「名前ちゃん帰るよ」
いつもなら兄のナホヤくんの元へとすっ飛んで行くであろうソウヤくんの登場にわりとみんな驚いてこちらを見てくる。ギャラリーに構うことなく迷わず私に手を差し出すソウヤくんのそれを握るとふわりとその場で私を抱きしめた。
「名前ちゃんロスで死ぬかと思った。なんで授業ってこんなに長いの?10分ぐらいでいいよね」
10分ならあっても無くても変わらない気がするけど…
「アングリー。恥ずかしくねぇの?みんなお前らんこと見てんぞぉ」
「は?恥ずかしいわけないじゃん。俺名前ちゃん大好きだもん。ねぇ早く帰ってちゅーしよ」
目ん玉飛び出そうなソウヤくんの発言にさすがの私も恥ずかしくて俯く。だけどたぶんここでイエスと言わないとソウヤくんはそれ以上の事をもっと要求してきそうに思えて…
「うん早く帰ろう」
ちゅーの事は触れずにソウヤくんの手を取ると指を絡めて歩き出す。呆れた顔で、それでも笑顔を振りまくナホヤくんが、すれ違う女子たちにばいばいと手を振っていた。
「ナホヤくんだってうちの学校では人気あるけどね?」
いつも笑顔のナホヤくんの心はブラックだ。けれどパッと見、笑顔のナホヤくんに思いを寄せている女子は少なからずいると思う。ぶっちゃけ私だってソウヤくんとこうなるまでは、ナホヤくんもソウヤくんもどっちも好きだと思っていたし。
上履きをカラカラと鳴らしてがに股歩きしているナホヤくんは愛想を振りまきながらも私の言葉に耳を傾けていて。
「そう言うけど誰も俺に告ってこねぇじゃん」
「それは、ナホヤくんトーマンだからでしょ」
東京卍會の初代肆番隊隊長であるナホヤくん。ソウヤくんは副隊長だけれど、やっぱり隊長って響きは大きいと思う。さすがに隊長の女になるのはみんなそれなりに覚悟がいるのだろうと。
「アングリーだってトーマンじゃねぇか」
「ソウヤくんは副隊長だから。ナホヤくんは肆番隊隊長だからねぇ。心ん中ブラックだし」
「てめぇdisってんの?」
「笑顔で聞かれると怖い。そんな事ないよ〜。ソウヤくん、ナホヤくんも彼女欲しいって言うけど、どう思う?」
反対側、ソウヤくんと繋がっている指をキュッと握りしめた。小首を傾げたソウヤくんは、「スマイリーかっこいいからすぐできるよ」兄への愛も至って健在の様子。
なんやかんやで仲良しの双子は、バイクのメンテナンスをするとかで、河田家の家の前で二人してバイクをいじり始めた。私は縁側に座ってそれを眺める事にした。
こーゆう平和な時間が沢山あって欲しいと思わずにはいられない。トーマンに入る前もよく喧嘩をしてすご痣をつくってきたけれど、トーマンに入ってからもその痣が消えることはなく、しょっちゅう喧嘩に駆り出されている。ただ走っているだけの暴走族とは訳が違うトーマンは、仲間のピンチには必ず駆けつけて、仲間がやられたらチーム全員で仕返しにいく。それが良いのか悪いのかなんて私には分からないけれど…あのふわふわの髪が汚れたりして欲しくないし、何よりソウヤくんを泣かせたくない。ボーッとソウヤくんの髪を眺めていたら、急にソウヤくんが振り返ってこちらにやって来た。
「名前ちゃん暇だよね?」
「そんな事ないよ。ソウヤくんずーっと見てられるから楽しい」
「…そんな可愛いこと言わないでよ。ねぇスマイリー今トイレ行ってるからさ、ちゅーしていい?」
縁側の隣にトスッと座って私に甘えるように頬を擦り寄せるソウヤくん。
「いいけど、ナホヤくん戻ってきたら絶対怒られるよ」
「それでもいい、それでも名前ちゃんとちゅーしたい」
ド真剣な怒り顔で顔を寄せるソウヤくんに笑いながら目を閉じるとフライング気味に唇が重なる。ちゅって小さなリップ音の後、離れたソウヤくんが「ねぇ舌絡めて」らしくない台詞を口にして舌をちゅるりと絡めとった。
「ンッ、」
甘ったるく鼓膜を刺激するソウヤくんの吐息に、ここが彼の家の縁側だという事も、ナホヤくんがトイレに行っている間だけのという事も忘れてしまいそうになる。隙あらば「ちゅーしよ」って誘ってくるソウヤくんとまだそーいう関係にはなっていない。当然ながらソウヤくんはヤリたがっているのが分かる。私の舌を絡めながらもソウヤくんの手は私の手を掴んで自分のソレに押し付けてくる。ほんのり硬くなりつつあるソレをどうにかしろと無言で言っているみたいで可愛らしいとさえ思えてしまうけれど。
「んう、名前ちゃん…俺の部屋行こ、」
「えっ?」
見ると、いつもの怒った顔をほんのり困った様に歪ませて紅く染まった頬に潤んだ瞳と視線が絡む。
「ねぇダメ?」
ほんのり眉毛を下げてオネダリするソウヤくんがめちゃくちゃ可愛くて「ダメ」とは言えそうもない。
「スマイリーに見つかる前に、ね」
半ば強引に私を引っ張りあげてバイクのエンジンやら何やらをそのままの状態で縁側から廊下を通り、階段を登って二人の部屋に入る。ドアを閉めるなり壁に私を押し付けて噛み付くような口付けが落ちた。
西陽が差し込むソウヤくん達の部屋はオレンジ色で、ソウヤくんの瞳の奥は同じようなオレンジ色に揺れている。歯列を舌でなぞるソウヤくんに、ほんのり薄目を開けると、大きな目を見開いたままキスをしていて…
「ソウヤくん、なんで目開けてるの?」
「なんでって、名前ちゃんがどんな顔してるか見たいから」
耳元で甘ったるく囁くと、ソウヤくんの舌が首筋を通って耳朶をカプリと甘噛みする。
「ンッ、」
「ここ、気持ちい?名前ちゃん、耳感じる?」
耳穴に舌を絡めながら喋るからゾクゾクと身体が震えて肩を竦める。食い気味のソウヤくんの肩をそっと押すと、ムッとした顔で私を覗き込んだ。何で止めるの?ってソウヤくんの顔に書いてあるけど、そろそろナホヤくんが来るんじゃないかって。
「だめソウヤくん」
「なんで?俺にされるの嫌?」
そんな事ない、むしろ嬉しい。でもこーゆーのってもっとちゃんとというか、
「だってナホヤくんが来たら中断だよ。そんなのやだ。ソウヤくん、二人きりの時にしようよ…」
私の言葉にソウヤくんはムッとしたまま私からそっと離れる。悔しそうな顔だけどコクリと一つ頷いた。話せばちゃんと私の意見も尊重してくれるソウヤくん。無理やりしないだろうソウヤくん。そーゆうとこ、すごい好き。
「じゃあそれまでこれで我慢する」
へ?…そう思った瞬間、首にソウヤくんの唇が触れて、そこをちゅう…と吸い上げた。数秒の後唇を離したソウヤくんは、私の首元についた小さな痕を見て満足気に笑った。ナホヤくんそっくりの笑顔で。
「明日スマイリー隊長会議で呼ばれてるから明日まで待つ」
まさかの翌日決行に私は思わず笑う。それと同時に階段を登ってくる足音がして、ソウヤくんは机の引き出しから絆創膏を取るとそれを紅い痕の上に貼った。
「アングリー何してんだよ」
ガチャンと部屋に入ってきたナホヤくんに、振り返ったソウヤくんが不機嫌丸出しで答えたんだ。
「名前ちゃんが虫に刺されたから絆創膏貼ってたんだよ。掻いちゃだめだからね?」
ポンポンって私の頭を撫でたソウヤくんは、私を連れてまた縁側へと戻る。
二人の秘密を西陽だけが静かに見守っていた。
-fin-