なんだか心がポカポカしていた。
自分の心の奥底にある本音を意外とみんな受け止めてくれるんだって思うと、今まで黙っていたことが悔やまれる。こんな事ならもっと早く言えばよかったと。
ずっと隠して付き合っていたリヴァイが受け止めてくれた事は私にとっては大きくて。
実弥との事、ジャンに想いを伝えられた事なんて、すっかり頭の中から消えていたんだ。
具体的に何をするとはリヴァイは言っていなかったけれど、久々にリヴァイと手を繋いで、その温もりはなんだか少し恥ずかしかった。
「じゃあまた明日ね」
「あぁ」
部屋の片付けをするからと、ランチをご馳走になった後、家までタクシーで送ってくれたリヴァイは、わざわざマンションのエントランスまで一緒に来てくれた。そこでギュッと抱きしめられて優しく頭を撫でられる。付き合っている時もリヴァイは十分優しくて甘やかしてくれたけど、それ以上にリヴァイの私を見つめる視線が甘くて嬉しい。なんだかんだで私もリヴァイとこうして戻りたかったんだって思える。
これがゆっくり愛になっていくんだって、思える程の心の余裕があったんだ。
そんなルンルン気分な私と裏腹、家に帰るとハルがリビングのソファーでポツンと膝を抱えて座っていて、一気に辛気臭くなった。
さすがに同期組はみんな帰ったらしい。
「は?すげぇ雨雲背負って見えるけど、その背中。まぁいいや、とりあえず大事な話があるんだけど、いいかな?」
荷物を置いて自分もソファーに座るとハルの真向かいで一つ息を吐き出した。
何か言いたそうなハルの顔。だけど私はそれを無視してシェルターができるまでここで猫の観察をしたい!という事を伝えた。
「いいよ、いいに決まってる!そーいうのなら私も協力するよ、ユヅキ。昔から興味持ってたもんね、動物保護の事とか。…ユヅキはちゃんと夢を持ってそれを実現させてる、私とは大違い。…ユヅキが羨ましい。」
きっとなんかあったんだと思う。
煉獄杏寿郎と何か。あの金髪、ハルを傷付けたらぶん殴ってやる!!そう心の中で思うものの、ハルから話してくれない事には何もできない。
「何を今更!でも人と比べなくていいと思うの。ハルはハルのままでいいとこいっぱいあるんだからさ!私が一番よく分かってるよ。こんな自由に生きてる私を面倒見てくれるのなんてハルぐらいしかいないし。ね、だからとりあえず掃除、手伝って!」
双子だからだいたい考えている事は分かる。でも時に言葉にしないといけない事も多くて、お互い自分の事を人に話す事が苦手な私とハルだけれど、リヴァイとの事を話したいと思ったんだ。
ただ、ハルが抱えている悩みは想定外だったのだけれどーー
◆
一通りの掃除が終わって明日リヴァイと必要な物を買い揃えて設置すれば、いつでも猫を迎えられる準備はできた。
私たち双子の個人部屋の他、客室3室ある内の一つをシェルターに変えようと思っている。
「あーお腹空いたぁ!!ケータリング頼む?」
「ユヅキは金遣いが荒いんだよー。適当になんか作るから紅茶でも飲んで待ってなさい」
「はーい!じゃあ先にシャワー浴びてくる!」
「はいはい」
私が渡米している間もハルが定期的に掃除をしてくれていたんだろう、それほど汚れていた訳では無いけれど、配置換えや危険な物はなるべく置かないように、スペースを取れるようにって模様替えしたせいで、せっかくマッサージして貰った身体は、既に疲れきっていた。
シャワーを浴び終えて出て来た所でハルから届いていたLINEを思い出す。
「そういやデートの服、決まったの?」
あっけらかんと言う私に泣きそうな顔で振り返った。
「は、え?えっ!?何だって、えっ!?アルミンって、あのアルミン!?」
テーブルに料理を運び終えたハルが、椅子に座るなりポツリと呟いたんだ。
煉獄杏寿郎とのデート云々ではなく、「アルミンと寝た…」と。
ハルの言う寝たが、どうにもセックスに繋がらないのは、ハルが昔からそーいう事に疎いからであって。
膝を抱えて顔を埋めるハルの前、アボカドサラダをバリバリ食べる私を見て「アボカド残しておいてよぉ!ユヅキ!」なんて顔を上げたんだ。
「昨日みんな寝ちゃった後、もう少し話したいって言われて。…正直私もアルミンと話すのは苦じゃなかった。煉獄先生の事が好きだって気持ちはあるし、初対面のアルミンに対して好きなんて気持ちは当たり前にないんだけど、…キスされて心地よくて…そのまま流された。…もう明日のデートなんて行けないよ。こんな気持ちじゃ楽しめないし、でも無かったことになんてできない。」
ベソベソと泣き出すハルを見て、その色白の首元に一つ紅い痕がついていることに気づいた私はハルとアルミンの事が嘘じゃないと理解した。
「タイプ…じゃないよね?…ハルはたぶんマルコみたいなオトコがタイプなんだと思ってたけど。あんたは酒が入ると普段大人しい分開放的になるんだから初対面のオトコとなんて飲んじゃダメでしょ!」
自分でも十分分かっているって顔のハルは「おっしゃる通りです」なんて言った。
「まぁでもヤッちゃったもんは仕方ない。大事なのは過去を悔やむ事じゃなくて、これからどーするか、じゃないの?」
私の言葉にキョトンとした顔のハルがほんのり眉毛を下げた。
それからアボカドをゴクリと飲み込むとその口を開く。
「え、なんかユヅキがまともな事言ってるね。」
いやどの口が言ってんだっつうの!思わず睨むとヘラッてハルが笑う。そーやっていつも笑ってればいいのにって思う。変に真面目ぶってるハルより、素直に笑っている方が余っ程可愛くて好きだ。
「アルミンには好きとか言われたの?」
「…好きになったって、」
「なるほど。で、ハルはアルミンと今後付き合うとかそーいう気はないんだよね?」
「うん。アルミンには悪いけど、私は煉獄先生が好き。でもだからって、今のままじゃ煉獄先生に好きなんて口が裂けても言えないけど」
「まぁいんじゃない?アルミンの事はほおっておけば。うちに来ることなんてまずないだろうし、なんかあれば私もいるし。ハルも女だったって事だよねぇ!」
ニカッて笑うとブンブン横に首を振るハル。スパークリングワインをごくごく飲み干すと、グラスをテーブルに置いて濡れた口元を手の甲で拭った。
「そんなユヅキみたいに軽くサラりと終わらせられないよぉ!!そもそもユヅキは不死川先生の事どうするの?…たぶんだけど不死川先生、ユヅキにまた逢いたいって思ってると思うよ?」
別に忘れていたわけじゃない。いや忘れてたか。
実弥の温もりは悪くなかった。身体の相性も悪くなかったし。でも、リヴァイと元サヤに戻った今、リヴァイ以外のオトコは私にとっては必要ない。
私はサングリアを一口飲むと生ハムの乗ったクラッカーをパクリと口に頬張る。咀嚼音を出して噛み砕いて飲み込むと、ふう〜と息を吐き出す。
さて、何から話そうかな…
「それなんだけどねハル、私…あっちで付き合ってた人と、よりを戻した。彼の事本当に好きかも分からないまま付き合ってた訳で。お互い忙しいから別れたいって言ったあとも悲しみなんてなかったし、やっぱり私は人の事愛せないんだって思ってたんだけど、…今朝マルコに言われたの。信じて飛び込めって…それで彼にそーいう自分の事を話したらね、教えてくれるって、愛を。私の最初で最後のオトコになるって…。うん、なんかすごく嬉しくて。間違いのない人だからね、嘘ついてたっていうか、気持ちがなかったのに傍にいた事を怒るかな?って思ったんだけど、そーいうのもお見通しだったみたいで。…嬉しかったんだ。リヴァイが変わらず私を好きでいてくれたのが。だからね、実弥にはすごく申し訳ないと思ってる。でも私、リヴァイを信じる。ーー私たちってさ、たぶん偏ってるじゃない、普通の家族と比べたら。だから恋愛するの難しいって思ってたんだけど、今はリヴァイを信じることが嬉しくて、リヴァイの愛を確かめたいって思ってる。こんな気持ちになるのは初めてで恥ずかしいんだけどね、ハルには私の事ちゃんと話して起きたかったから。」
…目の前のハルは、アルミンの事を口にした時よりずっと真っ赤な瞳で、瞬きをするとポロリと涙が零れ落ちた。
え、泣いてる!?げ、なんでぇ!?
ギョッとしている私の手をギュッと握ると「よかったね、ユヅキ。うー」ボロボロ涙を流して泣いている。
「てゆうかあ、ずっと私の事一人にしてぇ、すっごいすっごい寂しかったんだよおっ!!ユヅキLINEの返信くれないし、連絡もほとんどこなしいさぁっ。私一人で頑張ってきたんだからぁっ!!もーどこにも行かないでよおっ!」
ぎゅうっと抱きつくハルに軽く引いたけど、それでも世界でたった一人の大事な妹がここに居てくれてよかったと思わずにはいられない。
そういえばハルは昔から私の後ろばっかり着いてきていたよね。私が隣にいれば強気にもなれてたし。
そんなハルを一人置いて行った私なのに、こんなにも泣いて喜んでくれて、十分幸せじゃんね。
「ふふふ、泣き虫だなぁハルは。安心して、もうどこにもいかないから!ね。」
フワリとハルの柔らかい髪を撫でるとワンワン泣いていた。
寂しさも辛さも色んな物が混ざってずっと一人で耐えさせていたと思うと申し訳がない。だからしばらくはハルとの時間を大切にしてあげようなんて思えた。
しばらく泣いてスッキリしたのか、泣き止んだハルが興味津々に聞いたんだ。
「リヴァイさんって、どんな人?」
❀大切だから話したい❀