東京丸の内にある、丸の内大学病院。
院長の一条 武蔵には二人の娘がいる。一卵性の双子である姉のユヅキと、妹のハル。
性格も正反対の二人だけれど、二十歳の時に親の財産で億ションへと引越し仲良く過ごしていた。
姉のユヅキは自由奔放で人付き合いも良く動物を深く愛していた。それにより医学の道へ進んではいたものの、動物愛護団体に入り、24歳でシガンシナの大学に渡米し、そこで薬学を学んでいる。
妹のハルは、一条の娘という事を隠して都立キメツ学園で古文の先生をしている。
金持ちの娘という事で、何かと面倒なことも多いからそれを懸念して素性を隠している事にすら軽く戸惑いを抱えながらもごく普通の幸せを夢見て生きている。
ーー二年の月日が経ったその日、ハルのスマホにポロリとユヅキから一週間ぶりにLINEが届いた。
【日本に帰ります】
たった一言、それが二人の運命を大きく動かすことになるなんて。
これは、愛を知らないユヅキとハルの愛の物語である。
◆
二年ぶりに成田空港に降り立った。久々の日本。
相変わらず人が行き交うここはシガンシナよりだいぶ空気が不味い。
時差ボケで重たい頭を振ってポケットの中のスマホに視線を落とす。
双子の妹ハルに送った帰国のLINEは既読スルー。
なんだよぉハル、LINEぐらい返せっつーの。内心軽く舌打ちをしつつも私は大きなキャリー片手にタクシー乗り場へと歩く。
とりあえず眠たかった。身体が怠くてマッサージにでも行きたかったけれど、そんな元気すらない。
タクシーで白金にある自宅マンションへと向かう。コンシェルジュのおじさんに挨拶をすると物凄い吃驚していたからハルから私の帰国が伝えられていないんだと理解した。
でも今はそんな事どーでもよくて。とりあえず荷物を置いて着ている服を全部脱ぎ捨てた私は、二年ぶりの大きなキングサイズのベッドにダイブして眠りについた。
ーー数時間後、目が覚めるともう真っ暗だった。
カーテン開けっ放しで眠っていたから窓の外は暗闇に包まれていて、欠伸をしながら見下ろした夜景はなんとも綺麗だった。
「シャワーでも浴びるか」
誰に拾われることも無い独り言を言った私はそのままシャワールームに行き、全身の疲れを取るようにバスタブにもお湯を溜めてゆっくりと泡風呂に浸かった。
てかお腹空いた。さすがにお腹空いた。ハル早く帰ってこいよ、なんか作ってよ〜なんて思いながらも全身さっぱりした私は素肌にタオルを巻いて濡れた髪を別のタオルで拭きながらバスルームから出た。
それと同時、玄関の方から何やらドアの開く音がして、「ハル〜!!お腹すいちゃったよぉ!!」当然の如く妹のハルが帰ったもんかと思い、顔を覗かせると、見知らぬ男二人に抱えられてぐったりしているハルがそこにいた。
「は?誰?」
「あァ?てめぇこそ誰だァ?」
「ユヅキ。ハルの姉だけど、双子の。うちの妹に何しようとしてんのよ、この変態!」
ドカッと口答えしてきた男の股間を蹴りあげようと足を出すものの、左手で簡単に止められる。
「てめぇ、何しやがる!?わざわざ潰れたこいつを送ってやったんだァ、こっちは」
「不死川、よせ!すまない、私は煉獄杏寿郎という物で、ハル先生と同じ職場の教師だ。今日は内輪でちょっとした飲み会があったのだが、ハル先生がこうして酔ってしまったので、送り届けにきた。君達は双子なのか?」
日本人?にしては、金髪でロン毛の先生なんているのか?ってくらいのギョロ目の煉獄杏寿郎がハルを大事そうに抱えているのは分かった。
反対側の銀髪の目付きイっちゃってる男は顔に傷があってめちゃくちゃ態度も口も悪いーーけど、そーいうオトコは嫌いじゃなかった。
「そうよ!一卵性だけどね。ねぇもしかしてハルはうちが丸の内大学病院の院長の娘って事、言ってなかった?」
私の言葉に男二人は、目を見合わせて「どーりでこんなとこに住んでる訳だァ、」「うむ、それは初耳だ」なんて言っている。
せっかくハルにご飯作ってもらおうと思っていたのにこれじゃあ何も食べられないじゃん。
「で、どっちがハルの彼氏?両方?」
「俺じゃねぇよ」
言ったのは銀髪の悪顔男。ちなみに煉獄杏寿郎は「俺も彼氏ではない」そう言うけど、ちょっと気にしてるってのが見え見えだ。
そしてハルの過去の男の趣味からいっても、この銀髪では無い事は分かる。
「ふふ、じゃあ銀髪のお兄さん、ユヅキと飲み直さない?煉獄杏寿郎はハルの事お願いね!突き当たり右がハルの部屋だから、好きにしていって!」
キョトン顔の二人に微笑むと私は銀髪の腕を掴んでそのまま引き寄せた。
「てめっ、離せよ!なに勝手に決めてやがる!俺はこいつを送りに来ただけだァ」
「でもたぶんハルが好きなのは煉獄杏寿郎だと思うの。目が覚めて煉獄杏寿郎がいたら喜ぶと思うけど、あなたは必要ないよね?結構タイプだよユヅキは、あなたのこと!ずっと海外だったから日本の話、聞かせてよ?ね?お願い!」
そもそも、無理くり引っ張る私の身体は、タオル一枚巻いてあるだけですぐに素肌に繋がっていて、このタオルをスルリと落としてしまえば全裸を拝ませる事になる。だからか銀髪も強くは抵抗できなくて困り顔。めっちゃ眉間にシワがよってるもん。
「おい煉獄、お前どーすんだァ?」
「俺はとりあえずハル先生をベッドに寝かせる。不死川とていい大人だ。付き合ってあげたらいい」
裏切られたと思ったのか、銀髪が小さく舌打ちをすると私の事を見て素早く言った。
「とりあえず服着ろ。それからだァ」
「やった!!ねぇ、名前教えて!」
「…実弥。不死川実弥…」
「ふふ、ちょっと待ってて実弥!」
ギュッと実弥に軽く抱きつくと頬に軽く口付けを落とす。無抵抗な実弥は苦笑いで私から目を逸らした。
◆
「へぇ〜じゃあそのキメツ学園でみんな働いてるんだぁ!」
部屋についているダイニングキッチンで適当なツマミを作っている実弥は、ワイン片手に上機嫌の様子。飲み会だったっていうから結構酒も入っているんだろうけど意識は全然しっかりしているところを見ると、そうとう酒が強いんだって。
たぶん帰国メッセージを見て、ハルが冷蔵庫に適当に食材を入れて置いてくれたお陰で、実弥がそれをうまく使って何個かツマミを作ってくれた。
ワインセラーにある年代物のワインを開けるとそれをグラスに注いで小さく乾杯。グイッと一気に飲み干した実弥は、ここに来た時よりずっとよく喋りだしたんだ。
「あァ。お前は?」
「ユヅキ!そろそろ名前覚えてくれても良くない?」
ムウーって頬を膨らませて実弥の腕をポカスカ叩くと、くしゃりと髪を撫でられる。
「悪かったよ。ユヅキは何してんだ?」
「ふふ。私動物愛護団体に入っててそこで薬学の研究をしているの。ドクターの資格も持っているんだけど、日本じゃ医学の進みも悪いし、海外で学んでいたんだけど、FIPって猫の感染病があってね、それって今まで治せる薬が無かったんだけど、その薬の開発が実行されて、新しくできた新薬を持ってここに戻ってきた。救いたいんだ〜小さくて儚く消えゆく命を一つでも多く…」
「なんだ、意外と真面目なんだなァ」
「意外とってなによ?」
また頬を膨らませると実弥がクッて喉を鳴らして笑う。その顔にトクンと胸が脈打つのを感じた。
たぶん、今じゃない。でもこれは絶妙のタイミングで、それを引き寄せるのも自分でありたい。
そっと実弥の血管の浮いた筋肉質な腕に触れる。
途端に視線が絡んでこの部屋の空気がグッと重たくなった。
「おい、ユヅキ、もう酔ったのかァ?」
最初は誰でも誤魔化すよね?分かってる。でも私はそんな事しない。酒に酔ったフリして男を誘うなんてベタな真似はしない。
「酔ってない」
だからお尻一個分実弥の方に近づいて下から見つめあげると実弥は明らかに顔を逸らした。
「嫌なの?」
「お前…本気?」
「うん。だって今思ったんだもの、実弥が欲しいって、」
逸らした顔を、その頬を掴んで実弥の顔をこちらに向かせた。こーゆうの、男前すぎるってよく言われたっけな?今はそんな事どーでもいいか。
目の前の実弥の三白眼は揺れていて、でも諦めたように私だけを真っ直ぐに見ている。
無言で近寄る私を、触れる寸前に引っ張ったのは実弥の方だったーーーー
触れ合うだけのキス。でもそんな子供じみたものは求めてない。
だから胡座をかいて座っている実弥の上に向かい合ってラッコ座りした私はその首の後ろで腕を交差した。
ワイン味の口内に舌を這わすと実弥の私の腰に巻かれた腕にグッと力が入る。
久々に日本に戻って、募る話も沢山あった。
けれど今、この状況を望んだのは私自身。
目の前にはいい男。こんな絶好のチャンス逃す馬鹿な事はしない。
「いつぶりのセックス?」
長いキスの後、耳朶を甘く舌で攻めながら聞くと、「…覚えてねェよ、お前は?」…頭で考えてニッコリと微笑む。
「半年ぶり。ベッド連れてって」
ギュッと抱きつくと実弥がそのまま立ち上がる。腰に足を巻き付ける私を軽々抱いてベッドに下ろすと、ここからが本番って感じ、実弥が着ていたシャツを乱暴に脱ぎ捨てる。
「ユヅキ…」
「ふふ。」
頬に優しく触れる手に、実弥が本当は優しい人だと分かる。
抱きしめられた温もりは甘ったるい程柔らかかった。
❀優しい音のオトコ❀