大人になると人に言えない秘密や悩みの一つや二つ、みんな持っているものだと思う。
いけないと分かっていても、どうにもできない事の一つや二つ、あるものだと思う。
そう自分に言い聞かせてしまう私は、自分の罪を認めないようにと、その気持ちから目を逸らしているんだ。
「はぁ…」
「どーしたの?引越しで疲れちゃった?」
「あーうん。そんなとこ」
「そっか、そっか、じゃあそんな名前には俺が癒してやる」
肩に手が乗ると、恋人のりゅーじは私の肩を揉んでくれる。
同じ大学の講義で隣同士だった私とりゅーじ。それから時々喋るようになって、ガテン系の見た目と反して優しい口調だったり優しい視線だったりに惹かれるのに時間はかからなかった。それはりゅーじも同じだったみたいで、出会って1ヶ月後に、「付き合って欲しい」と言われ、二つ返事でお受けしたんだった。それから幸せな時間しかなかった。
でもそれが崩れてしまったあの日ーーママの再婚を聞いた日、なぜだかとても悲しくなった。ママに誰か相手がいる事は気づいていたしママはまだ女としても幸せになる権利があるって思うのは本音で。でも本当は嫌だと思っていたのかもしれない。心の奥底ではママの幸せを素直に喜んであげられていなかったのかもしれない。そんな自分がまた嫌で。
そんなモヤモヤしていた所に現れたのが千冬だった。
一目惚れだった。
りゅーじの存在が完全に頭から消えていて、目の前の千冬しか見えなくて、ほんの一時でいいからこの人の事を独り占めしたいなんて思ってしまったんだ。
「りゅーじ、今日泊まってもいい?」
「いいよ、もちろん!どうしたの?甘えん坊?」
ふわりと後ろから抱きしめられて私はコクリと頷く。
くるりと反転させられて当たり前に近づくりゅーじの顔。目を閉じて千冬とのキスに変換しちゃう私は、最低な女だ。
ねぇ千冬…どうして弟なの?どうして私、千冬の姉になんてなってんだろ…
誰か助けて欲しい…
朝早くりゅーじの家から帰ると千冬がまだベッドの上で眠っていた。いくら狭いとはいえ、他人の男女が同じ部屋で過ごす事にママ達は何も思ってないのかなぁ…。
スピーって小さな寝息を立てて寝ている千冬の眉毛は下がっていて可愛い。めちゃくちゃ可愛くて、気づくと私の手はもう無意識で千冬の金色の髪に触れていた。
「毛先ちょっと傷んでるじゃん。色抜きすぎ。トリートメント貸してあげようかなぁ」
「………」
「千冬…ーー千冬…ーーす」
言えるわけない。義理の弟である千冬に好きだなんて。
口が裂けても言っちゃいけないって分かってるけど、千冬を見ていると言ってしまいたくなる、好きだと。
キュッと手を握ってそのまま私もベッドの横に胡座をかいて目を閉じる。
一秒でも早くりゅーじの匂いを消したいと思うのに、千冬とこうして眠れたら幸せだなぁなんて思う気持ちに勝てなくて、そのままゆっくりと目を閉じたんだ。
◆
目覚めると私はベッドの中だった。千冬の香りのする掛け布団に心臓がドクンと脈打った。
「オイ、」
「え」
「昨日、どこ行ってたんだ」
ムッとした顔で私を見てくる千冬。
「…友達のと、こ」
「ふーん。男?」
「女!」
「あっそ。一応心配したから」
「ふふ、ごめんね千冬!シャワー一緒に浴びる?」
「はっ!!!?あび、浴びねぇよ!」
真っ赤な顔して否定する千冬が可愛くて、ついからかいたくなってしまう。内心バクバクしているっていうのに、とんだ尻軽女だよなぁ私。
「じゃあ私シャワー浴びてくるから、覗かないでね」
「だから、覗くわけねぇだろっ!!クソッ、なんなんだよっ!!」
千冬が地団駄を踏んでイラついている姿すら愛おしいと思ってしまう馬鹿な私。
「じゃあ出てきたら一緒に朝ご飯食べよう!」
「…別にいいけど」
その日の朝ご飯は千冬と二人で食べた。
キッチンの収納箱にはペヤング焼きそばが常備してあって、千冬の好物なのかなと思った。