目を閉じれば愛が溢れている

19時過ぎに荷物が届くと、それを全部リヴァイと一緒にシェルター部屋に設置する。キャットタワーにトイレ、猫ベッドと爪とぎ。
明日迎える猫ちゃんが快適に過ごせるといいと、色んな工夫をして部屋からでた。

「ハル、ご飯どーするんだろ」

時計の針は20時を過ぎた頃だ。キッチンでは料理上手なリヴァイが私のリクエストに答えるべくタラスパを作ってくれていた。
よく見ると量があきらかに二人用じゃない。

「妹も好きか?」

「うん。リヴァイありがとう」

「あぁ。ユヅキの妹なら俺の妹も同然だ」

サラりとそう言ったリヴァイは、混ぜ合わせたパスタを小さなフォークでくるりと巻くと、それを私の口元に運んでくれた。
つい目の前に差し出されたそれを口に頬張るとやっぱり美味しくて。お皿に綺麗に盛ったソレをスマホのカメラで写してハルのLINEに送り付けた。

「何かあれば、俺も力になる」

ふわりとリヴァイの温もりに後ろから包まれる。こんなにも安心出来る温もりがあるなんて知らなかった。そして初めて知るーーリヴァイがこんなにも愛に溢れた人だと。
くるりと振り返るとリヴァイと正面から向き合う。
オトコにしては小柄なリヴァイとは身長差があまりない。至近距離で見つめる瞳はすごく綺麗。

「リヴァイはユヅキと結婚してくれるの?」

アルミンの事も、今のハルの事も、まるで身内扱いだった。リヴァイの手が私の顔にかかった髪を優しく解いてくれて、腕を首にかけて近い距離が更に縮まる。

「そのつもりだ。なんだ?不満なのか?」

「そんな当たり前に言ってくれるなんて思ってなくて、」

「他にいねぇだろ、ユヅキの事幸せにできるオトコなんて。お前の様なジャジャ馬は俺にしか相手は務まらねぇぞ」

「リヴァイ、…好き。」

心の底から出た言葉だった。リヴァイを信じるって決めてから私の中でのリヴァイへの気持ちに歯止めがきかない。
付き合っていた頃とは違いすぎるこの感情。ずっと欲しかった愛がすぐ傍にある。細く見えても触れた肉体には重たい筋肉がついていて、そこに顔を埋めると迷いなく抱きしめてくれる。

「なんだ?抱いて欲しいのか?それなら今すぐ抱いてやるぞ」

「ばか。言いたくなったの、好きって。リヴァイがあんまり嬉しいことばっかり言うから」

「当然だ。お前をこれでもかってぐらい惚れさせるのが俺の役目だ」

「ふふふ。じゃあもっと好きになる」

「あぁ、もっとだ」

何気ない日常も、好きな人か隣にいるというだけで嬉しくて色づいて、ハッピーだ。
これから先、ずっとこの人の傍でこの人を見ていたい…そう思わずにはいられない。

けれど…この日が、嵐の前の静けさ…とでも言うべきか、リヴァイとゆっくり過ごす最後の日になるなんて。






シェルター部屋には三台のカメラも設置されていて、それが研究所と繋がっている。あちらからの監視も勿論できるし、いざという時、猫たちが急変した時にいつでも研究所のドクターが来れる様にと、リヴァイが設置してくれた。

昨日ハルが帰ってきて私の顔を見た瞬間泣き出した事が頭を掠めたけれど、目の前の猫を放っておく事は私にはできない。
煉獄杏寿郎とのデートはうまくいかなかったんだって分かる。

今朝、リヴァイと一緒にエルヴィンの所に顔を出すと既に5匹の傷猫が私を待っていた。
応急処置は施されてはいるものの、まだまだ投薬や経過観察が必要な子ばかりで気は抜けないと思えた。

「それでユヅキ。一件保護の依頼が入っていてな。リヴァイ班の誰か一人連れて保護にも行って欲しいと思ってる」

「なら俺が一緒に」

「いや、リヴァイ。リヴァイにはすぐこちらの会議に立ち会って欲しい。お前の意見が必要だ」

チッ…。リヴァイが舌打ちをしたけれど私はそんなリヴァイの腕に触れて「大丈夫、マルコと行ってくるから。ね?」すこぶる不満顔を見せたリヴァイだけれどポンと一つ私の髪を撫でると「なんかあればいつでも俺を呼べよ」クシャっと髪を撫でると視線をエルヴィンに戻した。

そんな訳でマルコと一緒に捕獲器を設置して一晩待つことにした。
朝になったらきっと猫が入っていると信じて。

シェルターに戻った私はそれから猫達を一匹づつお風呂で洗った。
ノミや小さな怪我も沢山あって、外の生活の過酷さを無言で物語っていた。

「もう大丈夫だよ〜今日からキミたちはみーんな私の子供だからね。安心してね。」

人に慣れていようがいまいが、傷ついた猫を放っておく事はできない。怖くて暴れて引っ掻かれた傷痕が私の腕に何ヶ所もついていたけれど気にならない。
とにかくこの子たちを乾かしてあげないと。

「ユヅキ、手伝いにきた」

振り返るとジャンとアルミンだった。もうそんな時間?
ジャンに告白された事すらすっかり頭から抜けていた私は、さも何もなかったかのようにジャンにドライヤーを頼んだ。
最後の一匹をお風呂場から連れて来たマルコは先程ハルが作ってくれたおにぎりを口に咥えている。
めっちゃお腹が空いてた私はそんなマルコをジーッと見つめていると苦笑いでおにぎりを私の口に運んでくれた。

「変わるよ、少し休めよ、ユヅキもマルコも」

ジャンが私の乾かしている猫も自分の方に引き寄せて二匹一緒にドライヤーをかけてくれる。

「ありがとうジャン!」

「あぁ。その変わり、後で話ある」

その真剣な眼差しに、昨日かかってきた電話にリヴァイが勝手に返事をしたことを思い出した。ハッとした私に「お前、忘れてたな?」なんて言葉。
苦笑いでジャンに謝るとこれまた不満顔で小さく溜息をつかれた。


それからマルコは帰って行ってうちに残るのはどっちにするか?って話になって。
別にハルもいるしいいって言ったけれど、ジャンが譲らなかった。

「ユヅキは朝からずっと世話してんだ。マジで少し休まねぇとこれから持たせねぇぞ、身体」

「人をお婆さんみたいに言わないでよねジャン!」

「ばーか、心配してんだ。お前はいつも無理ばっかりしやがるからな」

クシャッて私の髪を撫でるジャンにチラリと三台のカメラに視線を移す。研究所でもしもリヴァイが見ていたらこーゆうの、妬くのかなぁ?なんて思うとちょっと胸がザワついた。でも確かリヴァイは、目の届く場所なら…そう言っていたから、ある意味ここは絶好の場所なのかも。

アルミンがトイレに行って少し休憩している今、ここにいるのは私とジャンの二人きり。

「あのジャン…」

「あぁ?」

「リヴァイとの事だけどね。」

「あぁ…」

「電話で言ったことは事実で。ジャンに好きって言われた後、リヴァイにも自分の気持ちを話したんだけど。その時嫌われるんだろうなって正直思ったの。でもリヴァイは逆で、そんな私ごと受け止めて受け入れてくれてね。一緒に未来を見てくれるって約束までしてくれて。その瞬間から私、リヴァイの事しか目に入らなくて、リヴァイへの想いに歯止めがきかないというか…大好きなの。だからジャンの気持ちは凄く嬉しかったけど、その気持ちには答えられない。本当にごめんなさい。」

その場で頭を下げる私を見てジャンは「いや、いいよもう、つーか俺そんな真面目にユヅキに考えて貰えたんだってそれだけで嬉しいかも。いや諦めるよ、班長相手に戦うオトコなんていねぇだろうし、俺もリヴァイ班長にならユヅキを安心して預けられる。だから気にすんな、な?」ポンと私の頭を撫でるジャンに、カチって音がしてカメラ横にあったスピーカーから「ジャン、触っていいとは言ってねぇぞ、今すぐ俺のユヅキから離れろ、」聞こえた声に目を大きく見開いた。

「え、リヴァイ?」

「そうだ。こんな事もあろうかと繋げておいて正解だった。ユヅキはもう寝ろ。後はジャンお前がしっかり見とけ、」

スピーカー越しなのに、そんな事すら嬉しくて思わず頬が緩む。
一歩間違えたらストーカーのような行為であろうとも、相手がリヴァイと言うだけでそれは嬉しさに変わる。そして、離れ離れの仕事になってしまった事を少なからずリヴァイも寂しいと思ってくれていたんだと理解した。
カメラに向かって手を振る私に「ゆっくり休めよ」優しいリヴァイの声が届く。
視線をジャンに移すと「お休み、ユヅキ」苦笑いで言われた。
立ち上がって私が部屋から出ると、すれ違うようにアルミンがこの部屋に入ろうとしていて。

「アルミン、後はお願いね」

「あ、うん。ゆっくり休んで、おやすみ」

ニッコリと微笑む白衣姿のアルミンからは、ハルが煎れたのか、紅茶の香りがした。



❀目る❀