準備中
「は?距離を置く?何言ってんだゆき乃…」
ジャンが思いっきり顰めっ面で私を見る。その指には煙草が挟まっていて、私はその煙草をジャンの指から奪い取ると一口吸ってみせた。途端に気管が圧迫されてゲホゲホっとむせ返る。なにこれ、クソ不味い!キョトン顔のジャンを睨みつけて「不味いぃ…」地獄のボイスでそう言うと苦笑いで煙草を受け取った。
大学内にあるカフェテリアのオープンカフェで私達は次の講義までの時間をだいたいこの場所で潰している。
半年前から付き合っているアルミンは女の子みたいな外見だけれど、中身は意外としっかりしていて、いつも冷静な判断を口にする超がつくほど真面目くんだった。
逆に私はといえば、破天荒という言葉がぴったしな大雑把ガール。自分で言うのもなんだけど、人に対して壁がないというか人懐っこいというか。それか売りでもある。だから付き合う人には私をダメだと叱ってくれる人がいいって思っていた。そこに現れたアルミンは正に私の求めている人で、一目見てこの人だ!って思ってすぐに告白したら、目をまん丸くして「僕でよければ」って照れながら笑った顔がめちゃくちゃ可愛かったんだ。
それから半年間順調に付き合ってきた。というか、不満はそれなりにある。だって私たち、まだキス以上してない。キスだってそんなにしてくれないしさぁ。それがなくともアルミンは見てるだけで癒されるけどさぁ。
「アルミンはさ、私がわざわざアルミンと付き合ってあげてるって思ってるのかなぁ…」
「言われたのかよ、アルミンに」
ブラックコーヒーを一口飲むジャンにコクリと頷くと、残念そうな顔を飛ばす。頬杖をついてロイヤルミルクティーを啜る私は、昨日アルミンに言われた言葉を脳内で思い浮かべる。
「アルミーン!誕生日はデートできるよね?」
「あ、うん。もちろん!でも本当にいいの?」
「なにがー?」
「僕なんかと付き合って貰って…ゆき乃はそれで幸せでいれるの?」
「…へ?なにそれ、」
「え、いや。僕なんかと一緒に居てゆき乃は本当に楽しいのかなぁなんて」
「なんだそれ。アルミンは私の事好きで付き合ってるんじゃないの?」
「僕?そんなの当然だよ」
「じゃあそーゆーのもう止めてよ」
「ゆき乃?もしかして怒ってる?」
「怒ってるよ!アルミンっていつまで経っても私の事信じてくれてないよね。…もういいよ、しばらく会うの止めよ私たち…。私はアルミンが大好きだよ、キスの先もしたいって思ってるくらいに。こんな事、言いたくなかった」
腹が立つというよりは、ただ悲しかった。目の前にアルミンがいるのに、アルミンの心がそこにないみたいで、私一人だけがアルミンの事を好きなのかもしれないってそう思うと。
それからスマホの電源を切って今に至る。
「悔しいなぁ。私はアルミンだから付き合ってるのにさぁ。アルミンは見てるだけで癒されるけど、でもやっぱりもっとぎゅっとされたいし、えっちもしたいのに…」
「えっ!?」
え?ん?
ぐだーとカフェのテーブルに寝そべっていた腕から顔をあげると、真っ赤な顔で口元を手で隠しているアルミンがいた。
「えっ!?ジャンはっ!?」
「ジャンならトイレみたいだけど。ゆき乃ごめんっ。君に連絡がつかないからきっとここだと思って来た。僕ずっと自信がなくて。でも」