好きだけじゃ終われない*1

「あ、うそ…」

席替えで場地くんの隣になった。これって運命!?
しかも窓際の一番後ろが場地くんで、その隣が私。こんな幸せな事ってあるのだろうか。みんなが机を抱えて移動する。場地くんは席に着くなり隣に机を置いた私を見てトレードマークの八重歯を見せて屈託なく笑った。

「よろしくな、名前!」

その笑顔に胸がキュンと熱くなる。
これから毎日場地くんの隣に座れるなんて本当夢見たい。むしろ夢なら覚めないで…

場地圭介くん。
同じクラスの男子で、クラスの中で最も目立つ人だった。雰囲気というか纏っているオーラというか、只者ではない雰囲気を持っている人で、いつも周りには男子が集まっていて輪の中心にいるリーダー的な人である。
男女問わず人気者の場地くん。曲がっている事が嫌いで、思った事は全部口に出している。たまにちょっとズレている所が可愛いなんて、先輩達からも人気があった。私もそんな場地くん女子の中の一人で。いや勿論そんな事誰にも言ってないけれど。場地くんを見ていると飽きなくて、自然と目が場地くんを追っている自分がいて…ーーこれを恋と呼ぶものかと、自分に問いただしている最中だった。
不良っぽいけど意外と授業とか真面目に聞いていて、如何せん漢字に弱かった。よく間違えるし読めないしで、隣になったら色々聞かれるよね?…今日の帰り、漢字辞典買って帰ろなんて思ってしまう気持ち悪い私。
そんは場地くんと私は飼育委員で一緒だった。教室の後ろにある水槽の中にいるグッピーちゃんと、学校内を拠点にしている猫ちゃんが数匹いて、その子達の面倒を見るのが仕事だった。部活は特に入っていないみたいだけれど、運動神経抜群の場地くんは、よくよく助っ人で色んな部に顔を出している。

「あー俺今日サッカー部の練習試合なんだわ、猫の世話、終わり次第行くからさ」

大股開いて机に寝そべる場地くんは、顔をこちら側に向けていて、そのまま目を閉じたら寝顔とか見れちゃうじゃん!なんて内心テンションが上がってしまうのを完璧に抑えながら「うん、分かった!」なんて笑顔を返した。

「え、場地くんどこのポジション?」
「そりゃFWに決まってんだろ!ハットトリック決めて見せんぜ」

うん、場地くんなら本当にハットトリック決めちゃいそう。こっそり観に行こうと思うと自然と頬が緩む。でもきっとまたファンが増えちゃうんだろうなぁ〜なんて頬杖をついて授業中も場地くんを見つめていた私に、天罰が下る。

「苗字、苗字!!」

ハッとして顔をあげた私をガン見している世界史の先生。残念なことにクラス中の視線が私に飛んできている。

「は、はいっ!」

ガタンと椅子を鳴らして立ち上がると先生が呆れた顔で次の瞬間、物凄い有り得ない言葉を発したんだ。

「苗字はそんなに場地が好きなのか?さっきからずっと黒板ではなく場地を見ているじゃないか」
「!!!!」

カァーっと真っ赤になるのが分かった。
まじで有り得ない。みんなの前で、クラスのみんなが聞いてる前で…ーー何より場地くんが聞いてる前で…チラリと横目で場地くんを見れば、クークーと静かな寝息を立てて眠っている。運よく場地くんには聞かれていなかったにしろ、有り得ない。怒りを通り越して泣きそうだ。だってみんながそういう目で私を見ているに違いない。苗字名前は場地くんが好きだって。

「せんせーうんこ出そう。トイレ行ってもいい?」

スッと廊下側の一番後ろの席にいた同じクラスの河田ソウヤくんが手を上げてそんな発言。それにみんなの視線がそっちに移ってどっと爆笑が起こった。

「あとさ、名前ちゃんはそこの木にある鳩の巣を見てたんだよ。いつも言ってる、鳩可愛いって、な!」

ソウヤくんが私を見てニコリともせずにそう言ったから「あ、うん…」コクリと頷くと、クラスのみんなが「なんだ〜」なんて私への意識を外したように空気が変わった。…ソウヤくん。私あの木に鳩の巣があるなんて知らない。ちょうど場地くんの延長線上にある木を見て初めてそこに鳩がいる事を知ったなんて。

「河田、早く行ってこい」
「はーい」

ソウヤくんはふいっと顔を逸らすとポケットに手を突っ込んで教室のドアをガラリと開けると廊下を歩いて行った。

「苗字も、今後は余所見しないように」
「はい。すみませんでした」

カタンと椅子に座って私はなるべく場地くんを見ないように気をつけなきゃと思ったんだ。

お昼休みに隣のクラスの松野くんが来て、場地くんにユニフォームを渡していた。どうやら松野くんもピンチヒッターで試合に出るとかで、場地くんの背番号が10番じゃなかった事にめちゃくちゃ怒り奮闘だった。
背番号10って確かエースナンバーだよね、サッカーって。さすがにエースはサッカー部の奴だろーなんて思うけれど、10番を背負った場地くんを見てみたい気もした。そんな松野くんを宥めながらもいつものペヤングを二人で半分こして食べていて、私も場地くんと半分こしたい〜なんて思ってしまう。
結局私はせっかくソウヤくんに助けて貰ったくせに、脳内は場地くんの事ばかりで…それでもお昼休みが終わる頃、学食から戻ってきたソウヤくんに購買で買ったアーモンドチョコを差し出した。

「ソウヤくんさっきはありがとう」
「名前ちゃんあのさ、俺も今日サッカーの試合出るの。観に来てくれない?そしたら俺、頑張れるから」

きょとんとする私の前でソウヤくんは凄く真剣な顔でそんな事を言ってきた。なんでかその顔が何か、覚悟を決めた様なそんな表情に見えたけれど、コクリと頷くといつも真顔のソウヤくんが、初めてほんのり口端を緩めたんだ。双子の兄、ナホヤくんにそっくりな顔で。
場地くんの事が気になっている私が、場地くん以外で初めて胸がトクンと脈打った瞬間だった。