同じ部屋

「千冬、父さんマイホームを購入して、それが半年後にはできるから、それまでは千冬の部屋で名前ちゃんと仲良くするんだぞ」
「待てクソ親父!!!無理に決まってんだろ!!」

クソ狭い団地の一角、俺の部屋。
ただでさえ広くねぇこの部屋に今現在ダンボール箱が何個も置かれていて、親父はそんな有り得ねぇ事を口にすると、再婚相手である名前の母親を手伝うべくそっちに移動する。どー考えてもおかしいだろこの状況。
半年間も女と同じ部屋とか、

「無理に決まってんだろ…」

ボソリと呟いた言葉を拾った名前は、何も言わずにダンボールを開け始めた。

「クローゼット半分開けてよ、千冬」
「あ?てめぇ何勝手に呼び捨てしてんだ」
「そんな事言っても戸籍上あなたは私の弟だから、そう呼ぶのが普通でしょ」
「…んな事より、なんで初めましてなんだよ、」

どうしても引っかかっていた。あの日の事をなかった事にされてしまった様で。こっちは散々モヤモヤしていたっていうのに。
ーーずっと、逢いたかったというのに。

「なんて答えるべきだった?名前も知らなかったけど、ちょっと遊んでキスしちゃいました…なんてママに説明できるわけない」
「あん時言ってた再婚って、うちの親父だったなんて」
「私だって吃驚してるよ。でも…千冬は私の弟に変わりない。ママの幸せは私も嬉しい。松野さんも…いい人そうだし、私は祝福するよ。だから千冬も、おめでとうって言ってあげなよね」

男の俺は正直親の恋愛とかどーでもいい。
学区が変わらなきゃ場地さんと離れる事もねぇし。
けどさ、半年間、気になってる女と同じ部屋ってどうなの?

「俺は、お前の事姉貴だなんて思えねぇよ」

吐き捨てるようにそう言うと、名前は何故か泣きそうな顔で目を逸らした。そんな顔、狡くねぇ?
でも一歩近寄る俺から逃げるようにくるりと俺に背を向けた名前は、無言でダンボールから服を取り出していく。仕方なく俺はクローゼットの半分を開けて名前に受け渡した。

「ここ、私の下着だから絶対に間違えて開けないでよ?」
「分かってるよ。お前こそ、俺の引き出し勝手に開けんなよ」
「千冬は見られて困るもんないでしょ?あ、あるかな〜この辺に…」

名前はベッドの下を除こうとするから慌てて俺は名前を後ろから押さえた。当然ながらふわりと香る甘ったるいシャンプーの香りと細い腕にドクンと心拍数があがる。

「そこは、俺のスペースだ。勝手に除くんじゃねぇ」
「私がいない時に片付けておいてよ…」

離してと、俺の腕を振りほどく名前はこちらを振り返ることなく作業を進める。
動揺してんのは自分だけだと思うと、何ともこの状況が馬鹿らしく思えてきた。

「そもそもベッド一個しかねぇけど、あんた床で寝んの?」

この部屋にベッド2台は入らない。俺のベッドはシングルだし当然ながら2人一緒に寝るなんて事はまずない。
名前は漸く振り返って俺を見るとニコッと笑う。

「ジャンケンとかどう?」
「はぁ?」
「一応ここに布団敷いて寝るつもりだけど、千冬が下で寝たい時もあるよね?」
「ねーだろ。ジャンケンで俺が負けたらどーなんだよ」
「そりゃ、ベッドで名前が寝る」

ジロリと睨みつける俺にてへって舌を出して名前が笑う。甘えた顔を俺に見せつける名前に、内心クソったれ!と思うものの、その顔が可愛いとすら思えてしまう。やべぇこれって結構重症な気がする。

「なんで自分の部屋で床に寝なきゃなんねぇんだ」
「いーよぉ一緒にベッドに寝ても?」

ニーッてわざとらしく笑う名前にムカついて俺は名前の腕をとるとそのまま強引に引き寄せて一ヶ月ぶりのキスをした。
忘れもしない、この唇の感触に溜息が漏れそうになる。
されるがままの名前は、舌を絡ませる事はないけれど、拒否はしていなさそうで…リップ音を鳴らして唇を離した俺を、また泣きそうな顔で見てくる。

「千冬の馬鹿…」
「煽ったのはそっちだろ?」
「煽ってなんか。止めてよこーゆうの、」

名前は真っ赤な顔で手の甲を口に当ててゴシゴシと擦る。俺のキスを消すかのようで、それが何でか嫌で手を掴んで止める。
カチカチと時計の針が耳に鮮明に入ってくる。
冷房が出てくるボーッて音も小さく聞こえて…
冷静に考えられるわけもなく、俺は名前に何も言えず、部屋を出て玄関で靴を履くと、タケミっちの所にでも行くかと、この家を後にした。