眠れぬ夜

「ひやああっ!!」
「無理無理無理無理っ‼️」
「ぎぃやああああっ!!!」
「千冬ぅ〜」
「………」
「千冬うううう〜」
「うるせぇな!!たく、怖えーなら見んなよっ!」
「千冬は怖くないの?気になって目が勝手に見ちゃうんだもん」

結局あの後千冬は私から離れてベッドに座ると、何事もなかったかのようにテレビに視線を移した。だから私も起き上がって千冬の隣に座ってテレビを見ているーーものの、心霊写真は真夏というのに寒気がして怖くて。見なきゃいいものの見てしまう。怖い事を逆手にとって千冬の背中に顔を埋めてギュッとくっついている私。

「夜中独りで便所行けよな」
「絶対無理なんだけど!トイレの中まで入ってきてくれるよね、千冬なら」
「馬鹿言うな、俺は行かねぇからな」
「てかもう既に今も怖い。千冬今日は一緒に寝ようね」

横からぎゅうぎゅう抱きつく私を千冬は一度も見てこようとしない。あきらかに視線を合わせようとしてないのが分かって胸が痛かった。無視を決め込む千冬に、それでも寄りかかっている事を許してくれるのは優しいからなんだろうって。
あの出逢いがなかったら私はもっと千冬への気持ちを閉じ込めていたんだろうと思う。

「千冬…明日からどーする?私、友達のとこ行こうか?千冬が嫌なら…」

本気でりゅーじのところにでも行こうかと思っていた。両親の居ないこの家に千冬と二人きり。私の方が我慢ができなくなってしまうんじゃないかとすら思えてしまう。
千冬は、ゴクリと唾を飲み込むとやっと視線を私に合わせてきた。その顔はなんとも複雑そうな表情で。

「別に嫌だなんて言ってねぇし思ってねぇ。…色々困るだけだ」

ボソッと低い声でそう言うから一瞬きょとんと千冬を見る。そしてほんのり紅い頬にトクンと胸が脈打つ。大きな猫目が泳いでいて、最終的にはテレビ画面を見つめた。画面には白丸で囲まれた部分に物の見事にお化けが映っているというのにそれをまじまじと見つめている千冬。傾けている耳から伝わる千冬の心音はドクドクと早鐘を鳴らしている。これは、テレビが怖いからなのか、私が寄り添ってくっついているからなのか、分からない。
私がくっついているからだといいな…なんて思ってしまう私は悪い女だって分かってる。

「そっか」

それだけ言った私に、しばらくしてから千冬は「だから、家に居てよ…」吐き出すような切ない声に胸が痛い。千冬の腕をギュッとしている私はそのまま千冬の指に自分の指を絡めた。恋人繋ぎなんてして喜んでいる馬鹿な私。

「…俺の話聞いてた?」
「んー?」
「言ったじゃん、色々困るって。なんで名前は俺に構うんだよ、ほっとけよもう」
「怒った?」
「当たり前だろ。あのさ、マジで俺に襲われてもいーの?」

イエスと言ったら引くだろうな千冬。嫌われたくはないよ、千冬に。好かれていたい。言ってしまいたい気持ちを直前で抑えるけど、抑えきれない自分がいるのも確かで。千冬の吐息が今度こそ私の頬を掠めた。何も言わない私に距離を詰める千冬からは、お風呂上がりの同じシャンプーの香りがしてそれにすらドキッとする。大きな目が私の目の前で閉じられてちゅっと小さなリップ音がする。触れ合うだけで胸がキュッと音を立てる。もっとちゃんとして欲しい…言葉に出せない代わりに千冬の腕をキュッと掴むと、コツっと千冬のおデコが私のおデコと触れ合う。薄らと目を開けていた千冬が、また目を閉じる。前髪が額を掠めて千冬の手が頬を包むと同時、唇を割って入り込む舌にそれを絡めると強く抱きしめられた。生温い千冬の舌は私の口内を柔らかく舐め回す。歯列をなぞって上顎をねっとりと絡めるそのキスに身体がカアッと熱くなった。気づけば私は千冬の首に腕を回していて、それを抱き留めながらも唇を貪る千冬のキスに酔いしれて止まらない。
テレビの心霊写真なんてもうどーでも良くなっていた。

「…千冬」
「身体こっち寄せて」
「うん」

後頭部に手を回されてベッドに押し倒された。天井と私の間にいる千冬。金髪がサラリと千冬の顔の横に降りてきて小顔をいっそう小さく見せる。
私の事、どーいうつもりだ?って思ってるよね。
意味わかんねぇって思ってるよね…。

「毛先、傷んでるよ。明日トリートメントしてあげる私が」
「…は!?一緒に入るってこと!?」

目をまん丸く見開いた千冬の首に腕をかけて、そのまま引き寄せた。また重なり合う唇に私は目を閉じて千冬の温もりを身体に覚えさせる。私にキスを迫られて千冬の口角はほんのり上がったのが見えて、それだけで嬉しい。夢中でキスを繰り返す千冬のキス顔を、ほんのり薄目を開けて見ていたら、パチッと目が開いて至近距離で視線が絡んだ。

「え、見てた?」
「ん。可愛いねキス顔」
「最悪。つか俺このまま続けるけどいーのかよ?」

高揚して熱く揺れている千冬の潤んだ瞳。私はそんな千冬をギュッと抱きしめると手を伸ばしてリモコンでテレビを消した。

「寝よっか」

ついでに部屋の電気も消すと、真っ暗闇にモゾモゾと千冬が動いた。大きく息を吐き出して深呼吸を繰り返す千冬は、不意に後ろから私を抱きしめた。

「しょーがねーから今日の所は抱き枕で我慢する」

首元に感じる千冬の熱い吐息にまた胸が音を立てた。
今夜は眠れないかもしれない…