幸せタイム*前編
(※モブ友が3名出演してます。)お昼休み。
いつものメンバーで屋上でお弁当を広げる。
屋上はトーマンの溜まり場で、私達4人は全員彼氏がトーマンの幹部様だ。
タカちゃんの恋人のゆき乃。場地くんの恋人の愛莉。千冬くんの恋人のあいく。そして、ドラケンこと、ケンちゃんの恋人のわたし。自然と話の対象は彼氏の事になっていくわけで。
わたし以外は彼氏が別の中学だけれど放課後はいつも一緒にいるものの、話題が尽きる事はなかった。
「この前千冬と映画デート行ってね、帰りにショッピングモールでこれ買って貰ったの!」
首元に光るシルバーのネックレスを嬉しそうに見せてくれたあいくは、ふんわりした雰囲気の可愛い子だ。茶色いロングの髪が揺れる度に甘い香りがする典型的な女子って感じで、可愛らしい千冬くんとよく似合っている。
その隣、スレンダーな愛莉は、大人っぽい場地くんとお似合いの大人美人の優しい子で、腰まであるロングヘアーがとても綺麗でいつもニコニコと笑っている。
「場地くんが言ってた。いいなぁ〜って言ったら今週の土曜日に私も映画館連れてってくれるって言って。めちゃくちゃ楽しみ!あいく達のお陰だよ〜ありがとう」
「そんな事言ってー、場地くんが愛莉と行きたいだけでしょ!」
このこのって、愛莉の脇腹を肘で啄くと、愛莉がへにゃって嬉しそうに笑った。
そんな2人を見ていたわたしの顔を覗き込むゆき乃。タカちゃんの恋人で、パーマがかった赤毛をふわふわと揺らせているけれど、その性格はめちゃくちゃ好き嫌いがハッキリしていて、わたし達の言えない事を纏めて全部口に出してくれちゃう様な強い人。そして、心の中を読むのもずば抜けてうまかった。
「なにブスな顔してんだ名前。あいくと愛莉のこと羨ましそうに見てるけど」
「…ねぇ心の中読まないで、ゆき乃ぉ」
「いや顔に書いてある。んなブスッ面してっと、ドラケンに嫌われんぞ」
まぁまぁって、愛莉がゆき乃の背中を撫でるとゆき乃の赤毛が揺れて、第二ボタンまで開いた胸元に見えた紅紫色の痕に目が釘付けになった。それはわたし以外の2人も同じだったみたいで、みんなが一斉に身を乗り出してゆき乃の胸元を凝視した。
「「「これ、キスマーク!?」」」
3人の声が揃うと、ゆき乃は眼球をグルリと回して「そう」照れもせずに笑った。
途端にみんながカアーっと赤くなって。
「三ツ谷くん、やるなぁ」
「てか三ツ谷くんって、色々うまそうだよね」
「キスマークなんて、つけられたことない」
あいく、愛莉と続いてわたしの声がゆき乃に届く。
幸せそうな3人を見ていると無性に腹がたってしまう。ケンちゃんとの進展エピソードをみんなに報告できない自分自身に。そして何もない事をケンちゃん本人に言えないのがわたしのダメなところで。こんな事言って嫌われたらどーしよう?とか、もし飽きられたら?別れようなんて言われたら…そう思うと、思っている事の半分もわたしはケンちゃんに伝えられていないんだと思う。
視線の先、屋上にあるタンクの上で寝っ転がっているマイキーの横でパンを齧って携帯を見ているケンちゃん。声を掛けたらすぐに気づいてくれる距離にいるけれど、わたしはあの空間には入って行けなくて。
あいくや愛莉やゆき乃達みたいに、ラブラブとは言えない気がする。
ケンちゃんとキスしたのって何日前だっけ?えっちしたのなんてもういつだったか覚えてないよ。ぎゅっと制服のスカートの上に乗せた手に力を込めるとわたしは俯いたまま小さな声で聞いた。
「ねぇみんなさ、そのキスって毎回会う度にしてるの?」
わたしの言葉に3人の視線が飛んでくる。ニッコリ微笑んで「名前どうしたの?」あいくが優しく聞いてくれる。
「場地くん帰り際にいつもしてくれるけど、ドラケンくん、してくれない?」
帰り際にキスしてくれた事も勿論あるけど、毎回じゃない。首を横に振るわたしに愛莉の眉毛が下がる。ごめん、そんな顔させるつもりじゃなかったのに。
「千冬も隙あらばキスはしてくるけど、でも場地くんがいる時はしないよ。場地くんに見れらたりするのは嫌みたい…」
うん、なんとなく分かる。千冬くん、場地くん大好きだもんね。でも、場地くんいないとやっぱりするんだーへぇー。
「名前!顔上げな」
クイッとゆき乃が顎クイする。わたしの瞳からは大粒の涙がポロポロ零れていて、眼鏡を濡らしてゆく。何も言ってないのにゆき乃の顔はわたしの気持ちを分かってくれている様に思えて…
「名前、そんな泣くまでなんで我慢してんのよ。言いたい事あるならちゃんと言えって言ったでしょ?」
「言えないよ、ゆき乃みたいに強くない。ゆき乃みたいに可愛くもないし、タカちゃんは優しくて紳士だけど、ケンちゃんはタカちゃんとは違うし、千冬くんでもないし、場地くんでもない。ワガママ言って嫌われるぐらいなら我慢する方がマシだよ。ごめん、わたし先に行くね、5限の英語予習してくんの忘れちゃったから」
タカちゃんに愛されてるゆき乃にわたしの気持ちは分からない!!喉まで出てきた言葉を飲み込んだ。
昔から自分に自信がなくて。こうしている瞬間も、みんなはわたしがケンちゃんの彼女だから仲良くしてくれているんじゃないかとすら思える。そんな馬鹿みたいに卑屈になっているわたしを知られたくなくて。こんな汚い気持ちを誰にも気づかれたくなくて。それでも彼氏に愛されているみんなが羨ましくて。わたしはケンちゃんのなんなんだろう?って思うと悲しくて。いつもマイキーマイキーで、いつだってマイキー最優先のケンちゃんがわたしって存在をどう思っているのかを知るのが凄く怖い。3人みたいに胸張ってわたしはケンちゃんの彼女です!って大声で言ってみたいけど、そんな事わたしにはできなくて、そんな自分が嫌で仕方ない。こんなわたしのこと、ケンちゃんがずっと好きでいてくれる保証もないし、現時点でわたしはケンちゃんにとってマイキー以下だ。どう頑張ってもマイキーには勝てないし、なんならタカちゃんや場地くんにすら負けているかもしれない。考え出すと止まらなくて。みんなでガールズトークするのはいつも楽しいと思う反面、比べられているみたいで辛くて、でもそれを誰にも言えなくて独りで抱え込むしかできずにいる。
ねぇケンちゃん…わたしのこと好き?
どうしてケンちゃんは、わたしなんかと付き合ってくれてるの?
英語の教科書をパラパラと捲っているけれど、ただ目で追っているだけで頭の中はケンちゃんの事でいっぱいだった。
そして、嫌な事は重なるわけで…
「名前おめぇ、俺になんか言いてぇことあんのか」
予鈴が鳴り終わるとケンちゃんが教室に入ってきた。屋上でわたしがいなくなった後に、ゆき乃達がケンちゃんに言ってくれたんだってすぐに分かった。わたしを見下ろすケンちゃんは、ちょっとだけ面倒くさそうな顔をしているけれど、それでも話したらちゃんと聞いてくれるだろうか…。心の中の気持ちを言葉にして相手に伝える事はとても緊張する。だから中々言葉が出てこない。緊張で手汗が凄くて、それを握ったタオルで拭きながらわたしは一つ息を吐き出してケンちゃんを見上げた。
「おいマイキーここで寝んな。お前のクラスはここじゃねぇだろが、たく。名前悪りぃ、後で連絡して、話聞くから!」
こっくりこっくり立ったまま船を漕いでるマイキーを片手で抱えるとケンちゃんはそのままわたしの返事も聞かずにマイキーを連れて出て行った。
「ケンちゃん!」
もう居ない残像に名前を呼んだわたしを、クラスメイトは不思議顔で見ていたなんて。
今更声が出ても遅いのにそれでも気づいて欲しかった。
闇抱えてんのはマイキーだけじゃないって。
「ケンちゃんの馬鹿」
そう言葉にしても虚しいだけだ。そして、馬鹿はケンちゃんじゃなくてわたしだという事も…。
こーゆう時、ゆき乃のタカちゃんなら、絶対気づいてくれるんだろうな…いいな、ゆき乃。
こんなわたしに、どうか気づいて欲しかったの。
他の誰でもない、ケンちゃんに。