

「いや、まだ」
「名前は甘えたいんだと思うよ、ドラケンにさ。これでもかってぐらい」
「あぁ」
「マイキーにすら、嫉妬してるんだよあの子」

目を閉じてスヤスヤ眠っているマイキーに罪はねぇ。

「そんなもんなのか?女って」
「ドラケンってさ、妙に大人びてるとこあるし、恋愛に対してはクールだよね。タカちゃんみたいに毎日可愛いとか、好きだよとか言わなくてもいいと思うけど、いざって時に口に出して言ってあげるだけで、女なんて単純だから機嫌もすぐ直るんだよ!たった一回のキスの効果がどれだけか?って笑えるくらいに」

ゆき乃の言うことは理解した。ーーが、

「三ツ谷、毎日んな事言うの?」

眉間に皺を寄せて想像するとこそばゆくて身体が捩れそうになった。確かに三ツ谷なら何でもしてくれそうな気はするけど…

「イシシシシ〜。タカちゃんに言わせてる訳じゃないよ?タカちゃんがそう思ったらいつでも言ってね!って言っただけ、前に喧嘩した時に。でもそれから喧嘩減ったんだよねぇ〜」
「…あっそ」

これ以上三ツ谷の甘ったるい話は聞きたくなくて素っ気なくそう言うと、ゆき乃にも伝わったらしく、ほんのり肩を竦めて「じゃ戻るね」自分の席に着いた。
俺もマイキーの席から離れて自分のクラスに戻る。
色々と思う事はあるけど、名前が何も言わねぇからって、名前の優しさに甘えてちゃダメだよな…。

「あーけど、難しい」

一番後ろの窓際の席で机に脚を乗せて後頭部で腕を組んでそう言う俺を、クラスメイト達はビクビクしながらも視線を向ける。
安心しろよ、こんなとこで暴れたりしねぇから。そう思っても結局口に出さなきゃコイツらには何も伝わらねぇ。野郎共にはいくらでも自分の気持ちを伝えられるけど、惚れた女相手に口ごもってちゃキリねぇか。
そう思って俺は携帯を取り出すと名前にメールを送る。今日はチームの集まりもねぇからどっか連れてってやるかって。
マイキーは三ツ谷に任せて…って。いやマイキーも子供じゃねぇし俺いなくても平気か。
気を抜くとすぐにマイキーの事を考えちまうこの脳ミソは最早病気かもしれねぇ。けどそんな俺でも譲れねぇもんはある。
今日はとことん名前に付き合ってやる!と意気込んでいた俺の携帯は、放課後になっても夕方になっても名前からの返信がねぇ。
何度か電話をかけてみたが、折り返しの着信もなけりゃ留守電にすらならねぇ。

「はぁ?あいつ、ブッチしてやがる、クソッ」

バイクに跨って名前の行きそうな場所を片っ端から捜してやろーじゃねぇか!!と、俺は愛機のハンドルを握ってエンジンをふかした。