モテる彼氏

Sweet Love is Angry...

「ねぇ〜名前ちゃぁん。こっち向いてよ」

ソウヤくんが腕をぶんぶん掴んで私の顔を覗き込むからプイッと顔を背けた。ナホヤくんならこんな事したらブチ切れされるのかもしれないけど、ここにいるのは顔は同じでも双子の弟、河田ソウヤ。めちゃくちゃ怒り顔に見えてもその心は天使のように優しい人だ。
だから甘えているって自分でも分かってる。分かってるんだけど…ーー。

「離してよ、ソウヤくん」
「やだ。ねぇ機嫌直してよ。名前ちゃんの顔見れないと俺、死んじゃいそうなんだけど」

恥ずかしげもなくそんな言葉を零すソウヤくんを私はジロリと睨みつけた。そんな事しても何も変わらないというのに。睨みつけられたソウヤくんは、それでも「怒った顔も可愛い」なんて甘い言葉をくれちゃうから調子が狂う。

「よーアングリー!あの子どーなったん?」

そんな私達の前、すんごいKY発言するナホヤくん。笑顔で酷い事言ってるし、もう。

「スマイリーやめてよ、それ今言うの」
「あ?なんで?どーなったんよ?断ったの?」
「当たり前でしょ。俺は誓って名前ちゃん一筋なんだから!」
「なんだ〜つまんねぇなあ!遊んじまえばよかったのに、アングリー!お前も真面目だなぁ〜」
「兄ちゃん黙っててマジで!」

思いっきり笑顔のナホヤくんに、思いっきりガンつけているソウヤくん。そうなのだ、先日ソウヤくんは女の子に告白されたのだ。私っていう彼女がいるのにも関わらず。そしてそれがまたちょっと厄介で。彼女がいるって断ったにも関わらず諦めない!なんて暇さえあればソウヤくんの所に来ては彼を困らせていた。
ただ、如何せん優しいソウヤくんだから、彼女を無碍にも出来なくて、ちょっと優しい言葉をかけてしまったからか、余計にヒートアップしてしまったんだ。
何が楽しくて彼氏と自分以外の女がイチャイチャしている姿を見なくちゃいけないの?って話。

「ナホヤくん!一緒に帰ろ!」

だからモヤモヤしていて、ヤキモチしている私はハッキリしないソウヤくんに苛ついていたんだ。いや、ハッキリしてない訳じゃないけど、告白女の手を振り解けないソウヤくんにすっごくモヤついている。
ポケットに腕を突っ込んでいたナホヤくんはニカッといつものように笑うと左手を私に差し出した。

「お、今日は俺んとこくるか、名前ちゃん!いーぜ、送ってやる」

ギュッと私の手を握るナホヤくんに、ソウヤくんが「スマイリー名前に触んな!」そう叫んだ。
名前って呼び捨てされた事もだけれど、そんな風にナホヤくんに対しても怒ってくれるソウヤくんに、ドキッと胸が高鳴る。見つめるソウヤくんは真剣な顔でナホヤくんを睨んでいて。

「やだね。アングリーほら、女が待ってんぞぉ」

告白女がこちらにやってくるのが見えて、ナホヤくんは私を後ろに隠すとそちらを指さしてそのまま私を連れ去った。後ろですっごい叫んでいるソウヤくん。でもナホヤくんが「振り返んじゃねぇぞ名前ちゃん」ド低い声でそう言われてそのまま私はナホヤくんについていった。





「あのさーそんな落ち込むならなんで俺に一緒に帰ろうなんて言ったんだよ、名前ちゃん」

公園のブランコに座ってベソをかいている私に「はい」っとミルクティーを手渡してくれた。ちゃんと缶のプルタブを開けてから渡してくれる辺り、優しいよね…なんて思う。冷たくて甘いミルクティーを喉の奥にゴクリと飲み込むと、胃がキリリと痛んだ。顔を顰める私を見て、ブランコの前にヤンキー座りして煙草を咥えるナホヤくんが苦笑いでそう聞いた。
昼間ここで遊んでいたであろう街の子供たちの姿はもう無く、夕方から夜になると、私達学生であり、大人の時間と変わっていく。夕方の6時を回っていても空はまだ明るく、ソウヤくんがここに来てくれないかと、この期に及んで思っていた。

「うぅ、だって。だって悔しくて。私ソウヤくんの彼女なのに、」
「俺があの女ドンでバッコンしてやろーか?」

…ナホヤくんなら本気でやりそうだから首を横に振った。そんな事されても嬉しくないよ。ソウヤくんが解決してくれないと全然嬉しくない。ブランコを小さく前後に漕ぎながらもこの公園の入口にソウヤくんの姿が来ないかとずっとそちらばかりを見てしまう。

「ナホヤくん。私ってソウヤくんの彼女として相応しくないのかな?」
「あ?知らねぇよ、ンなこと。つかンなこと、アングリーが決める事だろ。一々周り気にしてっと禿げんぞ」

優しいのか意地悪なのか分からないナホヤくんの言葉に私はまたグズッと鼻を啜る。吸い終えた煙草を指でポイッと遠くに投げたナホヤくんだけど、その煙草を拾ってきてゴミ箱に捨てたのはソウヤくんで。
俯いていた私の前に立ったソウヤくんは、ふわりとしゃがんで膝を着くと下から私の首に腕をかけて引き寄せた。ンチュっと重なる唇に、目を見開いている私の向こう側でナホヤくんが手を振って公園の中からいなくなった。ナホヤくんてば、ソウヤくんのこと呼んだの?なんだかんだで、この双子はお互いの事をよく分かりあっているんだと思う。

「名前ちゃん、嫌な気持ちにさせてごめんね。もうあの子にはマジでハッキリ言ってきたから俺。名前ちゃん以外じゃ勃たねぇから!って、」

ブッ。
ソウヤくんらしいというか、なんというか。でもそれって一番聞きたくない言葉だよね、女側からしたら。

「俺名前ちゃん以外にモテた事ないからどーすりゃいいか分かんなかったけど、そのせいで名前ちゃんが俺から離れたらって思ったら、悲しかった。ねぇ名前ちゃん、俺が好きなのは名前ちゃんだけだよ!信じて?」

両肩に手を乗せて下から見つめる真剣なソウヤくんに、コクリと頷く。あまりに嬉しくて素直に頷くと、ソウヤくんは、照れたように笑ったんだ。
その笑顔に胸がキュンと音を立てる。やっぱりこんなに私をキュンとさせてくれるのは、ソウヤくんしかいない。

「私も、すごく意地張ってソウヤくんに意地悪してごめんね。私ソウヤくんの彼女なのに、認められてないのかな…とか思ったら惨めに思えちゃって…」
「そんな事思わなくていいよ。俺が彼女にしたいって思ってるの名前ちゃんだけだから。名前ちゃんは誰がなんと言おうと、これからも俺だけの彼女だから。ね?」
「うんっ」
「じゃあ仲直りのえっちしよ!」

…ふわりとソウヤくんの腕に包まれてそんな言葉。そうきたか、ソウヤめ。でもなんだか寂しかった分、ソウヤくんの温もりに包まれたいかも。キョロキョロと辺りを見回す私にソウヤくんはこの公園から見えるお城みたいな建物を指さした。

「え、ソウヤくん?」
「あそこ、行こう!」
「でも制服だよ私達」
「へーき!あすこ、制服OKって聞いた」
「だ、誰に?」
「ドラケン」
「それなら間違いないか、うん、行こ」

ソウヤくんの手を取ると頬っぺたにちゅっと口付ける。
目を大きく見開いたソウヤくんは、照れた顔で「可愛いすぎ」お返しだというように、ソウヤくんの唇が軽く頬に触れた。


-fin-
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