慟哭交じりの口説き文句*1
スマホに入ったメッセージを見て溜息を零す。今月に入ってからもう三度目だった。
警察官という職業についている恋人の爆豪勝己。昔から正義感が強く、人を護る事を生きがいにしている彼は根っからの仕事人間だった。勿論それを承知の上で勝己とお付き合いをしているのは他の誰でもないこの私だ。分かっているし、一社会人として仕事を最優先するのは当然の事だと思う。けれど、こうもドタキャンが続くとなんというか、心にぽっかりと穴が空いてしまったような気分になってしまうんだ。
せめて勝己が穴埋めしてくれる様な人だったのならよかったのだろうか?会いたい時に会えない恋人なんて、意味があるのだろうか…。我儘なのかな、私。世の恋人たちは皆、幸せそうに腕を組んで仲睦まじく歩いている。その中に私と勝己もいるはずだったのに、隣に勝己がいないというだけで何故か見える世界はグレーで、足取りも重たい。
季節が秋から冬に変わろうとしている今、勝己の温もりが足りなくて心の中は凍えそうなんだ。
「いらっしゃい!」
「こんばんは!また来ちゃった〜」
「名前ちゃん!いつものでいい?」
「うん、いつものスマイリーお願い」
「かしこまり!」
行きつけのラーメン屋さん。まぁ家からすぐの所だからっていうのもあるけど、ここの店長である双子の河田兄弟は、私と勝己の住む部屋のお隣さんだった。そんな経緯もあって、一人の時はしょっちゅうここに来ていた。
「またかっちゃんにドタキャンされたの?」
ジャケットを脱いで隣の椅子に置いた私を見て、その表情だけで心を読む兄のナホヤくん。毎度ナホヤくんには愚痴ってばっかりで申し訳ないと思うけど、いつもニコニコ顔のナホヤくんには、なぜだか心のモヤモヤを全部吐き出すことができるんだ。
カウンターからお水を置いて私を見ているナホヤくんに、私は腕まくりをすると身を乗り出して言ったんだ。
「聞いてよ、ナホヤくん!!」
頂いたお水を一気飲みしてダンッとカウンターに音を立てて置いた。そんな私を笑い飛ばしてくれるナホヤくんにいつも救われているんだと思う。奥でせっせとラーメンを作っている弟のソウヤくんに任せっきりでナホヤくんは私の前で肘を着いて座ると、勝己に対する愚痴を一つも取り零す事無く聞いてくれた。
「かっちゃんは今頃仕事に集中してるだろーから私の事なんて一ミリも思い出す事なんてないんだろーけどさぁ、私はいっつも独り。お休みの日だってなかなか合わないし、家でもほとんど寝てるし…」
待って私たち、最近えっちしてない!!!
キスしたのだって、いつだった!?…ーー「ナホヤくん、私の事いま抱ける?」唐突な質問にさすがのナホヤくんも、ブッと目ん玉をひん剥いた。なんなら後ろのソウヤくんは真顔を真っ赤にしていて…
「どゆこと?今ここで抱いていいの?俺、」
苦笑いで首を傾げるナホヤくんに私は首を左右に振ってごめん、と謝った。
「冗談、嘘です、忘れて」
「あーそっか、かっちゃんに抱かれてねんだ、名前ちゃん!」
また、バレてしまった。
ナホヤくんってヘラヘラしてるけど人の話ちゃんと聞いてるし、分かってなさそうで的を得た事言ってくれちゃうんだよなぁ。
「お待ちどうさま、スマイリーだよ」
タイミング良いのか悪いのか、ソウヤくんができたてのラーメンを私の前に出してくれる。
「餃子とチャーハンとビールおかわり!今日はとことん食べるから私!」
「え、大丈夫?」
心配顔のソウヤくんに対して頷くと「今日は奢ってやるよ、名前ちゃん!たんと喰え!」ナホヤくんからの天の声に立ち上がってナホヤくんの首に抱きついた。
「ありがとーナホヤくん!大好き!!」
突然抱きつかれたけど、慣れた手つきで私の背中をポンポンとあやすナホヤくんからは、ほんのり甘い香りがした。毒舌ナホヤくんには似つかわしくない、甘い香りになんでかトクンと胸が脈打った。
ビールと枝豆とで、私はお店が閉まる時間までここに居座った。完全に酔っ払っていて、途中から勝己の事も忘れてナホヤくんソウヤくんと笑い話をしていた。ヤンチャだった二人の過去の武勇伝とか、私の過去の恋愛話とか、そんな話をしていると時間はあっという間に過ぎていて、明日が休みなのをいい事に私は酔い潰れていたんだ。
お客さんもいなくなった店内に、コツコツと誰かが歩いてくる音が聞こえた。耳は聞こえているのに意識が朦朧としていてハッキリしなくて、目も開かないし身体も動かせない。
「悪かったな」
「あーいいよ、いつもの事だし!かっちゃんが足りねぇって寂しがってたよ名前ちゃん!仕事そんなに忙しいの?」
「あぁ。悪ぃ連れて帰るわ」
「はいよ〜!かっちゃんもたまには食いに来いよな」
「また来る」
ナホヤくんと勝己?私の事話してる。気づくとふわふわとして、勝己にお姫様抱っこされているんだって分かった。首に腕を回してギュッと抱きつく。
「かっちゃん」
「あ?起きてんのか?」
「ん、でも歩けない…ごめんね」
「なにが」
「餃子食べちゃったからキスできない」
「ンなことどーでもいい」
本当はそれでもキスしたいの。めちゃくちゃにキスして欲しいのに…
「ンだよ、悪かったよ、だから泣くな」
「かっちゃんごめん、キスしたい…」
目も開けらんないし身体だってぐにょぐにょで立ってられないのに、そんな事言う名前は面倒くさいって思うよね。でも勝己はこーゆう時、必ず願いを叶えてくれる。だってほら、ぬちゅって勝己の唇が触れる感触がして、私はズルズルと勝己の腕から下ろされる。それでもぶっ倒れないようにって腰を掴んで押さえながらも、私にキスをくれる勝己。
久しぶりのその温もりに、私たちは目の前に玄関があるっていうのに、飽きれるぐらいの時間、そこでキスを繰り返したんだ。