「奈々先生は、天元先生にあげるんですか?」
近づくと真面目な顔で雛にそう言われる。い、いきなりだなぁ。ここであげると言ったらきっと3人ともあたしに敵意剥き出しでくるんだろうって分かる。分かるけど…
「先生はあげても義理チョコだよ。あなた達は本命?」
「はい。天元先生に想いを伝えます!」
だから、邪魔しないでよ!…まるでそう続きそうな顔だった。…確かに天元は生徒にも人気がある。きっとあの子達の他にもあんな風に本気で好きな生徒も沢山居るんだろうって思う。
「頑張ってね、」…そう言う前に「奈々せんせー!」他のテーブルから名前を呼ばれた。
ちょっと、助かったって思ってしまう辺り、あたしはこの子達をライバルとして見ているのだろうか…。
天元は、年齢も立場も関係無しに人を人として好きになるような人だと思うから、生徒相手だとしても、気は抜けない気がした。
◆
授業が終わると早速廊下で彼氏や友達にチョコを手渡す子の姿が見えた。
お昼休みに突入した為、作ってきたお弁当を取り出して職員室のデスクの上に広げる。
向かいに座っている不死川はパンを齧りながらもチラチラとゆき乃のデスクを見ている。
不死川の隣では冨岡先生が大事そうにお弁当を取り出す姿があって、クスっと笑うと冨岡先生と目が合った。
「なんだ?奈々先生。」
「いいえ〜別に〜。愛妻弁当いいですね〜って思っただけですよ!」
美月に冨岡先生と付き合う事になったって聞いたのはほんの2日前だ。お弁当なんてただの一度も持ってきた事ない冨岡先生だから、それを誰が作ったのかは一目瞭然だった。
「俺が食べてみたい…と言ったら作ってくれたんだ美月が。可愛いだろう、美月。」
まるで付き合いたてのカップルみたいな冨岡先生の緩んだ顔に不死川は思いっきり大きな舌打ちをした。同時に職員室に入ってきたゆき乃とインターナショナルのリヴァイ先生達。
先程ゆき乃が作ったチョコレートは、既にリヴァイ先生の手元に大事そうに収まっている。
「紅茶でいいですか?」
「あぁ、悪いな。」
揃って入ってきた2人に不死川は目を真ん丸くして凝視しているけれど、当の二人は全く気づいていない。なんかさ、なんかさ、二人、すごーくいい感じじゃない?あたしは立ち上がると給湯室にいるゆき乃の方に歩いて行く。音に気づいたゆき乃が振り返る。
「奈々!おつかれ〜!」
「ゆき乃もおつかれ〜!ご飯一緒に食べよ!」
「うん、勿論!」
「チョコ、リヴァイ先生にあげたの?」
「そこで偶然会ってね、なんだそれは?って聞かれたから手作りって言ったら欲しそうな顔したからあげちゃった!」
「実弥先生には?」
ガシャガシャってゆき乃がマグカップを落とす。ガラスじゃなかったから割れずにすんだけれど、紅茶は流しに綺麗に流れてしまった。
これはやっぱり何かあったんだって笑うあたしを振り返ったゆき乃は「奈々!今わたしめっちゃ不安定!」なんて泣きそうな顔で言う。
こんなゆき乃を見るのは何時ぶりだろうか?
もしや、学生の頃、ぶり??
「今夜詳しく聞くから!」
「奈々様!よろしくお願いします!」
ゆき乃との約束を取り付けてあたし達はデスクに戻った。
と同時、可愛らしいお弁当箱を手にした天元がデスクに戻った。思わず見つめるソレは明らかに天元の物ではなく…「宇隨、なんだそれェ、」不死川の問いかけにニカッと笑った天元は「こりゃ雛達からだ!俺に食って欲しいんだとよ!」…満更でもないって顔だった。
だから、なのか…不死川の視線があたしに飛んでくる。こいつ、自分の恋愛は疎いのに、人の気持ちは分かってるの?矛盾した気持ちで不死川から視線を逸らす。
「お、卵焼きうまそうだな、一口くれよ、奈々!」
あたしの座っている椅子の背もたれに腕をかけて覗き込んでくる天元に悪い気はしない。でも、雛達が作ったお弁当を食べる天元にはあげたくない。
…生徒相手にヤキモチなんて妬いて許されるんだろうか?
それでも仕方なくあたしは箸で卵焼きを摘むと口を開けて待っている天元の舌にのせてあげた。
「派手好きな俺でも、これだけは絶品で譲れねぇなぁ!」
ポンポンとあたしの頭を撫でると満足そうに天元は自席に戻って雛達のお弁当をペロリと食べた。