遅すぎる恋の予感

「傷猫専用シェルター立ち上げと保護活動ですか?」

「あぁそうだ。その責任者をユヅキにやって貰いたいと思ってる。リヴァイは今まで通り薬学の方でリヴァイ班を纏めて欲しい」

「だがエルヴィン、薬学にはユヅキの知恵も知識も必要不可欠で、」

「分かるぞリヴァイ。だがな、傷猫専用シェルターにもドクターは必要で、更にはFIPにかかった猫にもドクターは必要だ。日本の地に慣れているユヅキだからこそ、頼めるものだと思っている。勿論何かあればユヅキには研究所に来て指示を煽ってくれて構わない。動物愛護を名乗っているなら現場で活躍してこそ、この名が大きくなっていくんじゃないだろうかと俺は思っている。」

エルヴィンの言葉に私は高揚していた。
確かに薬学に関わっていたいと思っている。けれども、現場で動物を保護したいという思いはずっと持っていた。

「やります!私にやらせてください!!」

元気よく答えた私をリヴァイはしかめっ面で見返した。

「お前、俺と離れてもいいのかよ?」

思いがけないリヴァイの言葉にキョトンと見返す。リヴァイの言った言葉の意味は理解しているけれど、リヴァイがなんでその言葉をチョイスしたのかは、意味がわからない。
あきらかに不機嫌なリヴァイの顔。よく見慣れたこの顔は私が他の男と話したりしている時に良く見せていたリヴァイの顔で…

ーーなんだ、リヴァイはやっぱり今でも私を好きなんだ。

そう思うとさっきまでのモヤついていた心は幾分スッキリとしていた。
今日もリヴァイに貰った指輪は右手の薬指についていて、そこに視線を落としていたリヴァイは、私の言葉を待っている。
黒髪の下、三白眼が真っ直ぐに私を捉えていて…

「その件に関しては、この後時間をちょうだい!ね?」

チッと舌打ちの後、「仕方ねぇ」なんだかんだでリヴァイは優しい。私に甘いオトコだと思う。

「それで、早速なんだが、月曜日に一匹新薬を試したい猫がいるから、とりあえずはリヴァイと迎えに行って欲しい」

「はいっ!!」

シェルターはこれから建てるからまだ時間はかかってしまう。それまでの間の傷猫達は、うちに置いて24時間観察する事になった。
ハルの了解は得てないけれど、動物好きなハルが断る理由なんてないと思えた。
帰ったら早速部屋をそれ用にしなきゃ。買い物もしなきゃ!

「リヴァイ、明日買い物付き合って!」

「構わないが、」

「やった!じゃあリスト作っておくね!」

「あぁ」

ルンルン気分でシェルターから出た。
腕に着けている時計を見るとまだお昼前。ランチまでには時間が早いからCafeでお茶でも飲もうかと一歩踏み出した時だった。

「おい、ユヅキ。何か忘れてねぇか?」

腕を掴まれたのと聞こえた声に視線を向ける。リヴァイが眉間に皺を寄せて私を見ている。えっとこれは…「やだな、忘れてないよ。あの件でしょ?」ニコリと微笑むと、冷ややかな顔で「そうだ」って一言。

「とりあえず歩こ、ね?」

エルヴィンに見つかる前みたいにリヴァイの腕に自分の腕を絡めると、無言で歩き出した。
私に歩幅を合わせて歩くリヴァイの横顔は綺麗だ。
自慢じゃないけど、この顔と隣り合わせで歩ける女はわりと少ないんじゃないかって思う。
身長は低いけれどリヴァイの品の良さと綺麗な顔はレベルが高く、今だリヴァイと話すのに緊張しているスタッフは多かった。

「リヴァイは私と離れたくないんだよね?」

さっきの質問に質問で返したら怒るかな…。私をチラリと見たけれど、すぐに空へと視線を移す。吐き出す息はまだ白くコートを着ていないと外も歩けはしない。
冬程、人肌が恋しい季節はない。

「俺はユヅキに聞いてる」

「うん、知ってる。あのねリヴァイ、私ね…愛も恋も好きも嫌いも、ないの。だからあの日、リヴァイに付き合ってほしいって言われて付き合ったけど、リヴァイを好きかも分からなくて…別れた後も悲しいとかそーいう気持ちも分からなくて…おかしいよね、こんなの。もういい歳した大人なのに。愛ってどんな?…マルコが言ってたの、人を愛し、愛されるのは宝物だって。私にはそれが分からない。リヴァイの事、人として大好きだよ。でもそれ以上でも以下でもないの。きっとみんな本当の私を知ったら離れていく…ーーそれが怖くて隠してた。好きなフリをしてた、ごめんなさい…」

黙って聞いていたリヴァイは、顔色一つ変えない。
でもきっと怒ってる。そりゃ怒るよね。ずっと嘘ついてたんだもん。
ずっとリヴァイを好きなフリして傍にいたんだもん。
リヴァイがどんな気持ちなのかも分からない。
このまま嫌われても仕方がないと思っーーーー「リヴァイ?」…急に力強く腕を引かれてリヴァイの胸にギュッと抱きしめられる。
肩に顔を埋めるとリヴァイの香りを強烈に感じて…少し懐かしさを覚えた。
こうしてよく抱きしめてくれたね、あの頃も。
その腕の中はいつでも安心できた。それなのにどうして私はリヴァイを愛せてないんだろうか。

「クソ野郎、なんでさっさと言わねぇんだ。お前の心がねぇのはとっくに分かってた。なんか闇抱えてんのも。けどな、俺はどんな事でも受け止めると誓った。安心しろ、俺が愛を教えてやる。他の誰でもない俺がユヅキの最初で最後のオトコだ。もう離れんじゃねぇよ、」

胸の奥がぎゅっと掴まれたかのように痛い。でもその痛みはどうしてか、柔らかいもののように思えた。

「リヴァイ… 」

「愛してる、ユヅキ。」

ととととと、路地裏に私を連れ込むリヴァイは、壁に背をつけた私に迷うことなく唇を重ねたーー



❀遅感❀