最高に熱い夏
一目惚れだった。綺麗な黒髪と色白の肌、笑うと見える八重歯が可愛くて、気づくといつも目で追っていた。それが場地さんの妹だと知るずっと前から、俺は彼女、場地名前に恋をしていたんだ。
「場地さん、場地さん、ペヤング買ってくるんで、一緒に食いましょう」
腹減ったってボヤく場地さんの為に、コンビニ前で愛機を止めて俺は場地さんの大好きなペヤングを買いにそのコンビニに入った。
「いらっしゃいませ〜」
聞こえたソプラノボイスに自然と頬が緩む。店内に掛かっている時計の針は18時ジャストを指している。名前のシフトが終わる時間を見計らって俺は必ずここに迎えに来るのが日課だった。可愛い俺の嫁を場地家に送り届ける為だけに。ペヤング片手にレジに行くと、上がり準備をしかけていた名前が慌てて交代のバイトの横から顔を出す。
「あ、私がやります」
「お迎えいいわねぇ〜」
バイトの先輩にからかわれて真っ赤になってる名前がクソ可愛い。俺の前で「千冬くん、時間ぴったりだね」照れくさそうに笑う名前を今すぐ抱きしめてぇ。
「外で待ってる。場地さんと一緒にな」
ニカッと笑ってお釣りを俺の手に入れる名前の手をキュッと握ると嬉しそうに笑うんだ。はぁ〜心臓痛てぇ。なんて思いながらも顔を引き締めて店内に備え付けてあるポットのお湯をペヤングの中に入れて店から出て行った。
愛機の裏に隠れて煙草を咥えている場地さんは、俺を見て眉間に皺を寄せる。
「千冬〜。お前アイツのどこがそんなに好きなの?」
「へ?どこが、?いや、全部っすけど」
「全部?お前物好きだよなぁ〜」
「いや場地さんの可愛い妹っすよね。つーかまぁ、場地さんの妹って分かるより前から惚れてましたけど」
彼氏がいねぇって知った時はもうすげぇ嬉しくて、とりあえずめちゃくちゃ話しかけた。あの笑顔の先に居たくて、あの笑顔を独り占めしたくて我武者羅に名前に付き纏った俺は、好きになって一週間後に名前からOKの返事を貰ったんだ。
それから半年たった今でもその好き度は変わらず、むしろあの頃よりずっと名前を好きだと思う気持ちが増している。つーか俺の名前への好き度に上限はねぇと思う。
煙草を携帯灰皿に押し潰すと場地さんは俺の手からペヤングを奪い取った。まだ3分経っていないそれの水切りをすると、ペロリと蓋を破ってソースをかける。口に咥えていた割り箸を二つに割るとそれで混ぜる。この雑な感じも場地さん独特で、ちょっと固めのペヤングが俺にはご馳走だった。
「千冬くん!」
一口場地さんからペヤングを貰った俺に、天使の様な名前の姿が目に入る。思わずその可愛さに口に入っていたペヤングを吐き出しそうになって、慌てて飲み込んだ。
「おう」
内心緩々の俺は、それを場地さんにバレたくなくてついカッコつけるけど、それでも名前は楽しそうに笑って俺の隣にしゃがみ込んだ。
「美味しい?」
小首を傾げて下から見つめあげる上目遣いに後ろにぶっ倒れそうなくらい可愛くて、緩む頬を引き締めるように「まぁな」なんて答えた。
構うことなくペヤングを半分ペロリと食べ終えた場地さんは、スイッとその手を俺に差し出して「食えよ千冬も」…いやぁ俺腹いっぱいなんすけど、なんて思いながらも受け取ってそれを食う。
「千冬くん、私も一口ちょうだい?」
「え、マジ?」
「うん。なんか千冬くん食べてるの見たら食べたくなっちゃった」
そう言って俺の腕に絡みつく名前は、あーんと小口を開けて待っている。途端に心臓が膨れ上がる俺は、絡みついている肘に名前の胸が軽く当たってて死ぬほど気持ちいいだとか、あーんしてる口、塞いじまいてぇとか、そんな邪な事を思いながらも割り箸に小さめに巻き付けた麺を名前の前に差し出した。パクリとそれを咥える名前がスローモーションに目に映る。なんともエロスなそれに俺の下半身は自然と熱を帯びてしまいそうで、慌てて目を逸らす。この場に全然関係ねぇタケミっちの顔を思い浮かべたらその波はスーッと消え去った。やるじゃねぇか、タケミっち。
「美味しい!今度私とも半分こしてね、千冬くん」
「おう」
いつもすげー美味いはずのペヤングの味すら今日は分かんなくて、食い終わってまた煙草を咥える場地さんはめちゃくちゃかっけぇ!けど反対側でスマホのカメラでペヤング食ってる俺を連写してる名前が、可愛くて仕方ねぇ。もう俺このままどーにかなっちゃいそう。
名前はそれをインスタにあげていて、「マイキーくんイイネした!あ、三ツ谷くんも!」なんて喜んでいて。そんな名前を眺めているだけで俺は最高に幸せだと思っていた。
「んじゃ俺行くわ。千冬、後は頼んだぞ」
「あ、はい」
「お兄ちゃんまたね!」
「おー」
ちゃんと送ってもらえよ!って名前の頭を撫でてバイクに跨った場地さんを見送る俺に、「二人きりだ」聞こえた名前の言葉に心臓が爆音を鳴らす。
「あー、どっか行く?」
空のペヤングを袋に閉まってゴミ箱に突っ込む。ペッドボトルの水を一気飲みしてそれもゴミ箱に投げ入れると名前は目をランランとさせて大きく頷いた。俺は名前をバイクの後部座席に乗せるとエンジンをかけて走り出す。街道を抜けて駅の向こう側にあるショッピングモールへと連れて行った。
手を繋いで店内に入ると4階の特設会場で水着フェアが開催されていた。それを見た名前は、俺の手を引いて「ね、見に行こ!」なんて言うんだけど、水着フェアって、水着だよな!?え、試着とかすんの!?気が気じゃなくてふらつく頭を振って俺は名前と繋がった手をギュッと握りしめた。
「来週の海さ、千冬くんも行くでしょ?」
そういや場地さん達みんな海行きてぇって言ってたっけ。トーマンみんなで海行くぞー!とかなんとかそんな話になってたかも。
「あーうん」
「去年の水着も可愛いんだけど、せっかくだから千冬くんとオソロがいいなぁ〜なんて」
「は、ペア!?」
「そう。…ダメ?」
…つい照れてしまったのは、恥ずかしそうに俺を見てくる名前がクソ可愛いかったからで。内心ガッツポーズで小躍りしている俺の脳内はバレる事無く「構わねぇよ」なんてカッコつけた。それでも名前は嬉しそうに笑って俺の腕をグイグイ引っ張って行くから特設会場に着くとはしゃぎ始めた。片っ端から水着を漁る名前は最終的に二つを手にしている。
「どっちがいいかな?」
水色チェック柄のワンピース風と、袖の着いたシャーリングビキニ。こっちも色は水色で、俺の手にも水色の海パンが握られている。
鏡の前で何度も繰り返し合わせて見るも小首を傾げていて。小さく息を吐き出した名前は、「試着してもいい?」この期に及んでやっぱりなそれを口した。
内心万々歳の俺は涼しい顔で「あぁ」なんてまたカッコつけた。つーか名前の前だとついカッコつけちまうけど、嫌われてねぇよな俺…。
「ふふ、じゃあ待ってて。恥ずかしいから試着室の前で見張っててね?」
「あぁ」
ボディガードを買ってでた俺に名前は笑顔でドアを閉めた。中から服を脱ぐ音が聞こえてくるだけで俺の心臓は爆音を立てていて…マジ鼻血でねぇか心配だわ。想像するだけで下半身が熱く熱を帯びてくるから、その度にタケミっちの顔を思い浮かべて熱を冷ました。
「千冬くん、いる?」
「あぁ」
「よかった」
カーテンの隙間から顔を覗かせる名前が、ゆっくりと俺の手を引いて試着室を開けた。
目の前にはギンガムチェックのワンピースを着ている名前。思わず口をあんぐり開けて見蕩れる。
「…すげぇ可愛いよ」
自然と口を継いで出た本音に名前はめちゃくちゃ目を細めて嬉しそうに笑った。
「じゃあもう一つの着るから待って、ーー千冬く?」
あー無理だ。もう限界だ。俺を一体どうしてぇんだよ、名前は。試着室に顔だけ突っ込んだ俺は名前の細い肩を抱き寄せるとその場で感情を押し付けるキスを落とす。ビクッと身体を強ばらせる名前を、それでも離せなくて…数回ゆっくりと口付けた後、そっと唇を離した。勿論ながら真っ赤な顔の名前は今にもその場にしゃがみ込みそうで。
「悪りぃ、我慢できなくて。…それにしようぜその水着。それ買って早く、いつもの公園行こ」
ゾウの滑り台の中、空洞になっているそこで俺たちは誰にも邪魔されずにキスをしている。昼間はガキもいるけど、夜は人通りも少なく穴場だった。まだ中坊の俺らのイチャつける場所なんて限られていて、その中で俺たちは毎日愛を育んでいる。
「もう千冬くんのエッチ!」
そう笑う名前は直ぐに服に着替えてオソロの水着を購入すると、「早く公園行こ」なんて、やる気満々じゃねぇか!それでもそんな名前がクソ可愛いくて俺はクシャッと笑うと名前の手を引いて滑り台の下に入り込む。制服が汚れねぇように俺の上に名前を乗せて下から見つめあげると名前がやんわりと頬を撫でる。
「千冬くん好き…」
「俺も好きだーー」
首にかけた腕を自分の方に寄せて名前の唇を堪能する。ほんのり開いた唇を割って舌を入れ込む俺の舌をチュッて吸い上げられて下半身覚醒。ねぇあんま煽んないで…なんて思いながらも止められるはずもなく、そのまま想いのままに名前の唇を何度も甘く絡めとる。完全に覚醒した俺が名前のケツに当たってるけどもう知らねぇ…
「千冬くん、」
「おう」
「海の日の帰り、お泊まりしちゃおっか?」
「ーーえ?けど、」
「お兄ちゃんが協力してくれるって。千冬くんがもう限界だって言ってて、私も千冬くんならいいって思ってる」
「場地さん…最高っす」
なんとも嬉しすぎる場地さんからのアシストに俺は名前を抱きしめて「最高の夜にしようぜ」耳元で甘く囁いた。
今年の夏は、最高に熱い夏になるって思えたんだ。
-fin-
SPECIAL THANKS LOVE ヨル♡
SPECIAL THANKS LOVE ヨル♡