君を守るにはまだ早い*1
塾の帰りだった。期末テストが近いからついつい先生に色々質問してて遅くなっちゃった私は腕時計を見て早歩きで自宅に向かう。塾を出る時に彼氏の隆くんにLINEを送ったけれど、たぶんこの時間は妹を寝かしつけているに違いない。勉強と部活の両立で忙しい隆くんは、最近よく寝かしつけで一緒に寝てしまうってボヤいていたし、今日も寝ちゃってるんだろうって。妹二人と寝ている隆くんを想像するだけで胸がポウっと熱くなる。付き合って半年経っている私たち、喧嘩という喧嘩もした事がなく、見た目よりも大人な隆くんの愛に包まれて楽しく過ごしている。この幸せがずーっと続くもんだと思っていたんだ。
足取り軽くスキップしながら夜道を歩いていると、高架下にある河川敷の一角にあきらかに嫌な人種が目に入った。どっからどう見ても絡まれてるよなぁあれ。ど、どうしよう…。隆くんが居たらこんなの簡単に解決できちゃうんだろうけど、今ここに隆くんはいない。私一人でどうにかしなきゃ!そう思うも、囲まれて殴る蹴るをされている人を見ると脚がすくみそうになる。それでも助けなきゃと、私はふぅ〜っと一つ息を吐き出すと「お巡りさーん!!こっちです、こっち!早く早く!!喧嘩です、お巡りさんっ!!」オーバーリアクションでパタパタとそちらに向かって叫びながら走ると、そこに居た不良たちが「クソったれ!!」そう叫びながら一斉に散って行った。転がったままの人の元へ駆け寄ると、黄金色の髪の下から覗く大きな目が怯えた顔でこちらを見た。
「大丈夫ですか?」
「う、え、君が助けてくれたの?」
ボロボロ大きな目から涙を零している彼は私を神様かのように見ている気がして、「あ。傷、私絆創膏持ってるからちょっと待ってくださいね」鞄の中から取り出した絆創膏はこの前の隆くんとのデートの時に買ったサンリオの絆創膏だった。
「ちょっと可愛いけど、これしかないや、ごめんなさい」
「それ俺に貼ってくれるの?」
「え?はい」
「うっ、嬉しい…」
大袈裟…なんて思うものの泣き出す彼が何だかちょっとだけ可愛く見えて、私は絆創膏を彼の切れた口端に貼ってあげた。それから持っていたペッドボトルの水をタオルに濡らして汚れた箇所を拭いてあげると、また大袈裟に泣き出した。てゆうかこの人同じぐらいの歳だよね?泣く?普通、男子が。隆くんを思い浮かべるととてもじゃないけど想像できない。でもきっと、喧嘩に慣れていない人からしたら…
「怖かったよね」
「うん。でも君が来てくれたから俺、生き返ったよ」
「ふふ、大袈裟。タオルよかったらあげるよ」
「え、いいの?」
「うん。もう大丈夫だよね?私行くね」
「あ!!」
「え?」
立ち上がった私を見上げた彼も同じように立ち上がると、差程身長差はなく、見栄えが女子みたいな可愛らしい顔で「あの、ありがとう!本当に、本当に、俺の為に…」手をギュッと握りしめられた。ズンと距離を詰めたその勢いに一歩後ろに後ずさる。
「う、うん。お構いなく。では」
「あ、俺送るよ!こんな可愛い女の子を一人で家に帰すような男に見える?」
「いえ、大丈夫です!家すぐそこなんで!」
何となく面倒くさくなって、私はぺこりと頭を下げると小走りで家へと向かった。
ものの5分程度で家に着くと、ちょうどタイミングよく隆くんから着信があった。私は部屋に入るなり通話ボタンを押す。スマホ画面いっぱいに、寝起きのような顔で目を擦っている隆くんの顔が映った。
【名前ごめん、寝ちゃってた。帰り大丈夫だったか?】
「うん。ちょうど今家着いた所。隆くん寝ちゃってるかなぁって思ってたから大丈夫だよ」
【悪いな。お帰り】
「ふふ、ただいま!あ、なんかね、高架下で不良に絡まれてた子がいて、お巡りさーんって声上げたら逃げて行った。隆くんがいなかったから頑張っちゃった!」
画面の中の隆くんの眉間にシワがよる。
【いやそれ頑張る奴じゃねぇし。もし不良が向かってきたらどーするつもりだったの?】
「あ、考えてなかった」
【たく。塾の帰りは今度から迎えに行く!これ決定な】
「でも隆くん」
【心配するな、バイクならそう時間かかんねぇよ】
「そっか!じゃあお願いしようかな」
【あぁ】
「塾帰りに隆くんに逢えるの嬉しい」
【…あーもう、これ電話。そーゆー可愛いこと言うと今から行っちゃうよ】
「え?可愛いこと言ったの、私?」
だって本音だもん。いつだって隆くんと一緒に居たい。
画面の中の隆くんは同じく画面の中の私を見つめているのか、ほんのり瞳が揺れていて…あ、その顔好き。隆くんの愛を感じるっていうか、うん好き。というかどんな隆くんでもかっこいい。私の方が逢いたくなってる。
【名前、画面にチューして】
「へ?」
【スクショすっから】
「やだ絶対!隆くんがしてよ」
【いいよ、なんでもするよ俺は、お前の為なら】
「わー待って、恥ずかしいからいい!今のなし!」
【あ?いいのか?やるけど?】
「いいの、いいの。本当に。明日直接やってください」
【ブッ、そうするわ。あ、悪ぃちょっと様子見てくるわ。じゃあまたな】
「うん、おやすみなさい」
【おやすみ】
付き合ってから一日も夜の電話をしなかった事はない。デートの日も、隆くんの家に遊びに行った日も、寝る前にはこうして必ず毎日隆くんからのテレビ電話がくる。そんな甘ったるい隆くんとの日々が私にとっての日常だった。