考えたらあたし、天元の車の助手席なんて初めてだ。
「着いだぞ」
ボーッと景色を眺めていたあたしに聞こえた天元の声。
車を停めた天元はもう運転席から出て助手席のドアを開けてくれる。
「え、ここ、」
「あぁ。学校の裏だ。雛達に聞いた、意外と夜景スポットだって。」
天元の口から出る言葉は嬉しいはずなのに、情報源の雛がどうしても引っ掛かる。だから素直に喜べないのに、生徒相手にヤキモチを妬いてしまう自分の心が情けなくて何も言えなくて。
この夜景をあたしに見せてどうしたいの?
天元が何を考えているのか分からないから、それならゆき乃を一途に想う不死川の方がよっぽど好感が持てる。
無言のあたしを見た天元はいつもの余裕たっぷりな顔…ーーではなく、ちょっとだけ不安気な顔を見せた。
「ダメだったか?もっと派手な夜景じゃなきゃ気に入らねぇか?」
「え?夜景?」
「あぁ。奈々の笑顔が見れると思ったんだが、」
天元から目を逸らしたあたしは小さく聞いた。
「どうして雛と一緒に居たの?あんな所で。入ろうとしてた様に見えたけど」
さっきのラブホの巡回で、まさに雛と部屋を選んでいた天元は許し難い。
横の天元は更に眉毛を下げた。
だけど次の瞬間、ダーッと息を吐き出す。
「だ〜から嫌だったんだよ、こんな地味なこたぁ!おい聞け奈々、」
スッとあたしの手に天元の大きな手が重なったーー
「雛はな、親戚なんだ俺の。ついでに言やぁあいつが惚れてんのは俺の兄貴の方だ。勝手に俺の恋愛に口挟んできやがって、勝手にいらねぇ計画立てて、奈々の気持ちを見極めようとしてた、」
「あたしの、気持ち?」
「あぁ。俺に惚れてるかどうかだ。…だから俺に気のあるフリをして奈々がどうするのか試してやがって。いや散々止めろって言ったぜぇこれでも!けどまぁいつまでたっても動かなかった俺のケツを叩いてはくれたって訳だ。今は仕事も楽しいし不自由はしてねぇ。けどやっぱり奈々、お前の傍にいつでもいたいと思う。奈々が嬉しい時は一緒に笑って、悲しけりゃいくらでも抱きしめる。奈々にとっての、頼れる存在で在りてぇんだ俺は。…絶対に奈々を泣かせたりしねぇ。お前が好きだ。これからも俺の傍にいてくれねぇか?」
「うん、いる!いるよっ!!」
間髪入れずに二つ返事で天元に抱きついた。
まさか、生徒に心配されているとは…そこはちょっと不甲斐ないけれど…
安心したようにギュッと丁寧に抱き締め返してくれる天元の温もりに目を閉じる。
嬉しくて涙が溢れそうになる。ずっと欲しかったこの温もり。手を伸ばせば入る物なんてそうはない。だけど、傷ついてそれでも好きな気持ちは消えなくてそうやって手に入ったこの恋を、あたしは守りたい。
「ちょっと苦しい、天元…」
「あぁ悪りぃ。お前小せぇから折れちまいそうだな。抱き上げていいか?」
「え?無理!」
「遅せぇよ!」
急に膝の裏に手を入れられてそのまま横抱きにされる。俗に言うお姫様抱っこにめちゃくちゃ恥ずかしいけど、高身長の天元との身長差は半端なくて、すぐ傍に天元の綺麗な顔があってトクンと胸が脈打つ。思わずその綺麗な顔に手を伸ばして触れると天元が目を細めて笑う。
「なんだ?急に積極的だな」
「違っ。…綺麗だなって思ったの。こんな間近で顔見た事なんてなかったから。」
「好きなだけ見ろよ。全部奈々にくれてやる、俺の全部を…」
「天元…ーー好き」
「たく。言っておくが、もう我慢はしねぇからな。」
そう言うが、天元の手があたしの後頭部を固定する。近かった距離がゼロになるのが分かった。
星空の下、車を背に天元の綺麗な顔が視界を遮ってあたしの目に映るのは天元だけ。
一度軽く触れた唇は、ほんの少し離れると、今度はもう離れたくないって言っているかのように、強く触れ合った。迷うことなく舌が入り込んであたしの短めの舌を甘く堪能する。脳が痺れそうな濃厚なキスに天元の首の後ろに回した腕にギュッと力を込めた。
「愛してる奈々」
「もっと言って、何度も」
「おう、何度でも派手に言ってやる、奈々愛してるーー」
「あたしも。」
クスッて笑ってまた甘ったるい口付けに酔いしれる。
チョコより甘いこのキスに、天元への気持ちがまた一つ大きくなった気がするーー
ー完ー