独り占めしたい

私の恋人は超がつくほどド天然だ。
無駄にイケメンなせいで、デートの最中でもナンパされる。ちょっと御手洗に行っている隙に、ショッピングモールの中にある休憩用のベンチに座っている所を、数人の女子に囲まれてしまう。

「焦凍…」

ブスッとした顔で低くそう呼ぶ私を見上げた焦凍は、立ち上がると私の隣に並んだ。それを見てナンパ女子たちは私を上から下まで舐めるように見た後、「女いたのかよ、趣味悪ッ」そんな暴言を吐いて去って行く。最後の一言絶対余計な一言だと思うの。人間ってどうして言わなくていい事をわざわざ言ったりするんだろうね。勝手に勘違いしたくせに、いつも悪者にされる私。選ばれなかった女の僻みだって分かっているけど…

「なんなの、腹立つ」
「ごめん。エンデヴァーの息子ってだけで顔割れちゃってるからな、俺」

当の本人はプロヒーローの息子だからって思っている様だけれどきっと違うと思うんだ。単純に焦凍がイケメンだから。そして私は究極のヤキモチ妬きだ。ウザったい程、焦凍を独り占めして誰にも渡したくないと思っている。

「違うよ焦凍。焦凍は自分がどれだけかっこいいか分かってなさすぎ!もう私から離れないでよぉ」
「俺、かっこいいのか?緑谷とか爆豪の方がかっこいいと思うけど」

手を握る私にちゃんと握り返してくれる焦凍。目が合うと表情のないその顔にも少しだけ笑みを浮かべてくれる。私がもっと笑って欲しい…って言ったから、私といる時はきっと、意識して笑おうとしてくれているんだって思える。立ち止まっているこの瞬間だってすれ違う年近の女子たちからの視線を独占してしまう焦凍に、モヤモヤするドス黒い心が生まれそうだ。だから私は繋いでいた手をギュッと胸に抱き抱えるように巻き付く。数センチ空いていた焦凍との距離が0センチに変わる。

「焦凍が一番かっこいいの!」
「それは嬉しいな。ゆき乃も可愛いよ」

可愛いなんて言われて機嫌が直ってしまう私はきっときっと現金なヤツだと思う。それでも焦凍の口から繰り出される「可愛い」は、特別だって思う。聞けば好きだとか可愛いとかちゃんと答えてくれるけれど、焦凍発信のそーいう言葉は少ないから私は頬が緩んで仕方なかった。今すぐにでも抱きついてキスしたくなる感情を抑えて私は焦凍と手を繋ぐと、ショッピングモールの中を歩き出した。今日は焦凍の服を買うっていうミッションがある。クラスのみんなに轟は私服がダサいって言われて悔しいからかっこいい格好して見せつけてやるんだから!って思っている。
男性服のフロアに着くと片っ端から見て回る。

「これ着てみて」

上下黒のセットアップ。なかなかこーゆうカチッとした格好はしないものの、インナーを白にするだけでぬけ感が出てラフになる。それでいてお洒落でセンスがいい!これなら絶対爆イケだよ!って試着室に焦凍を突っ込んだ。

「彼氏かっこいいですね〜」

店員のお兄さんにそう言われて上機嫌。私は焦凍が着替えている間ずっと店員さんとめちゃくちゃ話をしていた。

「ゆき乃」

カーテンを開けた焦凍が、私を見て一瞬曇った顔をしたけれど、「わ、カッコイイ!!」咄嗟に焦凍の手を取った私にふわりと微笑んだ。

「どうだろうか」
「うん!めちゃくちゃ似合ってる!カッコイイ!お兄さんこれ着て帰ってもいい?」
「もちろん、じゃあこの袋に着ていた服入れてください」

お店の袋をくれる店員さんにニコニコ笑顔で私は受け取る。それをすぐに焦凍に奪い取られて…あれ?なんか怒ってる?不機嫌そうな顔で私を見ている焦凍に小首を傾げると無言で着ていた服を詰めた。
そのままレジでお会計をしている間も何故か焦凍はずっと不機嫌で。元々顔に表情がないからあまり周りの人は気づかないけれど、ずーっと見ている私にはすぐに分かるその変化。

「ありがとうございました!またお待ちしております」

お店を出た所で焦凍がハァ〜と、溜息をついた。

「どうしたの?」
「なにが」
「なにって。怒ってるよね?」
「別に怒ってねぇけど」

そう言う口調すらいつもとは違っていて。せっかく二人でアイス食べようと思ったのに、何だか私まで気持ちが下がってしまう。
立ち止まる私たちを他所に、行き交う人達は楽しそうに喋っている。

「怒ってるよ。私なんかした?」
「………ちょっと、こい」

急に繋がっている手を引いて歩き出す焦凍。どこへ向かうのかと思いきや、ゲームセンターの中にあるプリクラ機。女子同士でプリ撮ってるの見て、「俺も撮ってみたい」なんて言ってた事を思い出したけれど、今このタイミングでは、キツすぎない?私たちそーいう気分じゃないよね…

「え。焦凍?」

彼を見上げた瞬間、何の迷いもなくいきなり唇が重なった。へ?なんで?なんでキス?動揺しながらも焦凍のキスが深くなっていく事に、無条件で喜んでしまう自分がいて。こんな意味の分からないキスなのに、それでも焦凍の感情をぶつけるようなキスに私は焦凍をギュッと抱き留める。
頬に手を添えて口内で舌をくちゅりと絡ませる焦凍に答えるように私も舌を口から出すと、それを厭らしく舐め取られた。子宮がキュンと疼くようなそのキスに私たちの離した唇からは透明の糸が一瞬二人を繋ぐ。

「ど、したの…」
「店員と仲良くしてるゆき乃見て、腹が立った」

思いもよらぬ焦凍の言葉に瞬きをする事すら忘れそうだ。雑音だらけの昼さがかりのショッピングモールの一角。プリクラ機の中の私と焦凍。もう焦凍の声しか耳に入らない。
ほんのり頬を赤らめて唇を尖らす焦凍がめちゃくちゃ可愛い。

「妬いたの?店員と話してる私に…」
「あぁそうだ。妬いた…」
「うそ、」
「嘘じゃねぇ。ゆき乃の笑顔は俺だけのもんにしてぇって思っちまってる」
「焦凍ぉ…」
「だからさっき俺が女に話しかけられた時のゆき乃の気持ちが分かった。…悪かったな、嫌な気持ちにさせて」
「焦凍…ーー好き」
「え?」
「すーきー。大好きっ!」

ふわりと抱きつく私を抱き留める焦凍の腕は強く私の背中に回される。肩に乗っかる焦凍の顎がほんのり熱を帯びている。

「俺も好きだ」
「ふふ、嬉しい」
「ゆき乃、キスしていいか」

焦凍の問いかけに私はハッとして一旦焦凍から離れるとお財布の中から400円を取り出してプリクラ機に入れた。カメラの真ん中にきて、「はい」目を閉じて待つ私に、焦凍のキスが舞い降りた。角度を変えて何度も何度も舌を絡ませる欲情的な焦凍の顔を保存しておきたくて。
気づくともう落書きの時間に切り替わっていて、それでもキスを止めない焦凍に、落書き時間すら奪われた。ポトンとシールが出てきて漸く焦凍が唇を離す。

「悪い夢中だった。…嫌じゃなかったか?」

乱れた前髪を整えてくれる焦凍に首を横に振る。

「嫌なわけないよ。帰ったら続きしてね?」
「いいのか?」
「うん。だってギュッてして貰わないと熱がおさまらない…」
「じゃあ今すぐ帰ろう」

え?待って。慌ててシールを取り出して苦笑い。これ、誰にも見せらんないや。恥ずかしくて手帳に挟んだそれを見るのに私はその後一週間もかかったなんて。


-fin-