男のロマン

夏休みなんてあっという間に過ぎてしまう。楽しい時間は過ぎ行くのがとても早く、学生の頃の時間というのはとても輝かしい物だと大人たちは言う。今しかできないことをあとどれだけできるだろうか。

「名前ちゃんオニューの水着!?もしかして、」

市民プールの女子更衣室で、彼氏の千冬の好きな水色の水着を選んでいた名前は、ヒナの言葉にニカッと笑顔を見せた。この日の為に新しく購入した水着を千冬に見せたくて今日の日をずっと前から楽しみにしていた。

「うん。千冬の好きな水色にしてみた。喜んでくれるかな…」

顔を赤くして目を逸らすであろう千冬を想像して名前はつい自分の口元を綻ばせた。そんな名前を見てヒナとエマが同じようにニンマリと微笑む。

「いいなぁ名前もヒナもぉ。私もさぁドラケンにちょっとでもいいから褒めてもらいたいよぉ」

上下真っ白のセクシーなビキニを着用しているエマは、三人の仲でも一番大人っぽかった。その片想いの相手は東京卍會副総長であるドラケンこと、龍宮寺堅。恋愛に疎いって訳でもなさそうだけれど、ドラケンはいつでもクールにエマに接していた。

「さすがにドラケンくんもエマちゃんのその水着見たら鼻の下伸ばすんじゃない?」

ヒナがニッコリと微笑む。みんなに優しいヒナは、タケミチの彼女で、ラブラブだ。確かにこの状況で列記としたカレカノではないエマは、少しばかり不服そうに見える。それでもエマのドラケンへの気持ちは早々変わるものでもない。

「そっかなぁ!」

イシシと笑ったエマがふと名前の胸元を見て目を見開く。それからズイッと顔を寄せてそれをまじまじと見つめるからドキンとして名前は胸元にある小さな痕を手で隠した。

「え、待って、名前なにそれ!!!」

そう言われると思って、名前はパーカーを羽織ると颯爽と更衣室から出て行った。
危ない、危ないと、ホッと胸をなで下ろしたのも束の間、「名前」更衣室を出た先、既に集まっている男子たち東卍メンバーにドキンと名前の胸が高鳴った。彼氏の千冬が名前に手を差し出していて、そこにちょこんと捕まる。

「とりあえず俺の後ろに隠れてて」
「へ?なんで?」
「なんでじゃねぇ。こんな野郎共がいっぱいいるとこ、気が気じゃねぇ」

ムスッとした顔の千冬を見て名前はクスリと笑う。それから千冬が後ろに隠した手に指を絡めると小さく言う。

「せっかくみんなでプール来てるのに、楽しもうよ千冬。私の水着姿なんて誰も見てないって、千冬以外。それにこの水着は、千冬に見せたくて買ったんだよ」

千冬はどれが好きだろう?と想像しながら買うのはとても楽しく、それをいざ披露する場が来たのだから今すぐにでも羽織っているパーカーを脱いでしまいたい気持ちだった。でも…

「でも千冬、昨日の痕…まだ残っててさ、さっきエマちゃんに見られてヤバかったんだから…」
「え?あー悪りぃ。けど今日の為にわざわざつけたんだから、それはまぁアレだ、見せつけてやれ」

クシャッと千冬がポニーテールをしている名前の髪を指でなぞる。それだけで、二人の間に甘ったるい空気が流れるなんて。


「…え、俺ら何見せられてんだ?」

さっきから二人でコソコソと話している千冬と彼女の名前。少し遅れてて更衣室から出て来たヒナを前にタケミチは思いっきり目を見開いて鼻息荒く全身を見たあと、鼻血でそう…と、視線を千冬達の方に向けた。

「ふふ、タケミチくん。名前ちゃん松野くんに見せるために水着選んだんだって!」

ニコニコ笑っているヒナを前にタケミチは苦笑い。

「ヒナも、すげー可愛いよ」
「え?やだータケミチくん!照れるって!」

バチンとヒナの手が俺の背中にヒットして赤く染まる。照れてるヒナの手を取ってタケミチは三ツ谷達の方へと移動する。それを見送るエマはドラケンの前で両手を広げて見せた。

「ドラケン、どうかな?エマの水着」
「どう?って、別に、いんじゃねぇの?んな事よりマイキーどこ行きやがったんだ」

呆れ顔で辺りを見回すドラケンは、タケミチに続き遠目に場所取りをしていた三ツ谷達を見つけてそちらへと歩いて行く。それに続いて小走りでドラケンの横を歩くエマ。
その後ろを千冬と名前は手を繋いで歩いて行った。

大きなパラソルの下でまるでリゾート地の様、サングラスをかけたマイキーが長椅子に寝転がっている。サイドテーブルには南国のジュースの様な物まで置いてあって、「ケンちん、オイル塗ってよ俺に」なんて機嫌よく言葉を発している。

「私も塗ってあげるよ千冬!」

マイキーの横で同じ格好をしていた場地のその隣、千冬が同じように座ったのを見計らって名前は透明のバッグから取り出したオイルを千冬に見せた。

「俺が塗ろうか?」
「私は日焼け止め塗ってあるもん!ね?」
「悪いな」

転がる千冬の横に膝をついてシコシコ振ったオイルを手に取り出すと、それを千冬の背中へツーっと塗っていく。慣れた手つきで千冬の身体に触れる名前を見て、その場にいた皆が二人に釘付けになっていた。
そもそも千冬と名前が付き合っている事は知っているし、仲が良いのも知っている。でもそれはタケミチとヒナも同じで。なんというか、空気が違って見えた。

「…タケミッち、あの二人どーなってんだ?」

言ったのはマイキーで。まさかのマイキーの口からそんな言葉が出るとは誰も思っておらず、タケミチは苦笑い。

「マイキーくんその、なんてゆうか、」
「あー名前ちゃん、首元にキスマークついてたな、そういや」
「三ツ谷!それ場地の前で言うなよ」

ドラケンが、目を大きく見開いている場地を隠すように言うけどもう遅く、「俺の千冬が…」なんてボヤく場地を、ドンマイ!と三ツ谷の手が背中を叩く。

「なんかさ、名前の触り方妙にエロいんだよねぇ〜。やっぱりあの二人もうえっちしちゃってるんじゃない?ね?ヒナもそう思うよね?」

エマの大人びた発言にアタフタしているヒナは、それでも視線を千冬と名前に向けると、自分の顔まで真っ赤にする。

「ふふ、ヒナには刺激が強かったかな?でもさぁ、私もさっき三ツ谷と同じで、名前の首元にキスマークついてんの、見ちゃったんだよねぇ…やっぱり挿入っちゃってるよ、千冬のが、名前ん中に!」

エマの言葉に完全に顔からプシューっと煙が出ているヒナの隣、タケミチの視線はそれでも二人から離せなくて。

「なんかアレっすね、AVよりリアルでエロいっすね、千冬達…」
「タケミっちもヒナちゃんとすりゃいんじゃねぇの?」
「マイキーくん!!俺たちはそんなんじゃ、」

後ろで全く声のトーンを下げることなくわちゃわちゃと自分たちの事を話しているみんなに、千冬はほんのりと顔を名前の方に向けると「名前、流れるプール行こうぜ」ムクリと起き上がって名前の手を取った。大きな浮き輪を反対側の手で抱えて千冬はみんなの輪から抜け出して流れるプールの方へと移動する。

「おい、AV男優!抜け駆けすんな!!」

誰かが千冬に向かってそう叫んでいるから、周りにいた一般人の視線が飛んでくる。

「ざけんなよ、クソッ」

そう言うも、パーカーを脱いだ名前の水着姿を前にどうにもこうにも独り占めしたくなる。
周りに誰がいようとも自分の感情のコントロールがきかなくなってしまいそうな、名前の存在。
浮き輪に名前を乗せてその浮き輪を引っ張って泳ぐ千冬の濡れた髪から流れる水しぶきがエロティックで、名前は「千冬〜」小さく呼んだ。
振り返った千冬の腕を掴んで浮き輪から飛び出ると、プールの中に一緒に潜って、水の中で唇を重ねる。

「名前ッ、」

真っ赤な顔で自ら顔を出した千冬は可愛い。そんな二人の後を追いかけてきたトーマンメンバーがまた冷やかしにきた。

「お前ら今ちゅーした!?」

ツインデビルの片割れナホヤがニッコリ笑顔で自ら顔を出して言う。いつの間にか同じ、流れるプールに入っいたのか、ナホヤの発言にまたみんなに見られる。

「は?してませんよ。こんな人気の多い所でなんて」

そう言う千冬の顔は真っ赤だから何の説得力もない。だから余計にみんなにからかわれてしまうけれど、そんな幸せな日があってもいいと思う。
トーマンの行く先に光がないなんて誰一人思っておらず、こんな何気ない幸せで溢れた日が、この先もずっと続いて欲しいと願うーー

「名前今日さ、それ着て一緒に風呂入ろ、俺ん家で」
「え?うんいいよ。えっちだなぁ千冬、これ脱がしたいんでしょ?」
「…男のロマンなんだよ」

女の名前には、千冬の言う男のロマンは分かり兼ねてしまうけれど、それでも千冬と一緒に過ごす時間ときはかけがえのない、青春の一ページに違いないだろう…。



-fin-



SPECIAL THANKS LOVE 華宮♡